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- 不器用な父との距離が縮まったこの半年間
「思い」は言葉として伝えないとなかなか相手には伝わらないものです。大分県からやってきて同居を始めた、口下手な父はこちらの家族と思うように話ができなくて、勘違いをされることが多くなりました。言葉の大切さをあらためて実感しています。
今までの父娘関係
結婚前までは父とほとんどしゃべることがありませんでした。両親は仲がよく、働き者で、二人の夢は、土地から購入して持家に住むこと、年子3人を借金することなく大学に行かせることでした。その夢に向かって一生懸命にがんばっていた姿は、幼心にも目に焼き付いています。
父は「ド」が付くほど真面目で、決して面白い人間とはいえません。もっとも母との会話にはユーモアたっぷりでよく笑っていましたっけ。 そういうわけで、結婚後、実家に電話を入れても 「お母さんに代わるな」と、父と話した記憶はあまりありません。
環境の激変
母に先立たれた父は、老夫婦二人の楽しい生活から一人きりになり、誰とも話すことがない時間が多くなって、さぞかし寂しかったことでしょう。特に体調の悪い日などは家族がそばにいてくれたらと何度思ったことか……。
そんな父は住み慣れた場所を離れる決心がなかなかできなくて、体力の限界までがんばってしまったのです。さすがに、台風が近づいているのに、避難場所への移動ができなかったという昨年(2020年)の出来事には驚いてしまい、父一人での生活はとうてい無理だと判断しました。
そして、大分県から東京の我が家にやってきた父。
静かな一人暮らしから、にぎやかな都会での生活へと変わり、今まで自由気ままに過ごしてきたようにはいきません。父も娘もお互いが我慢をする日々を送っていました。
刺激のある生活
父は我が家のルールに、いまだになじめていません。さらに、運動量がどんどん少なくなっていき、散歩の件で、私が怒ることが多くなりました。
父を動かす工夫として、大好きなお茶を入れる、新聞をポストまで取りに行く、部屋のゴミ出しなど簡単な作業をしてもらうことにしました。心を鬼にして、本人にさせることを家族にも協力してもらったのです。
たまに、怒る私に反論をして喧嘩にもなりました。それでも思うのです。一人きりでは会話さえ無く、喜怒哀楽は当然ありません。言い争いになってもまた仲直りというごく普通の刺激が父には新鮮だったに違いないのです。
「ありがとな」
こたつで座椅子に座り、新聞や録画したビデオを見ているときの父は穏やかないい顔をしています。
「この場所におられるだけで極楽やー」と、私にはこうしてうれしい一言を言ってくれるように。
夫やその他の家族にも直に言ってもらえると感謝の気持ちがもっとストレートに伝わるのにな……。父の不器用な性格が残念でたまりません。
感情豊かに過ごしたこの半年間は、父とぐっと距離が縮まった意味のある時間に思えます。脳の老化は進行しても、きっと我家での思い出は強烈に刻まれたのではないかと思います。
「お父さん、思いは言葉にして伝えないと伝わらないからね。『ごめんね』と『ありがとう』に素直に言わなきゃね」と、握った父の両手をゆっくり放しました。
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