しばらく見ない間にこんなに変わっていました

漫画的ビフォー・アフター(後編)

公開日:2021.07.06

時は流れ、人は変わる……。変化を生かせるかどうかは自分次第。ヒット作がたくさんあるベテラン作家でも、進化し続けます。

ピアノの弦から弓の弦(つる)へ

ピアノの弦から弓の弦(つる)へ
『いつもポケットにショパン』くらもちふさこ きしんちゃん(左)と麻子

くらもちふさこの『いつもポケットにショパン』は、80年代少女漫画の名作。タイトルにもセンスを感じます。

2018年のNHK連続テレビ小説「半分、青い。」で主人公が憧れる漫画家の作品として登場するのも納得です。懐かしいと思った人や、あらためて興味を持った人もいらっしゃったのではないでしょうか。

ピアニストを目指す幼なじみの少年少女は、ふたりの母親がピアニストで昔はライバルでした。登場人物がそれぞれの葛藤や因縁を乗り越えて、人間的にも音楽的にも成長していく姿が描かれています。

連載当時、ちょっぴりドジな麻子(アーちゃん)と、気持ちがよくわからない季普(きしんちゃん)の恋のゆくえに気をもんでいた私も若かった(笑)。

ピアノの弦から弓の弦(つる)へ
『花に染む』くらもちふさこ  花乃

今のくらもち作品はこんな感じです。

『花に染む』は弓道が重要な役割を果たしています。しかしスポーツ漫画というわけではなく、登場人物の気持ちや行動のきっかけや日常の風景として弓道の場面が出てきます。

曾我部 花乃(そがべ かの)は、神社の息子の圓城 陽大(えんじょう はると)の流鏑馬(やぶさめ)姿に心を奪われ、弓道を始めます。陽大の兄と三人で弓道に励む日々でしたが、ある夜の神社の不審火から、三人の運命が変わってしまうのです。

『いつもポケットにショパン』の後に、いきなりこの作品を見ると驚かれるかもしれませんが、40年以上の作家生活の間の変化をずっと味わっている読者もいらっしゃるでしょうね。初めのころから、背景にやたらと花など散らさない作風でしたが、絵がシンプルになってきてからますます空白の魅力が増したように思います。

第一巻の、繊細な線で描かれた人も馬も透き通るような流鏑馬の場面は、花乃でなくとも心を射抜かれてしまうほど美しいです。

戦神(マース)から創造者へ

戦神(マース)から創造者へ
『チェーザレ 破壊の創造者』惣領冬実 表紙(カバーを取ったわけではない)

こちらをご覧ください。漫画に見えませんね。シンプルでいいですが、売らねばならない出版社は、結局こんな帯をつけてしまいました。

戦神(マース)から創造者へ
帯付きの表紙

『チェーザレ 破壊の創造者』は惣領冬実が、ルネッサンス期に活躍したチェーザレ・ボルジアの生涯を描いたものです。架空の人物もうまく使って、イタリアの歴史になじみのない私たちを導いてくれます。膨大な資料を基に、当時の風俗・景観などが精緻に描かれて、本家のイタリアでも人気があります。

正確な時代考証の上描きこまれたコマ、膨大な登場人物、巻末の解説と参考文献リストなど、とにかく情報量の多い作品です。私の中では読むのに時間がかかる漫画ナンバーワンなのです。

『チェーザレ 破壊の創造者』は青年誌連載ですが、作者は少女誌でこのような人気作があります。

戦神(マース)から創造者へ
『MARS』惣領冬実   零とキラ

『MARS』(マース)は、内気な女子高生キラと同級生でオートバイレーサーの零の恋愛の物語。それぞれ心に傷を負っているふたりの周りには、良い人も悪い人も……。ふたりは困難を乗り越えようと、懸命に生きていきます。台湾や、日本で実写化されています。

アシスタントさんの仕事かもしれませんが、いつも背景やバイクなどの人物以外も丁寧に描く作家だなと思っていました。

それが、現在の作品の舞台は15世紀のイタリアですからね。恐れ入ります。
 

今回の作品

  • 『いつもポケットにショパン』 くらもちふさこ 1995年 全5巻 集英社
  • 『花に染む』 くらもちふさこ 2010~2016年 全8巻 集英社
  • 『チェーザレ 破壊の創造者』 惣領冬実 2005年~ 既刊12巻 講談社
  • 『MARS』 惣領冬実 1996~2000年 全15巻 講談社
     

 

■もっと知りたい■

K・やすな

漫画、アニメ、映画鑑賞、読書が趣味の自称「オタクな主婦」。子どものころは考古学者か漫画家志望。美術館めぐりや街歩きも好きだが、基本的に単独行動。なぜか、どこへ行っても道を尋ねられる。好きな花はカワラナデシコ。

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