通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第10期第2回
今月のおすすめエッセー「壁の穴」佐々木はとみさん
今月のおすすめエッセー「壁の穴」佐々木はとみさん
更新日:2025年05月31日
公開日:2025年05月30日
壁の穴
寝室の壁に大きな穴がある。
この穴は私が開けた穴である。
いつだったかな? 12年前ぐらいにいろんな思いが溜まり、壁に自分の拳をぶつけた時の穴である。
拳より少し大きな穴。
次男が旅立ち、悲しみや怒り、妬み、そねみ、嫌み、といろんな気持ちがあふれ出てきて、自分ではどうしようもなかった時期があった。
夕方になってもボーッとしていた私に夫が「まだご飯作らないの? お腹すいたよ!」と言ったのだ。我慢していたものが爆発した。夫に暴言を吐き、自分の部屋へ行き、思わず自分の拳を壁にぶつけてしまった。
その後、気持ちを落ち着かせキッチンへ行き、無言で夕飯を作り、テーブルへ出し、私はそのまま自分の部屋へ戻った。
男の子を持つ人から、イライラしたのか? 息子の部屋の壁に穴が開いていると聞いたことがあったが、まさか私が開ける方になるとは思ってはいなかった……。
次男が旅立ってもうすぐ15年となる。その壁の穴が開いてからずっと私の感情をその穴にぶつけてきた。
次男が元気であれば小学校の卒業式だった日。中学校の入学式の日、卒業式の日。そんな日にはその穴を眺める。命日や誕生日にも。成人式の日は私の誕生日でもあり、とても悲しく、ずっと穴を眺めていた。
先日は近所に住む次男の同級生が車を運転していた姿を見かけたり、結婚したと聞いた時……。これからもいろんなことがあり、その穴にはお世話になるね!
壁の穴、これからもよろしくお願いします。
山本ふみこさんからひとこと
しみじみ読みました。
壁の穴よ、はとみさんを守ってくださり、どうもありがとうございます。
そう穴に伝えたくなりました。
悲しみを、やりきれなさを、さびしさを壁の穴にそっと引き受けてもらうはとみさんの「覚悟」。かっこいいなと感服しています。
よく書いてくださいました。
正直であり、でも、書き過ぎず……そのバランス、お見事です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
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