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随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コースの参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2回の作品のテーマは「卵」です。小波さんの作品「名脇役」と山本さんの講評です。
名脇役
遠い記憶の彼方に、卵を入れた笊を抱えて慎重に歩いている私が見える。
4~5歳の頃だったろうか、私の中にある最初の卵の記憶だ。
田んぼ1枚隔てた隣の農家から、家族分の卵をもらってくるお使いだった。
その頃、毎日食べられたかどうか定かではないが、1人1日卵1個が普通の消費量だったと思う。
たまに、すき焼きで2個使ったりすると、とても贅沢な気がしたのを覚えている。
今から60余年前、卵は貴重な食べ物だったのだ。
ところで、成人して観たいくつかの映画の中で、卵が印象に残っているシーンがある。
その食べ方はそれぞれ違うが、共通して言えるのはその量の多さである。
1人1個からはかけ離れていた。
1作目は、「ひまわり」の中で、ソフィア・ローレンとマストロヤンニが演ずる新婚夫婦が、カゴ一杯の卵を盛大に割って作った特大のオムレツ……「すごい! あんなに食べるの?」とびっくり。
2作目は、「クレイマー、クレイマー」の中で、ダスティン・ホフマン演じるところの、妻に出て行かれた夫が、幼い息子の為に、朝、フレンチトーストを作るシーンだ。
ボールに数個の卵と牛乳を入れ、砂糖を入れてかき混ぜた中に、パンを浸してフライパンで焼く甘い朝食。
「え? こんな甘いものが朝食になるんだ!」とこれもびっくり。
そして、調理台に腰かけ、父親の作業を見ている息子と父とのやりとりに引き込まれたのを覚えている。
3作目は、「ロッキー」の中で、スタローン演じるところの主人公ロッキーが、朝早くロードワークに出かける前に、生卵を5個コップに割り入れ、一気に飲み干すシーン。
手っ取り早く栄養を取り入れる、主人公のストレートさに心をつかまれた。
それぞれの映画の中で使われていた卵は、私の知らない外国の匂いを運んできた。
今思うと、そこでの料理法は、それほど一般的なものではなかったかもしれないが、登場人物たちの悲喜こもごもを表すのに重要な役目を担っていたと思う。
卵は名脇役だったのだ。
山本ふみこさんからひとこと
ね、みなさんも観たことのある映画ではないでしょうか。
「ひまわり」
「クレイマー、クレイマー」
「ロッキー」
そうして、この見事な結び。
描き過ぎることなく、描ききってしまうのは、何もかも大袈裟にとらえ過ぎない、書き手の立ち方でしょうね。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在第6期の講座を開講中です。次回第7期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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