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- 社労士・井戸美枝さんが教える、親の死後の手続き
身内が亡くなると、どんな手続きが必要なのでしょうか? 法的な書類作成のエキスパートである社会保険労務士の井戸美枝さんも母を亡くし、死後の手続きに苦戦した一人。口座が即凍結、健康保険証の返却など大変だったという手続きについてお聞きしました。
口座が即凍結!解除手続きの書類が足りない……
井戸さんの母・幸子さん(仮名)が亡くなったのは、2016年11月24日。宝塚の有料老人ホームにいた幸子さん(87歳)は、肺炎で夕方入院し、翌朝息を引き取りました。「遺産分割は、姉と話し合い済みでしたが、死後の手続きをめぐって、まさかのトラブルが待っていました」と井戸さん。
死後1か月がたった12月27日、〝まさか〟はやってきました。幸子さんの銀行口座が凍結したのです。「名義人が亡くなった」と銀行に連絡すると、口座が即凍結。「うっかり電話したら最後、1円も引き出せなくなる。葬儀費250万円は準備しておいたので困ることはありませんでしたが、葬儀前に現金が手元になかったらと思うとゾッとします」
凍結を解除しようと、書類をそろえて銀行に行くと、担当者の口から出てきたのは、「改製原戸籍」という耳慣れない言葉でした。
「これは昭和32年、平成6年の戸籍法の改正による作り替えが行われる前の戸籍のこと。相続では、生まれてから死ぬまでの戸籍が必要ですが、それは私の持参した戸籍謄本だけではだめで、『改製原戸籍』に遡る必要があると言われたんです。これには私もびっくり。わざわざ母が生まれた大阪の役所に取り寄せて、二度手間でした」
それでも生前に口座をまとめておいたことは、大正解でした。「母は〝今なら○○をプレゼント〟と勧められると、すぐ口座を開いちゃうタイプの人だったんです。あまりお金の入っていない口座が10個以上もありました」。これでは大変と、認知症が出始めた2年前に口座を集約することに。幸子さんと一緒に行った手続きは、仕事を休んで5日間にも及びました。
「顔写真付きの本人証明が必要でしたが、古いパスポートくらいしかなく、思わず『本人の顔、まったく変わっていませんけど』と言ったんですが、受け付けてもらえませんでした(笑)。仕方なく住基カードを作りました」。
それでも、このときメインの銀行とゆうちょの2つに口座を絞っていなかったら、解除手続きは何倍も手間だったはず、と井戸さんは力説します。
たった213円のためこんな面倒な手続き!?
実は手続きがらみのストレスは他にも。葬儀を済ませた12月初旬、井戸さんが最初に足を運んだのが母の住んでいた市の役所。幸子さんの健康保険証を返却しに行ったのです。すると後日郵送で届いたのは「納めすぎた保険料を還付します」のお知らせ。
「そうはいっても後期高齢者医療保険料213円。口座番号など細かく記入した書類を返送しても、戻るのはたったこれだけ。この暮れの忙しい時期に……と辟易しました」
“宙に浮いた年金”がまさかの発覚!
同じ時期に井戸さんが門を叩いたのは年金事務所。老齢年金の受給をストップする手続きが必要だからです。
ところがここにも面倒の種が。幸子さんが独身時代、銀行に勤めていたときの、いわゆる「宙に浮いた年金」が出てきたのです。これは国の管理トラブルで持ち主が不明となっている年金。
「母の旧姓で検索して照合されたんです。でも私は職業柄、この世代の女性は短期間で会社を辞めると、納めた分を『脱退手当金』として受け取っていたと知っていた。だからこの年金を受け取る資格はないと分かっていたんです。それでも調査のため年金記録の確認申立書を提出するよう言われて。案の定一銭も戻りませんでした」
役所や銀行を回って分かったのは、「戸籍謄本」「印鑑証明書」「住民票」という3つのフル装備がたいてい必要ということ。「発行料も重なると高額になるので、コピーでOKか事前に確認した方がいいですね」と井戸さん。
法的な手続きに慣れたプロですら苦戦した死後の手続き。せめて口座の一本化だけでも、今から動き出したいところです。
※改製作業の時期は自治体によるため、取り寄せの際に確認してください。
いど・みえ
社会保険労務士、CFP®。身近な経済問題や、年金・社会保障問題を専門とする。著書に『最新データと図解でみる 定年後のお金と暮らし』(宝島社)、『親の終活、夫婦の老活』(朝日新書)など多数。
亡くなった人のお金は引き出せない!? 「口座凍結」からお金を守る徹底ガイド
ご存じの方も増えていますが、銀行は名義人の死亡を知ると、預金を勝手に移動できないように口座を凍結します。解除には被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明、死亡診断書など多くの書類(銀行によって異なります)が必要。協力してくれない相続人がいると解除できません。
「事前の準備が大切です」と話すのは相続関連の著作のあるライターの永峰英太郎さん。まず行うべきは井戸さんのような口座の一本化。解除の手間が減るのに加え、記帳をすれば加入している保険などを確認しやすくもなります。生前贈与もおすすめ。財産を子どもに渡すことで、節税効果も。
親が存命でも、認知症や入院中でお金を下ろせないケースも。「私の場合は病気の親に代わって通帳と届出印、診断書、自分が子どもであることを証明する書類、必要な金額と理由を書面にまとめて持参したら預金を下ろさせてもらえました」と永峰さん。諦めず銀行と相談を。
取材・文=木村和歌菜 大矢詠美(ハルメク編集部) イラストレーション=古村耀子
※この記事は、「ハルメク」2017年4月号で掲載された『母の死後の”手続き”のこと 井戸美枝さん』を再編集、掲載しています。
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