通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第10期第5回
今月のおすすめエッセー「100字エッセーの展覧会」
今月のおすすめエッセー「100字エッセーの展覧会」
公開日:2025年08月31日
100字エッセーの展覧会
●浅井京子
ドクダミ科の半夏生、手入れされた庭の半夏生もいいけれど、ドクダミと同じで地下茎がどんどん範囲を広げて生息するようだ。好きなところに好きなように伸びていけ、何と言われようと、私も同じように生きていく。
●大井洋子
野菜高騰の折、雑草を食べてみる。春紫苑の葉のお浸しは苦いが、天ぷらは良い味。味噌汁に入れた露草は、ざらついた。スベリヒユはエグ味がなく、茎の歯応えはゼンマイに似る。美味いので、保存食用に茹でて干した。
●石川久子
私のピアノは気むずかしい。冬は北風がドアの隙間から入ると、音が出なくなる。暑すぎても、寒すぎてもいい音が出ない。はじめて私の所にきてから6か月。やっとこの環境に慣れてきた。毎日会話しながら楽しく弾く。
●磯野昌子
バッグに小さくカットした折り紙を入れて電車の中で折る。立っている人、すわっている人皆スマホを見ている。以前は、折っていると目が合う。「それ何ですか」と聞かれると「どうぞ」と渡すが、今はそれもない。
●かあか
「これで一杯やれや」ぶっきらぼうの漁師さんがバケツから「ひょいっと、あんこう」を持ち上げた。大きな口、肝は最高においしい。「ありがとうございます。お鍋にします」漁師さんが目を細め、「ほおか」と言う。
●けらけら
亡き母の思い出の料理は「鶏飯(けいはん)」である。奄美地方の郷土料理で、色々具材をのせて熱い鶏ガラスープをかけて頂く。奄美出身ではないので、きっと料理番組でも観て作るようになったのだろう。新し物好きな母だった。
●サーリ
20歳まで5年間片思いをしていた。白いあじさいが雨に打たれているのを見た時この恋に終止符を打つことを決めた。白い花のとなりに咲いていた赤紫の花が次にいきましょうとわたしにささやく声がきこえたから。
●堺なおこ
朝顔の鉢を買った。本当に朝だけ咲いて、昼にはかたく絞った手ぬぐいのように閉じる。実は朝だから咲くのではなく、日没後の時間経過で咲くそうだ。そういえば少しずつ花開く時が変わってきている。毎朝朝顔と話す。
●相良章子
黒い羽をひらひらさせて舞うのは羽黒トンボ。見たらいいことがあるとか、神様トンボとも言われるとか、ネットで検索すると、良いことばかり書いてある。庭で毎日のように見ているけれど、きっと今、わたしは幸せなんだ。
●さくら
手話を習い始めました。50音の指文字をやっとこさっとこ覚え、日常会話表現を覚えては忘れるの繰り返し。コミュニケーションをとるにはまだまだ遠いけれど、地道で必死な学びの日々は学生の頃のようで新鮮です。
●佐々木はとみ
自転車で帰宅中、信号で止まっていた。中学生の男の子2人が、「こんにちは、暑いですね」と挨拶してくれた。「こんにちは、おばちゃんに挨拶してくれて偉いね、部活は?」に「野球部です」と嬉しい嬉しい夕方。
●椎名かほり
あっちの世界ってあるのかしら? あるとしたら、やっぱり空かなと思って見上げると、一面にあかね空のいわし雲。「そっちの世界はどんな感じ?」いわし雲がにじんでいく。「まだ話したいことがたくさんあるのに……」
●鈴木清美
玄関の扉を開ける音とともに、竹やぶの中から雀が数羽とび立った。朝、目の前の竹やぶだけが黄緑色の色を放っていた。面くらう。物語「舌切り雀」の絵本の中に佇んでいた。「雀のお宿はここかいな」
●説田文子
カレンダーをめくると、田中一村の絵が胸を撫でる。静かな波音と風に揺れるシュロの葉の音が聞こえる。「知らんけど」と言いたげにアカショウビンが水平線の向こうを眺めている。「群れていなくても大丈夫さ」と。
●前場勢津子
夏の夕方のゆったりとした時間が好き。暗くなりかけた庭の片隅にポッと光が射した。目をむけると小向日葵達が揃ってこちらを見ている。ねぎらいの水をザーッとかけながら声をかける。今日もありがとう、暑い中。
●田口瑞穂
深夜の湯船に浸かっていると、しみじみと浮かんでくるのは「またね」と別れた光景だ。父とだったり母だったり友であったり。次が無いとは思わなかった最後の笑顔が浮かぶ。湯の中で心が潤(ほと)びていく。
●田中良子
「さだまさし」のコンサートに行ってきた。4700回目。隣の80才の女性はそのうち466回観てきたそうだ。全国ツアーや海外ツアーは特に楽しかったとか。子育て後に夢中になれるものを見つけたのですね。
●玉木裕子
紺碧の空に氷のえんぴつで描いたような一直線。なんていさぎよい。暑さに負けない線だ。その線を残しながら飛行機雲は伸びていく。それだったらわたしも、もう少し。あの小さな木陰まで歩きつづけよう。一歩ずつだ。
●富山芳子
最近なぜか庭で地面を這う虫との出会いが少なくなった。以前は土を掘ればミミズやコガネムシの幼虫、ダンゴムシの群れに出会ったものだが、今は滅多にない。たまに以前からここを住処にしているトカゲに出会うとほっとする。
●鳥山潤子
12年一緒に暮らしているのに、膝にのってくれたのはたったの一度だけ。猫のおかげで待つこと、期待しないことをおぼえた。緑色の大きな瞳がこのところ少し白っぽくなっている。いつか膝の上でゆっくり語りあいたい。
●長谷川恵美子
朝、ヨガをしている。朝食もほぼ同じメニュー。調子は良い。面倒になることもある。日々面倒と戦っているようにも思う。ルーティンの心地良さと面倒くささ、日にせめぎあっている。今日はどちらに軍配が上がるか?
●羽生惠子
歯科衛生士を待つ間の椅子の上、窓からぼんやり空を眺めていた。真っ青な空に綿菓子をちぎって寄せ集めるように小さな雲がぽっかり生まれ、そしてまもなく綿菓子を少しずつ食べたかのように……「わっ、消えた」
●ヒトリシズカ
食事の後、お盆の上に片付けるものをどういうふうにのせると一回で済むか。いろいろ置きかたを考える私。サッサと二度運ぶ夫。動くのが嫌だからではない。これも脳トレと自分にいいわけをしながら、ズクをやむ私。
※ズクをやむ:長野県の方言。「ずく (やる気、根気) をやめる」=「ずくがない」状態、つまり「やる気がない」「面倒くさがって何もしない」という意味。
●古谷五月
ポットの中で茶葉がジャンピング、そして静かに沈む。今はティーバッグで淹れる。白桃やチョコミント、香り付きも味わっている。ひとかけらのビスケットがあればなおよい。ホッとひといき、ゆったりと時間が流れる。
●前田もとこ
宵のざわめきがすっかり消えてしまった深夜、庭にでると全天に星が広がる。明るく輝く星がかすむほど小さな無数の星粒が両手ですくってサラサラとこぼしてみたいほど空をおおっている。これが金銀砂子なんだろうな。
●水木うらら
窓からツグミのカップルが見える。チョコチョコ歩きながら嘴(くちばし)を土の中へ。エサを探す生き物を見るだけで心はほんわかあったかい。遠い国へ飛んでいく野鳥たちが啄(ついば)む姿はもう眺められない。鳥たちとも一期一会なのだ。
●南川千鶴子
走行中、左のタイヤがコロコロ転がった。ガガガ!と音をたて、ゆっくり止まった。転がったタイヤはそばを流れていた川へボチャンと落ちた。その時、偶然夫が出張の帰りに通りかかった。そんなことある? ホント。
●宮下滿枝
lagom(ラーゴム)は、スウェーデン語でほどほどという意味らしい。この言葉を知ってからいろいろな場面で自分に言ってみている。ラーゴムでいいんじゃない。なぜか、ざわざわした気持ちが消えて、落ち着く。
※掲載は五十音順・敬称略
※掲載にあたりルビは()内に記載しています。
※一部の作品は、講師監修のもと加筆・修正を行いました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
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私の名前が違っています。石井ではなく石川です。基本的な事ですよね。
ハルメク エッセー講座担当です。 イッシーさま、この度はお名前の誤表記の件、深くお詫び申し上げます。また、頂戴したコメントの確認が遅れましたこと大変失礼いたしました。 現在、訂正し再掲載させていただいております。 繰り返しになりますが、この度はご不快な思いをおかけし誠に申し訳ございませんでした。 今後再発防止に尽くし、確認を徹底してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。