通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第2期第3回

エッセー作品「残照を受けて」古河順子さん

公開日:2021.08.02

「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。古河順子さんの作品「残照を受けて」と青木さんの講評です。

「残照を受けて」
エッセー作品「残照を受けて」古河順子さん

残照を受けて

夫が他界して、ひとりで暮らしはじめて1年余が過ぎました。

「お寂しいでしょうね」と、よく声をかけて頂きますが「はあ、まあ」といつもあいまいな返事。
コロナ禍で今は会えていませんが、子供達や妹弟も、サークル仲間もいます。1人で暮らしているけれど、ひとりぼっちではないという気持のせいでしょうか。
だからといって寂しくないといえばうそになりますが、最近はひとり暮らしの心地良さも捨て難いものになってきています。

慣れぬ手続きにとまどった相続関係の片付けが終ったあとしばらくは、何をする気にもならなかったけれど、ある時、あ、これからは全部自分の時間だ、何でもやりたいことがやれるのだ……と思い至り、気持を切りかえることができました。

毎日の日課はほぼ決まっています。
目覚めると先ず朝の空気を深呼吸、化粧は必ずします。食事もきっちり3食頂きます。プランターのサラダ菜・パセリ・小ねぎなどが役立っています。
筋力維持のためにはウォーキング最低7000歩が目標ですが、面白いことに日頃悩まされている膝関節痛は、せっせと歩きまわるほど翌日に痛みが楽になるのが分ったのでできるだけ歩いています。
年をとると怖いのが骨折。家の中でつまずいて骨折し寝たきりになったという例が身近に多いので、気をつけています。
入浴も緊張します。風呂場で救急車はいやなので、しっかり手摺をにぎって慎重に。義母の介護の際に廊下、風呂場に手すりをつけ、夫の時にはさらに玄関の外にも内にも増やしたので家中どこでもつかまるところがあって今は大助かりです。

17年前に2人の老後のために建てたこの家は、バリアフリーで床暖房、業者のすすめるままにエレベーター迄つけて、子供達にあきれられましたが、80才を過ぎたひとり暮らしの身にはまことに有難く、快適な住みかになっています。

朝夕、夫の遺影を前にあれこれ話しかけたり相談したりしていますが、1日中誰とも話をしていない日が続くと、おしゃべりしたくもなります。かといって友人に電話をするのもなにかしらためらいがあり、結局がまんです。

1才違いの夫の弟も10年近く広い1軒家に1人暮らしなのですが、時々夜9時過ぎに電話がかかってきます。
「あのな別になんにも用事ないんやけど今日は誰ともしゃべってないので……」と。
彼の茫洋とした話しぶりにつられてつい話込んでしまいます。
大丈夫やでと元気そうにふるまっている彼が不意に感じている言いようのない淋しさが分かる自分に気付かされている時でもあります。

ひとり暮らしの自由、気楽さと背中あわせに、ふとしのびよる孤独な思いに苛まれる時もありますが、折角の残された時間を大切にきれいに使い切りたいと願って過ごしております。

 

青木奈緖さんからひとこと

旦那様を亡くされたあとの日常が描かれています。一人暮らしを楽しむといっても、日々漫然と過ごすのではなく、日課を決めて、自分の体をメンテナンスし、怪我しないよう細心の注意も払い、その上に楽しみがついてくることがわかります。

「きれいに生きる」という気構えに、心震えるような思いがしました。若輩の私もこうありたいものと思います。

 

ハルメクの通信制エッセー講座とは?

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。

第3期の募集は終了しました。次回第4期の参加者の募集は、2022年1月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから

■エッセー作品一覧■

 

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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