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- 「ペットになったせい子ちゃん」浜三那子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。浜三那子さんの作品「ペットになったせい子ちゃん」と青木さんの講評です。
ペットになったせい子ちゃん
娘が小学生のころ、隣駅の音楽教室へ毎週通っていたとき、同じビルの1階にあった西友ストアに鶏の雄の雛が無料で置かれていた。
春先のまだ薄ら寒い頃だった。娘が育ててみたいと言うので1羽貰ってきた。
4ヶ月も過ぎると「コケコッコー」と鳴くようになり、夫の実家へ持って行った。
そんなことをもう1度くり返したが、娘は今度は卵を産せてみたいと言い出し、3度目は雌の雛にした。雄は無料だったが雌は700円で買ってきた。ヒヨコは朝、目を覚まして夜眠るまで1日中「ピヨピヨ」と鳴いている。
うるせえのせいと、西友のせいを取って名前は「せい子ちゃん」となった。
最初はティッシュの箱に入れて室内で、羽根が黄色から白になるとベランダでダンボール住まいになる。朝、夫や子供達が出掛けていなくなると、家の中に入ってきて私の周りで過ごす。
あるときティッシュペーパーの箱を見付けて興味を持ったらしい。
1枚を嘴で引っぱると次々と出てくるので、夢中になって最後の1枚まで出してしまった。
やれやれひと休みと羽ばたいたら、部屋中に散らばっていたティッシュペーパーがふわふわと舞い上がった。
それを見たせい子ちゃんはパニックになって「コケーコッコ、コケーコッコ」と部屋中を駆け巡った。
またあるときは、娘のエレクトーンの蓋が開いていて、スイッチが入ったままになっていたらしい。
そこへ飛び上って着地したら音が出てきた。あわてて鍵盤の上を移動するとますます色々な音が出てくるのでパニックになり、部屋中を駆け巡った。
その後は、2度とエレクトーンには乗らなかった。
朝、皆が出かけた後
「せい子ちゃんお散歩に行くわヨー」と声をかけると「コッコッコッ」と鳴きながら玄関へ来て待っている。
我が家は団地の2階なので、階段を降りてすぐ目の前にある小さな公園で遊ぶ。
私はベンチに腰かけ、せい子ちゃんはクローバーやら虫やらを突いている。 知り合いの人が通りがかり私と話し込んでいたとき、野良猫がせい子ちゃんを狙った。
野良猫が襲いかかると、せい子ちゃんは飛び上り反対に野良猫に蹴りを入れた。
野良猫はビックリして逃げ出し、せい子ちゃんはそれを追っ掛ける。
走ったり飛んだりして1棟先まで行ってしまった。
どうしたものかと見ていたら、トコトコ帰ってきた。
6月の終わりごろベランダに置いてある洗濯機の硬い蓋の上に卵を産んだ。
小さいけれど黄身の色が赤に近いオレンジ色で味が濃くておいしかった。
1日置きに産んだので、鳴き声や臭いで迷惑をかけているご近所にもあげた。因みに大きな卵はおばさん鳥が産むそうな。
せい子ちゃんが卵を産んだことで娘も納得し、町田で鶏を放し飼いにしている自然食品を扱う店に貰ってもらうことになった。
日曜日に夫の車で連れて行き、経営者に挨拶をして20羽位いる中に置いて、早々に車に乗り込んだ。
すると声がするので振り向くと、せい子ちゃんが鳴きながら追い掛けてくるのが見えた。
夫はスピードを出して振り切った。後ろ髪を引かれる思いだった。
後日報告があって、夜は他の鶏といっしょに小屋で眠って、朝、目が覚めると母屋に来て1日中人の後を追いかけているとか。
そして台所のテーブルの上に卵を産んで、人気者になっていると聞き安心した。
鶏もペットになることを発見した思い出である。
青木奈緖さんからひとこと
鶏がこんなに感情豊かとは、実際に飼った経験がないとわからないものですね。ティッシュを引き出す話も、野良猫と闘うシーンもいきいきと楽しく、別れはなんとも言えず切なくなります。
鶏のせい子ちゃんと、せい子ちゃんを取り巻くご家族の様子が目に浮かぶようです。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2022年1月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#3
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#4
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#5
- エッセー作品「父の借金」田久保ゆかりさん
- エッセー作品「陽だまり」野田佳子さん
- エッセー作品「ペットになったせい子ちゃん」浜三那子さん
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