通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第10期第6回
今月のおすすめエッセー「メシメシ」ヒトリシズカさん
今月のおすすめエッセー「メシメシ」ヒトリシズカさん
公開日:2025年09月30日
メシメシ
海なし県の村の山際に住んでいたせいか、子どもの頃は、魚といえば、暮のサケ、田植の定番こびれ(こびれとは、方言でおやつのことである。)のニシンとわらびの煮物、春先のタケノコとサバ缶の煮物、それから、サンマぐらいである。
中学生になる頃まで、サンマは、一匹ごと焼いて食べるとは思っていなかった。
うちでは、サンマを半分に切って、小麦粉をつけて、油で焼き揚げるようにして食べていたからである。
ある時、一匹丸ごと塩焼きにして食べるということを知り、母に言うと……
「それはな……」
と話してくれた。
じいちゃんは、サケの骨も、サンマの頭も、いろりのワタシでよーく焼き、全て食べる。
しゅうとが残さないから食べないわけにはいかず、すっかり食べられるようにするには、どうしたらいいかと、苦肉の策で揚げ焼きにしたとのこと。
すると、サンマをふたつに切った頭のほうを、じいちゃんは好んで食べるので、ニガテな部分を食べずに済み、残りのしっぽの白身の多い部分を食べることができたという。
何が幸いするかわからない。窮すれば通ず……ということのようである。
小学校の遠足のお弁当には、お寿司はいけないことになっていたが、のり巻やいなりを持ってくる者はあった。
ある年の遠足のお昼のこと、お弁当を広げてみる。いつもよりずっと小振りのおむすびが、いくらか入っていた。
食べてみると、酢飯で、中の具はかんぴょう。形はおむすび、味はのり巻だった。
コンビニもない時代だったせいか、たまたま先生のお弁当に、おむすびを頼まれたのである。
梅やみそ漬けの質素な具では申し訳ないと、考えた末のおむすびだったようだ。
先生も一緒に食べたが、特に何も言われることはなかった。
見た目は完全におむすびだし……。
おかげで、私は、いつになくふんぱつ弁当を味わうことになった。メシメシ──いやシメシメなでき事である。
おむすびのようでおむすびでない。
のり巻のようでのり巻でない。
新作弁当!
山本ふみこさんからひとこと
2つの話で組まれていますが、構成がいいですね。自然です。
サンマのくだりでは、さてどうなる? とどきどきしました。揚げ焼き、してみたくなりました。
それに、小振りのおむすび(海苔巻き風)も食べたいなあ。
こんなふうに、読者のお腹を「くう」と鳴かせる、想像させる、というのが、読者を思って書くことにつながります。自分の思いだけで突っ走っても、そうはなりません。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
■エッセー作品一覧■




