【保存版】本人の希望を叶える遺言書の作り方

遺言書作成5つのポイント!徒労に終わる失敗にご注意

勝猛一
監修者
司法書士、「勝司法書士法人」代表
勝猛一

公開日:2021.11.22

更新日:2023.12.08

終活の一つ、遺言書。財産に関する意思表示を指し、のこされた大切な人たちに思いを伝えるための手段です。ただ、せっかく遺言書を作成したのに希望が叶えられなかった例も。失敗例を踏まえつつ、自筆証書遺言を正しく作成する5つのポイントを解説します。

記事監修:勝猛一さん(かつ たけひと) 

司法書士「勝司法書士法人」代表。相続・遺言サポートオフィス「ゆずりは」運営他。遺言、相続など終活のプロフェッショナル。YouTubeチャンネル「勝 司法書士法人勝猛一」で終活情報を発信しています。著書に、『事例でわかる 任意後見の実務』(日本加除出版)

元気なうちに遺言書を用意すべき理由

遺言書の役割とは? 終活で用意するべき理由

遺言書がなければ、民法の定めにより配分

遺言書は、自分の死後、財産を誰にどのように配分したいかという意思を伝えるものです。遺言書がある場合には、原則として被相続人(亡くなった人)の意思に従った財産の配分が行われます。

一方、遺言書がない場合には、民法の定めにより子どもや配偶者などの「法定相続人(民法で定められた被相続人の財産を相続できる人)」に「法定相続分(民法で定められた配分割合)」で配分することになります。
 

民法が定める法定相続人と法廷相続分

そのため、例えば「生前お世話になった家族以外の人へ、財産の一部でお礼がしたい」「法定相続人は配偶者と兄弟姉妹だが、配偶者の生活が心配なので全財産を配偶者に引き継ぎたい」など、法定相続分とは異なる配分を希望する場合には遺言書を作成する必要があります。

相続トラブルの種にもなる遺産分割協議

遺言書がない場合にも、相続人同士の話し合いである「遺産分割協議」での合意ができれば、法定相続分以外の分け方ができます。その際には、以下の決まりがあることを知っておきましょう。

  • 相続人全員が参加して協議を行うこと
  • 相続人に未成年者がいる場合には、その代理人も参加して行うこと
  • 相続人全員が合意しなければ、その結果は無効となること
  • 協議の結果を「遺産分割協議書」に残すこと
  • 協議書には全員が実印を押し、印鑑証明書を付けること

遺産分割協議では、誰が相続人かを確定し、相続する財産をリストアップし、財産目録を作成しなければなりません。手間がかかる上、合意できず、争いとなりそれまでうまくいっていた親族関係が破綻してしまう場合もあります。

元気なうちに遺言書を作成し、のこされた人に自分の希望を示しておくことは、親族間の争いを防止することにもつながります。

やりがち!希望が叶えられない遺言書の失敗例

やりがち!希望が叶えられない遺言書の失敗例

せっかく遺言書を作成したのに希望が叶えられなかった例は少なくありません。

遺言書にはいくつかの種類があります。中でも、代表的なものが遺言者本人が手書きして作成する「自筆証書遺言」と、公証人に作成してもらい、原本を公証役場で保管してもらう「公正証書遺言」の2種類です。

自筆証書遺言は自分で作成できるという手軽さがありますが、形式や内容に不備があると、遺言書の効力が問われた場合に無効とされてしまうケースもあるようです。

自筆証書遺言の失敗例には、下記のようなものがあります。ありがちなことなので、注意しましょう。

【失敗談1】不動産の表示に決まりがあったのか!と後悔したA子さん

不動産の表示に決まりがあったのか!と後悔したA子さん

亡き父がのこした遺言書は、生前に家族で相談しながら作成しました。遺言書には、父の不動産について住所を示し、その継承先を記載していたのですが、母も私も特に違和感なくスルーしていました。しかし、父の死亡後の相続登記の手続きの際に、法務局から「この遺言書では不動産が特定できませんので受理できません」と断られてしまいました。不動産は登記簿上の「地番」や「家屋番号」で特定する必要があるそうなんです。家族の誰もちゃんとした知識がなかった……。専門家に聞いてから作成してくれたらよかったのですが。父もきっと悔やんでいると思います。

【失敗談2】「お前たちに譲る…」それ誰?と総ツッコミしたBさん

「お前たちに譲る…」それ誰?と総ツッコミしたBさん

祖父がのこした遺言書の話です。その中には、「私が所有する東京都世田谷区……の土地は、お前たちが相続するように」という記載が。「お前たちって……誰??」と、家族全員でツッコミました。私でもわかる明らかな不備。司法書士の先生に聞くと、財産を分ける上で不可欠な事項にあいまいな箇所があると、その部分は無効になる可能性もあるとのこと。おじいちゃん、最後にやってくれたわ!

【失敗談3】「愛犬に…」実現できない内容にびっくりしたCさん

「愛犬に…」実現できない内容にびっくりしたCさん

亡くなった叔母は、10年前叔父を亡くし子どもたちも遠くで生活していて、愛犬とともに一人暮らしを続けていました。彼女の遺言書が見つかり、遺族立会いのもと開封すると、そこには「全財産を愛犬タローに相続させる」という内容が。ペットに財産を相続させることはできないので、一同、まさに目が点。もちろん無効となりました。でも、生前、本当にタローだけが生きがいだったんだな、と思うと、その遺言書に呆れるよりも、ちょっと切なくなりました。

気を付けなければならない「遺留分」

遺産の配分は遺言書で自由に決められていますが、法定相続人には、最低限の取り分が保証されており、これを「遺留分(いりゅうぶん)」といいます。例えば、「恋人に全財産を相続させる」とした遺言書は、法定相続人の遺留分を侵害しているため、法定相続人が遺留分の取り戻しを請求できます。

 

遺留分の割合

遺言書は、ポイントをしっかりと押さえながら作成することが大切です。

自筆証書遺言を正しく作成する5つのポイント

自筆証書遺言を正しく作成する5つのポイント

手軽な自筆証書遺言、方式にはご注意

自筆証書遺言を作成する場合は、基本的に次の5つのポイントを満たす必要があります。

1 財産目録などを除き、遺言者本人が全文を自筆で書く

自筆証書遺言は、全文自筆で書かなければなりません。ただし、財産目録に関しては、別紙として添付する場合は自書が不要となり、パソコン(ワープロ)で作成可能です。

その際、財産目録の全ページに署名、押印が必要です。不動産登記簿謄本や通帳のコピー等でも可能ですが、その場合も全ページに署名、押印が必要です。

2 作成した日付を自筆で正確に書く
遺言書を作成した年月日を特定できるように記載する必要があります。令和〇年◯月吉日のような書き方では作成日を特定できません。

3 氏名を自筆で書く(署名する)
遺言書には自筆の署名が必要です。パソコンや他人の代筆は認められません。
※自分で書くことができないときは、秘密証書遺言(捺印・署名はできる場合)や公正証書遺言を利用することになります。

4 印鑑を押す(捺印する)
遺言書には捺印が必要です。印鑑は認印でも問題ありませんが、実印が望ましいでしょう。サインや花押(かおう)は認められません。

5 訂正の際は訂正印を押し、欄外にどこを訂正したかを書き、署名する
訂正は方式を守る必要があります。訂正したい箇所に二重線などを引き、二重線の近くに押印し、その横に正しい文字を記載します。その上で、欄外に「◯行目◯文字削除◯文字追加」と自筆で書き、署名する必要があります。

遺言書は家族の意見も聞いた上で作成を

遺言書の作成にあたっては、家族と話し合うことも重要です。例えば、良かれと思ってのこした財産が家族の負担になる可能性もあります。反対に、負担を軽減したいと思って処分する意思を示した実家やお墓が、家族にとって大切な思い出の場所だったということもあるでしょう。

遺言書を書く人と、のこされる家族の意識や考え方に違いがあることは少なくありません。日常の会話や、年末年始、お盆など家族が集まるときに、相続についての話をして、お互いの意思を確認しておきましょう。

遺言作成には専門家の力を借りるのがベスト

遺言作成には専門家の力を借りるのがベスト

ここまで見てきたように、自分の想いや希望が実現される遺言書を作成することは、簡単なことではありません。

公正役場で作成する公正証書遺言は、2人以上の証人に立ち合いのもと公証人が作成しますので、形式の不備はありません。形式の不備を心配することなく自分の希望をを叶えたい方は、公正証書遺言を選択することが望ましいでしょう。

しかし、形式に不備はなくても、実質的には分割できない分け方を書いてしまうなど、内容に問題がある可能性もあります。遺言書を作成する際には、弁護士や税理士、司法書士、行政書士など、相続や遺言に関わる業務を行う国家資格を有する専門家に相談した方が安心です。

ちなみに、信託銀行は「遺言信託」というサービスを提供しています。「遺言信託」は、遺言書作成のアドバイスだけでなく遺言書の保管、相続発生後の遺言書の執行を信託銀行がトータルにサポートします。特に遺言書の執行は負担感も強く、身内で頼める先もない場合も多いことから、作成から執行まで1か所で相談できる遺言信託は便利です。

終活の一環として、財産の多寡にかかわらず、遺言書の作成は必ず行いたいもの。まずは財産を洗い出し、相続のプランを考えたら専門家のところへ相談に行くのがいいでしょう。それが、のこされた人が気持ちよく財産を引き継げるベストな方法と言えます。

※この記事は2021年11月の記事を再編集して掲載しています。

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■記事協力=三井住友信託銀行

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