肘の内側・外側・両側、部位別の痛みの原因と治療法

肘の骨を押すと痛いのはなぜ?原因・病気を解説!

森大祐
監修者
京都下鴨病院
森大祐

公開日:2022.07.07

更新日:2024.01.30

肘の骨を押すと痛い!一時的なもの?病院に行った方がいい? 一口に痛みといっても、肘の内側と外側では考えられる病気も違ってきます。まずは痛む場所を確認してみましょう。受診する目安や、何科に行けばいいかなど、専門家監修のもと詳しく解説します。

監修者プロフィール:森大祐さん

森大祐さん

日本整形外科学会認定整形外科専門医。関西医科大学卒業後、京都大学整形外科に入局。脊椎、上肢疾患の臨床研究をおこない、脊椎、手関節、肘、肩関節に精通する。その後米国トーマスジェファーソン大学で人工肩関節の臨床研究を主な目的に留学。烏丸御池整形外科クリニックで肩関節外来を担当し、脊椎機能の重要性を唱えている。

肘の骨を押すと痛い!その理由

「肘の骨を押すと痛みを感じる……」という場合、肘の周囲に負担がかかったことにより、関節が炎症を起こしている可能性が考えられるでしょう。

関節が炎症を起こすと、骨を押したときに痛みを感じることがあります。

肘が痛くなる原因

肘が痛くなる原因

肘が痛くなる原因は、いくつか考えられます。ここから詳しく見ていきましょう。

肘の使い過ぎ

肘が痛む原因で多いのが、肘の使い過ぎによるものです。テニスやバドミントン、野球、ゴルフなどスポーツによって肘を酷使したり、重い荷物を持ち上げたりする動作が肘の負担になっている可能性があります。

また、スマートフォンやパソコンの長時間使用、自分の腕を枕にして寝るなども肘の負担になることがあります。

手首や手のひらの使い過ぎ

手首や手のひらは、肘の内側にある筋肉とつながっています。手首や手のひらを使い過ぎることによって、肘に負担がかかっている可能性があります。

握力が必要な仕事や家事を頻繁に行っている場合は、それが肘の負担となっている可能性も考えられるでしょう。

肘の前後左右(内側・外側・前側・後ろ側)ってどこ?

肘が痛む場合、まずは痛む場所を確認してみましょう。

肘の前後左右(内側・外側・前側・後ろ側)は「腕を下におろし、手のひらを体の前に向けた状態」を基準にして考えます。

  • 小指側……内側
  • 親指側……外側
  • 腕が曲がる方……前側
  • 腕を伸ばす方……後ろ側

自分の肘の痛みが気になる場所はどこか、チェックしてみてください。

痛む場所別!肘の骨が痛くなる病気

痛む場所別!肘の骨が痛くなる病気

肘の痛み方や痛む場所は、人によってもさまざまです。

  • 肘の内側が痛む場合
  • 肘の外側が痛む場合
  • 肘の両側が痛む場合
  • 手・肘をついたときに痛む場合

ここからは、上記のように痛む場所やケースに合わせて考えられる疾患をご紹介します。

【肘の内側】が痛む場合

まずは、肘の内側が痛む場合に考えられる疾患をチェックしてみましょう。

ゴルフ肘・野球肘(上腕骨内側上顆炎)

ゴルフ肘や野球肘は正式名称を「上腕骨内側上顆炎」といい、上腕骨内側上顆(手首を手のひらの方に曲げる筋肉の腱)に炎症が起きた状態のことを指します。

ゴルフでの無理なスイング、料理によって同じ動きを繰り返すことなどで負担がかかり、炎症が発生します。肘の内側を押したり動かしたりするときに痛みますが、悪化すると何もしなくても、じんじんとした痛みを感じることがあります。

【治療法】

基本的には安静にして治療します。アイシングやリハビリテーションとしてのストレッチ、痛みが強い場合は内服薬や外用薬、ステロイドの局所注射をすることもあります。

変形性肘関節症

変形性肘関節症とは、関節の軟骨がすり減ることで骨と骨が直接接触するようになり、痛みや関節の変形が起こる病気です。膝関節や股関節に起こることが多い病気ですが、肘の関節でも起こります。

加齢や関節炎、外傷、肘を酷使するスポーツや職業による負担などが原因として考えられます。

【治療法】

痛みや炎症を抑える外用薬や内用薬、ステロイド剤を使った注射療法、リハビリテーションやストレッチ、手術による骨の矯正など。

肘部管症候群

肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)は、肘を酷使した結果、肘の関節周囲の骨が変形し、尺骨神経を圧迫することで起こる病気です。変形性肘関節症が進行すると、肘部管症候群が起こることがあります。

尺骨神経は小指や薬指の動きをコントロールしており、この神経が圧迫されると手指の動きに麻痺が起こり、手が使いにくくなったり、指の筋力が落ちたりします。

【治療法】

安静にし、神経の回復を促すことで治療します。また、薬物療法や注射療法を行うこともあります。症状が進行性の場合は手術を行うケースもあります。

関節リウマチ

関節リウマチは、免疫システムに起こった異常により、自分自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患です。関節に炎症や痛み、変形が生じ、進行すると関節が破壊されてしまい、機能障害が引き起こされます。

関節の症状の他、微熱、倦怠感、貧血などの全身症状が見られることもあり、30代〜60代の女性に多く見られる病気です。

関節を押したり、動かしたりする時に痛みが生じ、進行すると何もしなくても痛みを感じるようになります。関節の変形を食い止めるためにも早めの受診、治療開始が大切です。

【治療法】

薬物療法が基本。その他、リハビリテーションや理学療法も行われます。

【肘の外側】が痛む場合

ここからは、肘の外側が痛む場合に考えられる疾患をご紹介します。

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)

テニス肘は、正式名称を「上腕骨外側上顆炎」といい、肘の外側に痛みが起こる病気です。肘の外側の出っ張った骨を押すと痛みが起こります。40、50代の年齢層で多く見られ、男女関係なく頻度が高い疾患です。

テニスやバドミントンなどのラケットを使ったスポーツをする人に多い病気であることから「テニス肘」と呼ばれていますが、テニスやバドミントンを一度もしたことがない人でも起こることがあります。

テニス肘が起こるはっきりとした原因はわかっていないものの「手や肘の使い過ぎ」と「加齢」が影響していると考えられています。

年齢を重ねると上腕や前腕の筋力低下や腱の強度低下が起こりますが、ここで手に負担のかかる動作を繰り返すと、腱が傷つきやすくなり、発症のきっかけとなります。

料理や家事などで手を酷使する主婦もテニス肘になることがあり、フライパンを持つ、タオルや雑巾を絞るなどの動作で痛みが強くなります。

【治療法】

できるだけ肘を使わず安静にする保存的治療、薬物療法、ストレッチ、装具療法、温熱療法などが行われます。それでも治らない場合は、外科手術を検討します。

橈骨神経管/後骨間神経症候群

肘の外側にある橈骨神経(とうこつしんけい)が直接刺激を受けたり、周囲の組織に圧迫されたりすると、痛みを生じます。尺骨神経の場合は筋力低下や痺れが見られますが、橈骨神経の場合はこれらの症状はあまり見られません。

テニス肘と区別が難しい病気とされていますが、テニス肘よりも少し離れた場所に痛みが起こることが特徴です。

【治療法】

肘に副子(ふくし。骨折や関節炎で固定のために用いられる装具)を付けて、肘を曲げないように固定します。手術によって橈骨(とうこつ)神経への圧迫を軽減することもあります。

滑膜ひだ障害

橈骨と上腕骨の間には滑膜ひだがあり、これが関節の酷使によって炎症を起こしたり、分厚くなったりすることで痛みが起こります。また、分厚くなることで引っかかったような感じがすることもあります。

【治療法】

多くの場合、激しい運動を控えてストレッチをするなどの保存的療法でよくなりますが保存療法に抵抗する場合には手術が必要となることもあります。

【肘の両側】が痛む場合

ここからは、肘の両側が痛む場合に考えられる疾患をご紹介します。

ガングリオン

ガングリオンとは、コブ状をした良性の腫瘤(しゅりゅう)のことで、中にゼリー状の物質が詰まっており、ぐりぐりとしたしこりとして感じます。

ガングリオンができやすいのは、指の付け根や手首の親指の付け根の辺りですが、膝や肘、足首にできることもあります。ガングリオンができる原因ははっきりわかっておらず、子どもから高齢者まで幅広く見られるものの、中でも20代〜50代の女性に多い疾患です。

ガングリオンで痛みが起こることは少ないですが、周囲の組織の動きを邪魔したり、圧迫によって痛みが起こることがあります。

【治療法】

痛みなど症状がなければ経過観察で問題ないものの、他の疾患の可能性もあるため、検査を受ける必要があります。治療する場合、注射針で刺して内容物を吸引します。再発を繰り返す場合は、手術を行うこともあります。

骨折後変形(内反肘・外反肘)

骨折後変形とは、骨折後、成長するにつれて肘の変形が起こる疾患のことです。内側に曲がっているものを「内反肘」、外側に曲がっているものを「外反肘」といいます。

変形が軽度であれば治療は不要ですが、小指や薬指の痺れ、箸がうまく使えないなど細かい作業が行いにくくなる尺骨神経麻痺(肘部管症候群)や後外側回旋不安定症、外側靭帯不全などが起こる可能性もあるため、痛みなどの症状が出ている場合は病院を受診しましょう。

【治療法】

外科手術が一般的です。症状が悪化すると、神経の除去や骨の掘削手術を行う場合もあるため早めの治療が大切です。

【手・肘をついたときに】痛む場合

手や肘をついたときに突然痛みが走る場合は、脱臼や骨折の可能性が考えられます。強い痛みが治まらずに続く場合は我慢せず、すぐに病院を受診しましょう。

肘の周囲は手をついたときに負荷がかかりやすく、骨折しやすい場所です。骨折は変形のある骨折だけではなく、「剥離骨折」といって、靭帯や腱などの付着する骨の一部が引き剥がされて生じる骨折もあるため、注意しましょう。

強い痛みではないものの、手や肘をついたときに日常的に痛みを感じるケースでは、肘の関節が炎症を起こしているかもしれません。外側上顆炎や内側上顆炎、変形性肘関節症などの可能性が考えられます。

【治療法】

脱臼の場合は関節を元に戻す処置、骨折の場合はギプスやキャストによる固定などを行います。

肘の痛みとがん(癌)は関係ある?

骨に発生する癌(骨腫瘍、骨肉腫)には、骨自体からがんが発生する「原発性骨悪性腫瘍」と、他の臓器に起こったがんが骨に転移する「転移性骨腫瘍」の2種類がありますが、肘周囲の骨はこのどちらも起こりにくいとされています。

肘に異物ができており、ぐりぐり動くのであればガングリオンなど良性腫瘍である可能性が高いでしょう。しかし、非常にまれではあるものの皮下腫瘍なども発生することがあるため、病院で検査を受けることが大切です。

病院に行くべき目安は?肘の痛みは何科に行けばいい?

病院に行くべき目安は?肘の痛みは何科に行けばいい?

肘の痛みだけではなく、変形やこわばり、倦怠感や発熱などの症状が見られる場合は、早めに病院を受診しましょう。

また、市販の痛み止めを飲んでも治まらないほど痛みが強い場合や、痛みが続く場合も、一時的なものではない可能性があるため病院を受診すると安心です。

肘の痛みがある場合は「整形外科」を受診しましょう。

気になる肘の痛みは早めに病院へ!

押すと痛い、動かすと痛い、タオルや雑巾を絞る動作をすると痛い、物を持ち上げるときに痛い……など、肘にはさまざまな痛みが起こることがあります。

このような痛みは肘の酷使によって起こることが多く、放置すると悪化してしまう可能性も。症状が進行すると手術が必要になるケースもあるため、肘に痛みや異常を感じたら早めに病院を受診しましょう。

※この記事は2022年7月の記事を再編集して掲載しています。

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