安静時・就寝時も胸痛が!更年期女性に多い胸痛

医師監修│更年期の胸の痛みの原因は微小血管狭心症?

横倉恒雄さん(横倉クリニック)
監修者
横倉クリニック
横倉恒雄

公開日:2022.09.02

更新日:2024.08.19

更年期の胸の痛みの原因としては、更年期症状、乳腺症、微小血管狭心症などが考えられます。中でも、診断されず見逃されやすい「微小血管狭心症」はどんな病気なのか、診断や検査方法、治療法や予防法などについて医師監修のもと詳しく解説します!

更年期女性に多い胸の痛みはなぜ起こる?

更年期女性に多い胸の痛みはなぜ起こる?

更年期になると、これまで分泌されていた女性ホルモンの量が急激に減少することで、胸の痛みが起こることがあります。

胸の痛みは更年期症状の一つでもありますが、他の病気が隠れていることもあり、気になる症状があれば早めの検査が大切です。

更年期症状の一つで乳房や乳首(乳頭)が痛むことがある

更年期には、さまざまな不定愁訴が現れることがあります。更年期障害と呼べるほど強く症状が出る人もいますが、ほとんど症状を感じない人もおり、症状の現れ方は人によって大きな違いがあることが特徴です。

更年期症状の主な症状としては、のぼせやほてり、ホットフラッシュ、倦怠感、手足の冷え、肩こり、腰痛、動悸、頭痛、耳鳴りなどが知られています。その他にも、乳房の痛みや乳首(乳頭)の痛み、ピリピリ感も代表的な症状の一つです。

婦人科や乳腺外科などでマンモグラフィや超音波検査をしても関連する異常が見られない場合、更年期症状として乳房や乳首に痛みが現れている可能性が考えられるでしょう。

乳腺症

女性ホルモンのバランスが崩れることによって起こる生理的変化である「乳腺症」が、胸の痛みの原因となっている可能性も考えられます。乳腺症は乳腺炎や乳がんのような明確な病気ではなく、「年齢を重ねる上で乳腺に起こる変化・状態」を表すものです。

乳腺症は女性ホルモンのバランスが大きく崩れ、閉経に向かう40~50歳の方に多く見られますが、閉経後の60代以降は激減します。乳腺症では、主に以下のような症状が見られます。

  • 胸の痛み(圧迫すると痛みが強くなる。痛みは生理周期と連動する場合と、連動しない場合がある)
  • チクチク痛む
  • 母乳のような分泌物が出る
  • 胸の張り
  • 胸の横やワキが張る、つる
  • しこり など

乳腺症でのしこりは問題ありませんが、乳がんの場合は早期に治療を開始する必要があります。「乳腺症だから」と自己判断して放っておくのではなく、しっかりと病院で検査することが大切です。

なお、乳腺症は病気ではないため治療は必要ありません。しかし、乳房の痛みが強く日常生活に支障をきたしている場合などは、ホルモン剤や鎮痛剤を使って治療します。

微小血管狭心症

心臓に血液を供給する冠動脈が動脈硬化などによって狭くなると、うまく血液が流れなくなります。胸に痛みが起こる病気を「狭心症」といいます。

しかし、更年期を迎えた女性の中には、冠動脈には異常が見られないにもかかわらず、胸の痛みを感じている人が一定数います。

「微小血管狭心症」とは、更年期の女性の約1割がかかる心臓病です。微小血管狭心症では、冠動脈の末梢にある髪の毛のように細い血管が一時的に収縮することで、発作が起こります。胸の痛みが長時間続くのが特徴で、命に直接かかわることはないものの、生活の質(QOL)を下げる原因になります。

この後の項目からは、更年期女性に見られる微小血管狭心症について詳しく解説していきます。

更年期女性に見られる微小血管狭心症とは?

心臓を取り巻く冠動脈の末梢には、微小冠動脈という細い血管が張り巡らされており、心臓を動かす心筋に栄養や酸素を届けています。この微小冠動脈が異常に収縮したり、十分に拡張しなかったりすると、心筋に十分な血液が行き渡らなくなり、胸の痛み(胸痛)などの症状が起こることがあります。

微小血管狭心症は狭心症のように突然死の危険はないものの、治療せず放置すると「HFpEF(ヘフペフ)」と呼ばれる心不全を発症する可能性があるため、治療の必要があります。

微小血管狭心症はまだあまり知られていない病気で、胸の痛みを感じていても正しく診断されず、長い間、痛みや不安を抱えている人もいるようです。原因不明の胸の痛みで悩んでいる人は、専門病院で詳しい検査を受けてみましょう。

微小血管狭心症の症状・特徴

微小血管狭心症の症状・特徴

微小血管狭心症は、更年期の女性に多く見られることが特徴です。一般的に、狭心症では急に胸が締め付けられるように激しく痛みますが、微小血管狭心症の場合は痛み方が異なります。

微小血管狭心症の場合、胸の痛みの他にも以下のような不定愁訴が数分〜数時間持続することがあります。

  • 胸の痛み、胸部圧迫感
  • 動悸
  • 息切れ、息苦しさ、呼吸困難
  • 消化器症状
  • 放散痛

ここからは、微小血管狭心症で見られる症状をそれぞれ解説していきます。

胸の痛み、胸部圧迫感

微小血管狭心症では、胸の痛みや胸が圧迫されるような感じが起こります。

これは動作に関係なく起こり、運動しているときも、安静にしているときも無関係に生じます。痛みは数分〜数時間続き、酷いケースでは1日中痛むこともあるようです。

ステント治療(動脈硬化による狭心症の治療)を受けたのに胸の痛みが治らない場合は、微小血管狭心症や冠れん縮性狭心症の可能性があるため、詳しい検査をする必要があります。

動悸

動悸とは、胸に手を当てなくてもドキドキ、ドクンドクンと鼓動が大きく強く感じたり、ドキッと一瞬胸が詰まるように感じる状態のことです。

脈動を強く感じる、早く感じる、脈が飛ぶなど感じ方は人によって異なりますが、微小血管狭心症では動悸が起こることがあります。

息切れ、息苦しさ、呼吸困難

息が苦しい、息切れをする、息を吸っても足りないような感じがするなども、微小血管狭心症で見られる症状です。

消化器症状

微小血管狭心症では、胃痛や吐き気などの消化器症状が見られることもあります。

胸の痛みや消化器症状は「逆流性食道炎」でも同様に見られるため、胸焼けや口の中が苦い、酸っぱい感じがするなどの症状も感じている場合は、逆流性食道炎の可能性も考えて検査を受けてみるといいでしょう。

放散痛

放散痛(関連痛)とは、病気の原因となる部位とはまったく別の離れた場所に痛みが現れる症状のことです。微小血管狭心症の場合、胸の痛みやみぞおちの痛みの他にも、肩の痛み、背中の痛み、喉や顎、耳の後部などに痛みが見られます。

これらは更年期にも見られる症状のため、微小血管狭心症に気づかないことも。胸の痛みに加えてこれらの症状が改善せずにずっと続く場合は、一度専門の医療機関で詳しい検査を受けてみましょう。

微小血管狭心症の原因

微小血管狭心症の原因

微小血管狭心症が起こる詳しい原因はわかっていないものの、発作の誘因としては「精神的ストレス」「過労」「寒冷」「喫煙」「睡眠不足」が知られています。

また、微小血管狭心症の発症と深く関連しており、原因の一つと考えられているのが、「更年期」です。

女性は、40代半ばくらいから卵巣機能が低下し、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌物が減少していきます。閉経を迎える頃にはさらにエストロゲンが急激に減少するため、自律神経のバランスが乱れ、これが更年期症状につながります。

エストロゲンは血管を強くしなやかに保つ働きや、血管を拡張して血流を守る役割も担っており、更年期でエストロゲンが減少すると、これまでのようなエストロゲンの保護作用が失われてしまうのです。

更年期に差し掛かる年齢は、仕事の責任が重くなる、親の介護、自分の体調の変化など、心にも体にもストレスがかかりやすい時期。これらの要因が重なり合うことで、微小血管狭心症が起こりやすくなるといわれています。

微小血管狭心症の診断・検査方法

微小血管狭心症は、発作が起きたときも心電図の変化があまりなく、心臓カテーテル検査でもはっきりと冠動脈の異常が見つけにくいため、症状はあるのに「原因不明」になるなど、診断に至らないことがあります。

微小血管狭心症は診断が難しい病気であるため、専門の病院で詳しい検査を受ける必要があります。

現時点では、心負荷時の心筋から代謝される乳酸の測定、心臓カテーテル検査における冠血流予備能の測定、positron emission tomography(PET)を用いた検査などがあります。さらに、磁気共鳴画像装置(MRI)などを活用して血流の変化から病気を確定する検査方法の確立を目指して、研究が進められています。

微小血管狭心症の治療法

微小血管狭心症は、内服薬による薬物治療や、禁煙など生活の改善によって治療します。

使用される薬としては、亜硝酸剤(ニトログリセリンなど)、カルシウム拮抗薬などがあります。うつ病などの治療に用いられる漢方薬が効く人もおり、症状によってはいくつかの薬を併用することもあるようです。

微小血管狭心症の予防法

微小血管狭心症の予防法

微小血管狭心症を予防するためには、血管を労ることが大切です。高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム、糖尿病、動脈硬化症などは、全身の血管にダメージを与えてしまうことになります。

これらの生活習慣病を予防することが同時に、微小血管狭心症の予防にもつながるでしょう。ここからは、具体的な方法をご紹介します。

適度な運動

運動は、心肺機能の維持や増進につながります。また、体の中に老廃物が蓄積されるのを防ぐこともできます。

その他にも、運動には肥満の改善や予防、更年期症状の緩和、免疫力の向上などの効果もあるため、まずは無理のないペースから始めて、習慣化していくといいでしょう。

飲酒・喫煙を控える

アルコールは中性脂肪やコレステロールを増加させる原因になるため、控えることが望ましいでしょう。また、喫煙は更年期症状の悪化や動脈硬化の促進につながるため、禁煙することが推奨されます。

ストレスを避ける

微小血管狭心症はストレスが誘因の一つであるため、なるべくストレスを避けることが大切です。

とはいえ、状況や環境によってはストレスから距離を置くのが難しいこともあります。そんなときは、ストレスをため込まないようにして、定期的にストレスを解消しましょう。

食生活の改善

食生活を改善することも大切です。脂肪や塩分を抑え、栄養のバランスが整った食事を1日3食しっかり取るようにしましょう。

特に、「イソフラボン」「ビタミン類」「食物繊維」の栄養素が含まれるものは、積極的に取りたい食材です。

漢方薬を取り入れる

漢方薬は、女性のホルモンの乱れによって起こる不調を改善することを得意としています。

漢方薬は、血流を良くしたり、自律神経などに働きかけて心と体のバランスを整えたりすることで、症状の改善を行います。血流が改善されると、胃腸の働きも良くなるので、結果として疲れやストレスに負けない体づくりにも役立つでしょう。

漢方薬は、人それぞれの症状や体質に合わせて選ぶことで素早い効き目を感じられ、体質の根本からの改善をめざすことができます。

更年期の不調におすすめの漢方薬

更年期のストレスやホルモンバランスの乱れによる不調には、次のような漢方薬がおすすめできます。

  • 加味逍遙散(かみしょうようさん):血流を促しホルモンバランスを整える働きがあります。女性ホルモンの乱れによって生じるイライラや不安、不眠などの自律神経の乱れに用いられます。
  • 桃核承気湯(とうかくじょうきとう):血流を促してくれます。下剤成分が配合され、便秘がある人に特に向いています。更年期のイライラなどにも用いられます。
  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):のぼせなどもある人に用います。血流を促しホルモンバランスを整えます。血流が滞ることで生じる、肩こりや頭痛、シミやニキビなどがある人に向いています。

体や症状、目的に合う漢方薬を探すなら、医師や薬剤師など、漢方に精通した専門家による判断や相談が大切です。

かかりつけの漢方医や相談できる薬剤師がいない場合には、簡単に相談できて体質や症状に合わせた漢方薬を届けてくれる「あんしん漢方」などのオンライン漢方サービスを取り入れてみてはいかがでしょうか。
 

更年期の胸の痛みは早めに専門医へ相談を

更年期の胸の痛みの原因としては、更年期症状の一つや乳腺症、微小血管狭心症が考えられます。

更年期症状や乳腺症の場合、日常生活に支障がなければ特別な治療は必要ありませんが、微小血管狭心症の場合は治療が必要です。

微小血管狭心症は診断が難しいため、気になる胸の痛みなどの症状がある場合は、専門の病院で詳しい検査を受けましょう。

監修者プロフィール:横倉恒雄さん(横倉クリニック)

横倉恒雄さん(横倉クリニック)

よこくら・つねお 医学博士。医師。横倉クリニック・健康外来サロン(港区芝)院長。東京都済生会中央病院に日本初の「健康外来」を開設。故・日野原重明先生に師事。婦人科、心療内科、内科などが専門。病名がないものの不調を訴える患者さんにも常に寄り添った診療を心がけている。著書『病気が治る脳の健康法』『脳疲労に克つ』他。日本産婦人科学会認定医 /日本医師会健康スポーツ医/日本女性医学学会 /更年期と加齢のヘルスケア学会ほか。

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