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- エッセー作品「カマキリ」高木佳世子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コースの参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2回の作品のテーマは「卵」です。高木佳世子さんの作品「カマキリ」と山本さんの講評です。
カマキリ
大阪の町の中で育ったせいか、自然にうとい。
ぎっしりと家が建ち並び、どの家にも庭はなかった。
空を飛んでいる鳥は、すずめとハト。身近に見る虫は、ハエと蚊。草花も実際に見かける機会が少なかった。
大人になってはじめてスミレを見た時には余りのちいささにおどろいた。
図鑑でみていたスミレは、チューリップと同じ大きさだったので(どこかに草丈に関する註がついていたかも知れない)、すぐには信じられなかった。
結婚して東京の多摩地区に住みはじめると、毎日が新発見の連続だった。
家の周りにひろがる手つかずの雑木林、ある時、台所の窓の向うにあまり美しくない小鳥の姿が見えた。
すると、その小鳥の方から“ホーホケキョー”とさえずりが聞こえてくる。
「え、この鳥がうぐいす?」
「まあ、きれい」と思ったオナガは、ひどい声で“ゲーィゲーィ”と鳴き、ヒヨドリがあらわれると、急いで逃げてしまう、鳥の図鑑でたしかめながらバードウォッチングだ。
家の前でタヌキと目が合ったり、絵本を見てイメージしていたより、なんだか心もとないサイズのモグラに悲鳴をあげたり。
虫に至っては、はじめて実物を見るものばかり。
家の外の壁に大きなカミキリムシ、木の枝にナナフシ、阪神タイガースファンかと思われる(!)カラーリングのクモ。だんだんとおどろかなくなってきた。
しかしある日、お風呂に入って湯船につかった時だ。
入る時には全く気づかなかったのに、洗い場にカマキリがいた。体調は15センチくらいか、私に対してカマをふりあげ、にらみつけている――ように見えた。
「誰かー! カマキリー!」
家族に助けを求め外に出してもらった。こわかった。カマキリ恐怖症になった。
ところがである。今の家に越してきてから、玄関先に大変なものを見つけた。
大昔に教科書で見たカマキリの卵である。とってしまおうとしたが、さわることもできなかった。
そして見てしまった。おびただしい数のちっちゃなカマキリたちがちらばっていく所だ。
ものすごく小さいのに皆、ちゃんとカマキリだ。
ちょっと可愛くなり、「がんばれ!」と応援したくなる。
その年は、家の周りのあちこちでカマキリと会った。
へいの上で風にゆられてダンスをしていたり、車のボンネットでエンブレムの様にポーズをとっていたり。
残念なことに、車にひかれてペシャンコになった姿もあった。
恐さを忘れて気分はすっかりカマキリ応援団。
それからは、家の周りにカマキリの卵を探している。
山本ふみこさんからひとこと
カマキリの卵!
私にも覚えがあります。無数のカマキリの子どもを孵すのを見届けたことがあります。……なつかしいなあ。
自然にうとかったという作家が、あまりにちっちゃいスミレに驚く場面には、打たれました。そうして一度は恐怖を感じたカマキリと(いきなり裸同士の出合いですもの、無理もないです)、出合直しをする展開に、じーんとしました。
人は変わるものである。変われるものである。と、書き手は静かに正直に証明してみせるのです。拍手。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在第6期の講座を開講中です。次回第7期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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