寝たきりにならないために知っておくべき用語解説

フレイルとサルコペニアの違いって?予防法は?

川上洋平(かわかみ・ようへい)
監修者
かわかみ整形外科クリニック 院長・医学博士
川上洋平

公開日:2021.05.31

更新日:2023.09.15

最近よく聞く「フレイル」と「サルコペニア」。加齢による伴う機能低下の問題ですが、その違いは何でしょう? それぞれの診断基準や、チェック方法をご紹介します。寝たきりにならないための予防法を実践して、いきいきとした100年時代を過ごしましょう。

監修者プロフィール

かわかみ整形外科クリニック 院長・医学博士 川上 洋平さん

かわかみ整形外科クリニック 院長・医学博士 川上洋平さん

神戸大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学に留学し、膝関節外科、再生医療、スポーツ医学を学び、神戸大学病院、新須磨病院勤務を経て、患者さんにやさしく分かりやすい医療を提供することを目的に、かわかみ整形外科クリニック(神戸市)を開業。日本整形外科学会専門医。

「フレイル」と「サルコペニア」は何が違う?

フレイルとサルコペニアってどういう意味?何が違う?

超高齢社会が進む中、健康寿命をどう伸ばすかが課題となっています。そんな中、近年注目されているのが「フレイル」と「サルコペニア」です。まずは用語の意味を知っておきましょう。

フレイルとは「健康」と「要介護」の間の段階

フレイルは「虚弱」を意味する英語「Frailty(フレイルティ)」が語源です。厚生労働省のガイドライン(※1)では「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と定義されています。

フレイルとは加齢により生じる衰え全般のことをいいます。具体的には歩くのに杖が必要になる、疲れやすくなり家に閉じこもりがちになるなど、さまざまな形で表れます。

もっと簡単にいえば健康と要介護状態の中間のこと。現在は介護を必要としないけれど、このままでは要介護に移行してしまう段階です。介護保険でいう「要支援」状態に近いといえます。

日本老年医学会による調査(※2)では、80歳以上の約35%がフレイルであるという結果も出ています。60代後半でも5%おり、まだ若いからと油断はできません。

サルコペニアは「筋力低下」の状態

サルコペニアとは「身体機能の低下が起こる状態」を指します。ギリシャ語で「筋肉」を意味する「sarco(サルコ)」と、「喪失」という「penia(ぺニア)」を合わせた言葉です。

主に加齢によって全身の筋肉量や筋力が低下し、身体能力が落ちた状態のことを指します。例えば握力が落ちてペットボトルの蓋が開けられない、歩くのが遅くなった、つまづいたり転倒しやすくなったなどです。

また、サルコペニア関連の言葉でよく耳にするのが「ロコモ」です。筋肉量だけでなく骨や関節、神経など運動器すべての障害により、移動機能の低下をきたす状態を 「ロコモティブシンドローム」といいます。

どちらも筋肉量の減少は老化現象の一つなので、生涯を通して進行していきます。しかし運動や栄養バランスのとれた食事により、進行の程度を抑えることが可能です。

サルコペニアはフレイルの要因の一つ

フレイルもサルコペニアも加齢に伴う機能低下の問題のようですが、この2つは何が違うのでしょうか。

フレイルの範囲は広く、認知機能、栄養状態、気力のなさ、疲労感などさまざまな要素が含まれています。身体的な衰えだけでなく、精神的、社会的な虚弱状態もフレイルの要因になります。

一方、サルコペニアは主に筋肉量の減少を指し、身体的な衰えに注目している点が違います。

フレイルの要素の中には筋力の低下も含まれるため、サルコペニアはフレイルの要因の一つである、と理解しましょう。身体機能低下がサルコペニア、身体機能以外の要素もすべて含んだ虚弱状態がフレイルなのです。

いますぐ実践!現在の健康度をセルフチェック

いますぐ実践!現在の健康度をセルフチェック

年齢を重ねると、どうしても疲れやすくなったり食欲が落ちてきたりします。それは、もしかしたらフレイルやサルコペニアの危険信号かも。しかしケガとは違って症状が目立たないので、見逃されがちです。自分や配偶者、親がフレイルでないか確かめるにはどうすれば良いでしょうか。

フレイル、サルコペニアの診断基準は?

フレイルの診断基準は以下のようなものがあります。3つ以上当てはまればフレイル、2つ当てはまる場合には予備軍の「プレフレイル」であると判断します。

  • ダイエットしていないのに、体重が6か月で2~4kg以上減少する
  • ここ2週間、理由もなく疲れたような感じがする
  • 歩くスピードが落ちた(1m/秒未満)
  • 握力が落ちた(利き手で男性26kg未満、女性18kg未満)
  • 定期的な運動や体操をしなくなった

サルコペニアは以下の3つを測定し診断されます。筋肉量の減少とともに、筋力または身体能力の低下も該当した場合、サルコペニアと診断されます。 

  • 筋肉量
  • 筋力(握力)
  • 身体能力(歩行速度など)

ここからは、サルコペニアも含めた、フレイルの症状や予防方法をご紹介していきます。

ふくらはぎで簡単!セルフチェック

フレイルは医療機関を受診して診断してもらうのが基本です。2020年4月からは、75歳以上の後期高齢者を対象に「フレイル検診」も導入されています。

もし、気になる症状がある場合、まずは簡単なセルフチェックで確認してみましょう。

指輪っかテスト
椅子に座り、利き足ではない足のふくらはぎの一番太い部分を、両手の親指と人差し指で作った輪で囲みます。ふくらはぎと指の輪の間にすき間ができる場合は、サルコペニアの可能性が高く要注意です。

ふくらはぎで簡単!「指輪っかテスト」

・イレブンチェック(参考:健康長寿ネット
11個の設問に「はい」か「いいえ」で答え、右側についた○の数を数えます。
※4・8・11は「はい・いいえ」が逆になっていますので気を付けて回答してください。

  1. ほぼ同じ年齢の同性と比較して、健康に気を付けた食事を心掛けている。 はい いいえ
  2. 野菜料理と主菜(お肉またはお魚)を両方とも毎日2回以上は食べている。 はい いいえ
  3. さきいか、たくあんくらいの固さの食品を普通に噛み切れる。      はい いいえ
  4. お茶や汁物でむせることがある。                   いいえ はい
  5. 1回30分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施している。     はい いいえ
  6. 日常生活において歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施している。 はい いいえ
  7. ほぼ同じ年齢の同性と比較して、歩く速度が速いと思う。        はい いいえ
  8. 昨年と比べて外出の機会が減っている。                いいえ はい
  9. 1日1回以上は誰かと一緒に食事をしている。              はい いいえ
  10. 自分は活気にあふれていると思う。                   はい いいえ
  11. 何よりもまず物忘れが気になる。                   いいえ はい

右側の○が5つ以上の場合はフレイルである可能性が高いといえます。特に6つ以上の人は危険度が高めです。 

フレイルは、すぐに対策をとれば元の健康な状態に戻る可能性が高いため「年齢を重ねれば体力や気力が衰えるのは仕方ない」と思わず、早めに対策を始めることが大切です。

フレイル予備軍になっていない?今の健康状態を知ろう

また、フレイルの中でも、初期症状とされているのが「オーラルフレイル」です。オーラルフレイルとは口腔機能の衰えのこと。食事を食べこぼすようになった、嚥下や滑舌が悪くなったなどの口腔機能に関わる症状が増えることで、全身の衰えにつながるという概念です。

例えば虫歯や歯周病などの疾患により歯が弱ることで、会話や食事に不具合が出るようになってしまいます。これが「オーラルフレイル」の状態です。さらに進行すると食欲が低下し、社会的な活動範囲も狭くなってしまい、フレイルに陥ってしまうのです。

上で紹介した指輪っかテストやイレブンチェックに加えて、オーラルフレイルチェックで口腔機能の健康状態を調べておきましょう。

予防には食事と運動、そして社会参加が大事!

予防には食事と運動、そして社会参加が大事!

では、フレイルを予防・改善するには、何に気を付ければ良いのでしょうか。予防に大事な3つの柱が「栄養」「運動」「社会参加」です。

1.栄養:たんぱく質をしっかり取ろう

フレイル予防には、バランスの良い食事を取ることが大切です。ごはんなどの主食、野菜を使った副菜や汁物、そして肉や魚などの主菜を食べましょう。

特に大切なのは筋肉を作るもとになる「たんぱく質」。肉や魚の他に、卵や大豆製品を意識して摂取するようにしましょう。骨を丈夫にするために、牛乳などでカルシウムを取ることも有効です。

また、よく噛んで食べ、食事の後は歯磨きをし、汚れが目立つ場合はデンタルフロス・歯間ブラシ・フッ素塗布などの口腔ケアも積極的に行いましょう。

2.運動:簡単な運動から始めよう

体を動かすことは筋肉量の減少(サルコペニア)予防にとても効果的です。大切なのは継続すること。ウォーキングや体操など、ちょっとした運動でも毎日行うことが重要です。

少しずつ動けるようになったら「レジスタンス運動」を取り入れていきましょう。レジスタンス運動とは筋肉に抵抗(レジスタンス)をかけながら繰り返し行う運動のこと。スクワットや腕立て伏せ、ダンベル体操など、いわゆる筋トレです。

ただし、必ず無理のない範囲で行うことが大切です。体調の悪い日は控え、翌日に痛みや疲れが出ない程度にとどめましょう。レジスタンス運動は、コロナ禍で注目されている、生活不活発病の予防にも役立ちます。

3.社会参加:繋がりを保って、積極的におしゃべりしよう

フレイル予防には社会と関わりを持つことも重要です。社会とのつながりを失うことがフレイルの入口ともいわれます。孤立すると気分が落ち込みやすくなり、活動が低下して筋力低下や食欲低下を招いてしまうのです。

年齢を重ねると、外出のきっかけも徐々に少なくなっていきます。そのため自分から積極的に外に出て、前向きに社会に関わっていくことが大切です。趣味を通じて友人と交流を持ったり、ボランティアに参加したり、自分に合った活動を探してみましょう。 

直接会えなくても、会話することが効果的です。電話やオンラインを活用して家族や友人と積極的に連絡を取り、健康のためにも楽しくおしゃべりしましょう。

寝たきりにならないために

フレイル予防は、3つの柱のうち1つだけやればいいものではありません。この3つは影響しあっているので、バランス良く生活の中に取り入れることが大切です。

フレイルやサルコペニアという言葉を初めて知ったという人も、いつまでも健康に過ごすために、フレイルのセルフチェックや予防の3つの柱をさっそく試してみてくださいね。

※この記事は2021年5月の記事を再編集して掲載しています。

【参考文献】

  1. 厚生労働省保険局高齢者医療課:高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン
  2. 日本老年医学会:国立長寿医療研究センター(日本老年医学会雑誌)

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