苦しい感情をコントロールする方法(2)

負の感情に乗っ取られたときの距離の取り方、鎮め方

公開日:2020/08/16

更新日:2021/07/06

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自衛隊初の心理幹部として、過酷な現場で働く隊員たちにカウンセリングを行ってきた下園壮太さん。さまざまなストレスにさらされる大人には心のケアが必要、と説く下園さんに、今回は感情の勢いが強いときにうまく鎮める方法について教えていただきます。

苦しい感情をコントロールする方法2
苦しい感情をコントロールする方法2

感情は、勢いが強いと理性を乗っ取ってしまう

感情は、勢いが強いと理性を乗っ取ってしまう

心は「感情」と「理性」という2つの要素から成り立ち、いずれもあなたを守るために存在していますが、年齢とともに感情をコントロールする力は徐々に落ちてきてしまう、ということを、このシリーズの第1回でお話ししました。

感情は、その勢いが強いときには最も“取り扱い注意”の状態となります。なぜなら、感情は「思考を乗っ取る力」を持っているからです。

感情は、原始時代からずっと、人間が自らを守るために存在してきました。自らの生命が危機を感じたときや、種の存続が危ない、と本能的に感じたときに、感情は事態に素早く対処するために、「体と思考を一体化させる」という働きを発揮します。

もちろん、現代に暮らす私たちは、原始時代とはまったく違う環境の中に生きているのですが、感情は太古の昔のままで反応してしまいます。このために、理性をも乗っ取ってしまうのです。わかりやすい例を出しましょう。       

「あばたもえくぼ」。恋愛感情が高まると、相手の欠点すらも魅力的に見え、「彼のためなら命も捨てられる!」と真剣に考えます。恋愛は種の存続にダイレクトにつながるので、本能的になりやすいのです。

また、オレオレ詐欺などでは、不安感を煽られることによって、後から冷静になると「なんであんなことを……」と悔いるような行動を人はとってしまいがちです。これも、我が子の一大事だ、と感じることで、感情が過剰反応をすることによります。

どんなに頭の良い人でも、感情の勢いが強い間は、一時的に、感情に思考が乗っ取られてしまいます。それだけではありません。

「乗っ取られている」状態では、自分でそのことに気付くこともできません。つまり、自分では冷静に、論理的に判断していると「確信」してしまっているのです。

感情の勢いを抑えるには体からのアプローチが有効

このように感情の勢いが強いときには、前回ご紹介した、「相手ならどう考えるだろう」と意識を飛ばしてみる「7つの視点」というようなワークは、あまり効き目がありません。そもそも、思考が乗っ取られているので、客観的判断は不可能です。そればかりか、いろいろな観点で考えるうちに、逆に感情がエスカレートしてきて、まったく関係のない誰かに八つ当たりしてしまうこともあります。

では、どのようにアプローチすればよいのでしょう。私がおすすめしたいのは、「体」からのアプローチです。

 

「笑いながら、怒る」を試してみよう

「笑いながら、怒る」を試してみよう

まず、「笑いながら怒る」というワークをやってみてください。

  1. 最近経験した、ちょっと嫌なことを思い出してみましょう。
  2. これからすごく大切な人に会う、と思ってベストスマイルを作ってみましょう。
  3. 2の表情、笑顔を崩さないまま1の嫌なことを考えてみて。1のときと、気持ちはどう変化したかを観察してみましょう。

どうでしょうか。嫌な出来事を思い出しながら、表情でベストスマイルを保つのは、すごく難しいですね。それほど、感情と体は一体化しているのです。

逆に言えば、だからこそ、このようにちょっと意識的に体(顔の筋肉)を動かすことが、「一体化した感情と体」を上手に分解するきっかけになります。実際に行ってみると、怒りの勢いがすぅっと収まってくることを、実感できると思います。

 

「DNA呼吸法」で感情の勢いを下げる

体を動かすことによって感情の勢いを抑える「感情ケア」の方法として、私が最も効果的だと考えるのが、「呼吸法」です。 

戦うときには荒い呼吸、危険なときには息をひそめ、活動前には息が弾む、というふうに、呼吸は、感情と強烈にリンクしています。ですから、呼吸をうまくコントロールすれば、感情に大きな影響を与えることができるのです。なにより呼吸法の良いところは、

  • 誰にも知られずにひそかにできる
  • その場ですぐにできる
  • 道具がいらない

というところ。私は常々、感情ケアの方法はどんなに役立つ方法であっても、「使えなければまったく意味がない」と思っています。呼吸法なら、いつでも必要だと思ったらすぐに実行できる。そして、その効果を実感できれば、繰り返し行うことができ、どんどんそのスキルも上達していきます。

例えば、ショックな出来事があると、「大変なことが起こってしまった」「もっと悪いことが起こるかも」「周囲に敵がいるかも」と、そのことばかりを考え、身も心も緊張します。「感情の勢いが強い」状態です。

そのようなときには、まずは呼吸を使って感情の勢いを緩めることが有効です。

つらい感情のときは、無意識のうちに猫背になり、浅い呼吸になっています。だから、姿勢を正し、呼吸を深い呼吸に変えてみるだけでも、ある程度の効果は表れます。

ただ、それだけでは、感情に強烈に乗っ取られた思考は、またすぐに怒りや不安のことを考え始めてしまいます。そんなときは、もう少し複雑な手順の呼吸の方が適しているのです。

そこで、ぜひ一度、試していただきたいのが、私が「DNA呼吸法」と名付けた呼吸です。

背すじを伸ばし、肩と胸の力を抜き、息を吐く。お尻の穴を締めて、さらに吐き切ります。このときおなかを背中にくっつけるような意識で行うと、自然と大きな腹式呼吸になります。

こうして1回大きな呼吸をしたら、1回普通の呼吸(息継ぎ呼吸)をして息を整える。感情に乗っ取られたように感じたとき、大きい呼吸と息継ぎ呼吸を交互に5回くらい行うと、かなり落ち着いてくるはずです。

慣れてきたら、大きい呼吸に合わせて「大丈夫」「なんとかなる」「諦めるな」という言葉を、心の中でつぶやいてみます。この言葉の頭文字をとって、「D・N・A呼吸法」というわけです。ぜひ頭文字ごと、覚えてください。

この呼吸を行うとき、自信があまりない人や、がんばり屋である人は「これで間違えていないだろうか」と不安になったり、「やりにくいな。心地よくないな」と思っても、そのままがんばって、指導された通りに行わなきゃと無理をしがちです。

ですから、私は「不自然さを感じたり、苦しいと思ったら、途中で止めてもいいし、おなかをへこませる強さも、自分がやりやすいように調整してくださいね」とお伝えします。

すると、「苦しいときは苦しいと言っていい」「嫌なときは途中でやめてもいい」というように、その人が他者や、社会に対して我慢していた精神面も、ほどよく緩められるようになる。上手に自らの欲求と周囲の都合との折り合いをつけられるようになる、といった副次的な効果も得ることができるのです。

心が鎮まる「DNA呼吸法」をやってみよう

心が鎮まる「DNA呼吸法」をやってみよう

  1. ・背すじを軽く伸ばし、胸と肩の力を抜き、ため息のように息を吐く。
    ※心の中で「大丈夫」とつぶやいてみましょう。
  2. ・背すじをさらに伸ばし、お腹をへこませながら、息を吐く。
    ※心の中で「なんとかなる」とつぶやいてみましょう。
  3. ・お尻の穴を締めて、呼吸を止める。
    ※心の中で「諦めるな」とつぶやいてみましょう。
  4. ・反動で鼻から吸う。
  5. ・息継ぎ呼吸をする。

呼吸のリズムに慣れてきたら、「大丈夫(D)」「なんとかなる(N)」「諦めるな(A)」という言葉をつぶやきながら、1から5をゆっくりと繰り返す。

〈行うときの留意点〉

  • 感情が乗っ取られたら、「5回」を目安に。
  • 苦しいと思ったら、すぐにやめてください。
  • 肺や心臓に疾患のある人は、医師の指導を受けてください。

この方法で感情の勢いを下げることができたら、いよいよ、最も難しく、しかし大変重要である「感情の触れ方」について、次回はしっかりとお伝えしましょう。

下園さんから、あなたへ、贈る言葉

苦しいときは苦しいと言っていい、
嫌なときは途中でやめてもいい、
心をほどよく緩めよう。

 

■教えてくれた人
下園壮太さん

下園壮太さん

しもぞの・そうた メンタルレスキューシニアインストラクター。1982年、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。心理幹部として多くの隊員のカウンセリングを手掛け、2015年に退官。現在、講演や研修会を行う。近著に『自衛隊メンタル教官が教える 50代から心を整える技術 』(朝日新書)https://www.yayoinokokoro.net/ 2021年8月にハルメクのオンラインイベントに登壇予定。


取材・文=柳本操

■もっと知りたい■

※この記事は、雑誌「ハルメク」2016年10月号に掲載した「こころのはなし」を再編集しています。


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