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- エッセー作品「虹色の糸」岡島みさこさん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。岡島みさこさんの作品「虹色の糸」と青木さんの講評です。
虹色の糸
2人の兄が20代の時に、父が善かれと思ってしていたことを、それは理解できないと否定し、父の意図とは違う別の方向へ大きく転換させたことがあった。
妹の私は何も知らされていないことだった。親子のまっすぐにつながっていた心の糸はもつれて、その出来事の真実には触れることなく家族は重苦しい沈黙の中で暮らしていた。
家族の問題で相談を受けてきた専門家が、次のことを書いていた。
「家族とは不思議なもので互いを熟知しているはずなのに、何かをきっかけとして家族の中に他者をみる。
そして家族は放っていて勝手に良い状態になるようなものではなく、絶えず心を寄せたり気をつけたり心をこめてつながってゆく繊細なものである。」という内容だった。
大正生まれの父が10数年前に亡くなり、母がその5年後に旅立った時、兄弟妹3人が落ち着いて話しあいをする機会を設けた。
「私たち兄弟妹を育ててくれた両親には、感謝ですね。」と私が言ったところ、すぐに「むしろ迷惑のかけられっぱなしだった。」と冷たい言葉が1人の兄から返ってきた。
どうしてそんな心ないことを親に言えるのか、不思議だった。
両親への思いやりとか謙虚さに欠けていることに妹としてすごく悲しかった。
戦争という矛盾だらけの絶望的な時代を両親は生きてきた、という事実に思いをめぐらせたいと思う。
子どもとして一度も想像力を膨らませて考えることをしなかったことが、1つの原因ではないかと私は気づいた。
父は大学卒業後すぐに召集されて、満州へ出征し任務についた。
そこで当時は不治の病の肺結核を患い、墓場のすぐ横の寝床で死を待つという状況だったという。奇跡的に本国へ帰る船に乗ることができ、私たち子どもに命をつないでくれた。
母は家の事情で親娘がともに暮らせず、寄宿舎のあるカトリック系女学校へ入学し、7年間をシスターから厳格な教育を受けて卒業し、社会人として仕事をしていた。
戦前の家制度では親が決めた相手と結婚することが当たり前だった。
敗戦という戦後の大混乱の時代に、住居は進駐軍に占領された為に私たち子どもを育てるのに大変な苦労があったことを忘れないでいたい。
父母の心を察することができるのは、私たち兄弟妹3人だけだと思っている。
美術家の篠田桃紅さんの本に次の文言があった。
「真実は言葉にしないし、文字にもしえない。想像力を頼りにしなければ、語れないもの。
真実というのは、究極は、伝えうるものではない。目に見えたり、聞こえたりするものから、察することで真実に触れ感じる瞬間が生れるのかもしれない。真実は想像の中にある。」
この文言を私は、兄弟に伝えたいと思っている。
想像する力を持つことで、親の本当の思いに触れることはできると私は感じている。
たとえ親と子の心の糸がもつれたことがあったとしても、あるいは兄弟同士の心の糸がもつれたとしても、やがて時の経過とともにその糸もゆるんでほどけ、親への感謝の糸となると私は信じている。
2人の兄とその家族にももちろんその糸がつながっていくことと、大きな虹色の糸を思い描いている。
青木奈緖さんからひとこと
どこの家族も、過去・現在・未来を通していつも和気藹々と「まったく問題がない」などという夢物語はありません。
争いの種はいつどこに生じるかもわかりませんし、身内であっても、身内であるがゆえに、こじれることはあります。
この作品では時代の共通項である戦時中の出来事のみを描き、その後、一家の中で起きた行き違いについては具体的に書かずに表現することで、読者が自分の家族の歴史に照らし合わせて、共感できるようになっています。
家族とは何か。百人いれば百通りの答えが返るでしょう。この作品は家族というテーマと真正面に取り組んだ、誠実な一つの答えと言えます。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2022年1月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#3
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#4
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#5
- エッセー作品「虹色の糸」岡島みさこさん
- エッセー作品「いつの間にか親ばなれ」加藤菜穂子さん
- エッセー作品「短歌に寄せ」西山聖子さん
- 「独立国家の子どもたち」古河順子さん
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