017:加藤由布子さん(61歳)
58歳で早期退職して海外ホームステイへ!帰国後に出合った新しい働き方
58歳で早期退職して海外ホームステイへ!帰国後に出合った新しい働き方
更新日:2025年09月02日
公開日:2025年07月12日
加藤由布子さんのリスタート・ストーリー
50歳で離婚したのを機に、自分のやりたいことにどんどんチャレンジするようになった加藤由布子さん。ノルディックウォーキングやゴルフ、ペルー発祥の打楽器「カホン」など新たな趣味を楽しんでいく中で、少しずつ自分らしさを取り戻してきた。
58歳のときに、さらに自分の望む暮らしにシフトしようと会社を早期退職。
かねてからの夢だった、フランス暮らしを実現させるべく、お試しでホームステイに挑戦。EIL(日本国際生活体験協会)が手がける、シニア向けのホームステイプログラムに応募し、フランスに2週間滞在した。
帰国後はEILで週3日事務として働く傍ら、ボランティアで海外留学生のサポートをするなど、新たな生きがいを見つけ、充実した日々を送っている。
58歳で早期退職!憧れのフランスで暮らしてみたい

――海外ホームステイに行こうと思ったきっかけは?
会社勤めをしていた50代後半、コロナ禍と慣れない管理職の仕事に疲労度が増す中、「そろそろ引退して自分の望む暮らしにシフトしたい」と思うように。その望みの一つが、「憧れのフランスに長く暮らしたい」という夢でした。
ただ、言葉もわからないですし、いきなり住むのはハードルが高いと思い、まずはホームステイで暮らしを体験してみようと思い立ちました。会社は2022年、58歳のときに早期リタイア。夢への第一歩に踏み出すべく、37年間の会社員生活を卒業しました。
――会社を早期リタイアする際、経済的な不安はなかった?
私自身、取り越し苦労な性格で、子どもの頃から先々のことを心配して気を揉むタイプ。なので、お金の不安も早いうちからつぶしておこうと、20代の頃から、個人年金の積み立てを始めたり、投資信託にチャレンジしたりしてきました。
その後失恋をしたときも、「もう一生、一人かもしれない」と不安になって、30歳で都内に家を購入。大きな買い物でしたけど、結婚時には賃貸に出して収入源の一つになったのと、離婚時にはちょうど借主さんが出ていくタイミングと重なって、スムーズに売却できました。
その売却金と若い頃に始めた積み立てのおかげで、安心して会社を早期リタイア。心配性で取り越し苦労な性格が、はからずも私の人生の味方になってくれました。
――ホームステイの準備はどうやって始めましたか?
シニア向けのホームステイプログラムにも力を入れている、 EIL(日本国際生活体験協会)に参加の申し込みをしました。
EILを知ったのは、私が20代の頃から公私ともにお世話になっている大先輩で生活研究家の阿部絢子さんがきっかけです。阿部さんは、EILを通じてドイツやフランス、イタリアなど世界各国にホームステイをされていて、よく話をしてくださいました。
その国の文化や物の考え方をより深く理解するには、実際にどのように生活しているかを見て体験することがベスト。そこで、旅行では味わえない体験を期待してEILのプログラムに参加したんです。
プログラムに申し込むと面接やオリエンテーションなど、渡航のためのステップを踏んで、実現に近づいていきました。

――海外ホームステイの期間やかかった費用は?
フランスの北西部、ノルマンディー地方にある「バニョール・ド・
面談で相談するうちにパリ以外の地方に目が向いて、自然豊かな森や地元の新鮮な食材を楽しめる街。そして森林の中で趣味の「ノルディックウォーキング」ができる場所を、と考えて、滞在先をここに決めたんです。
EILに支払った費用は、ホームステイ先やホストファミリーの仲介、渡航前後のサポートと、2週間の滞在費(食費含む)などで約23万円ほど。
現地への渡航費やホームステイ先へ向かう交通費、現地での買い物やアクティビティなどの費用は別途、個人で支払う必要があります。
2週間のホームステイは総額で5、60万円ほどかかりました。
私は前後でパリやベルギーにも立ち寄りました。こんな風に自分の都合のよい期間で、ホームステイ前後に自分の旅行も計画できるのもこのプログラムのいいところですね。
得たのは「日本以外でも暮らしていける」という自信

――ホストファミリーとの関係は?
出発は2023年の3月。ホストファミリーは前年にご主人を亡くされ、一人暮らしをされている、70代のマリーズという女性でした。
現地までの交通手段を自分で手配する必要があるので、無事に待ち合わせの駅に着いたときはホッとひと安心。マリーズが、「HELLO YUKO」のウエルカムボードで出迎えてくれたときは涙が出るほどうれしかったです。
聞くと、マリーズは自転車のロードレースにもチャレンジしているような、とってもアクティブな女性。なんだか気が合いそうな気がして滞在がますます楽しみになりました。
言葉は、私のフランス語とマリーズの英語が同じぐらいのレベル感だったので、お互いに英語とフランス語の単語を言い合って、なんとか意思疎通を(笑)。あとはGoogle翻訳が大活躍でした。
――滞在中はどんなふうに過ごしたの?
初日に家事の役割分担を決めて、私は毎食のテーブルセッティングと片付けを担当しました。スープやパン、サラダ、たまに煮込み料理などシンプルな家庭料理が中心でしたが、作り方はもちろん、暮らしの道具や収納などを見せてもらったのも、とても興味深かったです。
近所の森にノルディックウォーキングのコースがたくさんあったので、毎日2人で森の中を歩いて、それぞれの人生を語り合ったのもいい思い出です。
最終日には娘さん一家や近所の方たちを招いて、私から感謝のおもてなしを。現地のマルシェで揃えた材料と、日本から持参した食材で、とんかつ、豚の生姜焼きをふるまうと、みなさん珍しそうに食べてくれました。中でも一番喜ばれたのは、生け花。持参した剣山で、庭の花や木の枝を生けると、「アシンメトリーな表現が日本的で美しい!」と料理以上に褒められたのもいい思い出です(笑)

――ホームステイにチャレンジして得たこととは?
一番は、「私、ここで暮らしていける」という自信でしょうか。
そう思えたのは、“この土地だったから”なのかもしれません。ノルマンディーの人たちの、人への優しさや温かさ。自然とともに無理なくゆったりと暮らす生き方――。それらが私の心に真の豊かさを教えてくれた気がします。
もともとはパリに住みたいと思っていたけれど、パリじゃなくてもいいんじゃないかなって。自分が心地よく居られる、等身大の暮らしを実感できたのが、私にとっては大きかったです。
――ホームステイで後悔せずに楽しむコツは?
初日に、ホストファミリーの生活ルールや一日のルーティン、曜日ごとのスケジュールを聞いて、自分が関われる部分やお手伝いできることを先に決めてしまうこと。
2週間の中でお互い探り探り暮らすより、シンプルに話し合う方が気持ち的にも楽ですし、より快適に過ごせると思います。
もう一つは、滞在中、自分が何をやりたいのか、「希望を明確にすること」です。叶うか叶わないかは別としても口に出して伝えてみること。
私も、事前に現地でやりたいことを伝えていたので、マリーズがいろいろと予定を立ててくれて、教会やお城など古い建造物を巡ったり、ノルマンディー地方の名産カルヴァドスやチーズの生産者さんのもとを訪ねたりと、貴重な経験ができました。
滞在期間が限られているからこそ、遠慮せずにやりたいことを前面に出していくと何倍も楽しめます。
――海外ホームステイの醍醐味とは?
世界中に、友達や家族ができること。
実は海外ホームステイは今回が初めてではなくて、中学・高校時代にもアメリカでホームステイをした経験がありました。10代の頃にお世話になったホストファミリーと今でも交流が続いていて、互いの国を行き来して、ずっと仲良くさせてもらっています。
もちろんマリーズともご縁が続いていて、今年5月には2年ぶりに“里帰り”が実現しました。
共に暮らすというホームステイ体験は濃い絆が生まれるからか、不思議と“一生の友達”になっていきやすい。まるで世界中に心のふるさとが増えていくみたいで、幸せな気持ちになります。
帰国後、縁あって始めた「新しい仕事」とやりがい

――ホームステイ後の仕事や住まいはどう変わりましたか?
帰国後の予定は立てていなかったのですが、ありがたいことにホームステイ中にオファーをいただき、帰国後、EILで働くことになりました。そのため、今は日本で暮らしています。
事前面談をした際に、EILが世界で初めてホームステイのプログラムを始めた、歴史ある国際団体だと知りました。「民間レベルでの交流が国際平和につながる」という理念のもと、交換留学生の派遣や受け入れをはじめ、18歳以上のホームステイプログラムに力を入れていると聞き、「私もぜひボランティアとしてお手伝いできたら」と、担当の方にお伝えしていたんです。
その後、フランス滞在中に現地での近況をレポートすると、担当の方から「帰国したら、一度事務所に来てくれませんか?」とのお声が。まさか職員の採用面接のお誘いだと思っていなかったため、驚きました。
フルタイムで働くことは考えていなかったので、週3日のパートとして勤務させてもらうことに。リタイア後に新たな職にめぐり合えるなんて、思ってもいませんでした。

――EILではどんな仕事をしていますか?
交換留学生の受け入れをはじめ、個人ホームステイしたい人のカウンセリングや現地とのやり取り、出発までのサポートを行っています。自分の経験がそのまま生かせるので、とてもやりがいがあります。
ほかにもボランティアとして、来日した海外留学生の近況や悩みを聞く身近な相談役「エリアレップ」もしています。10代の留学生たちが目をキラキラと輝かせながら、日本でたくましく成長する姿を見ると親心のようなものも生まれてきて。
私自身、子育て経験がないことや、会社でも部下を育てるのがうまくできなかったことが心残りでしたが、今になって、「人を育てる・成長を見守る」という宿題をさせてもらっているのかなと、ありがたい気持ちです。
――「あの過去があったから今がある」と思えることは?
40代後半のとき、離婚のことで思い悩み、心療内科に通っていた時期がありました。そこで気付きを得られたこともありましたが、毎回カウンセリングに通う中で、「これっていつまで続くの?」と疑問に思うように。自分で学ばないと状況は何も変わらないと思い、心理カウンセラーの資格を取得したんです。
あのときは本当につらかったけど、学びを通して自分を大切にする生き方や考え方を知ることができました。
離婚が成立した50歳からは生まれ変わったつもりで、やりたいことをどんどんやっていこうと、ノルディックウォーキングやゴルフ、さらにはペルー発祥の打楽器「カホン」にも挑戦。
好きな仕事や趣味をマイペースにできている今の暮らしが天国のように感じます。

――あなたの座右の銘は?
「人間万事塞翁が馬」です。
今までの人生を振り返ると、悪いと思うことが起きても結果、いい方向に向かっていたり。逆にいいことだと思っていたのが、あとあと良くない方向に転んだり……。だから、目の前のことにあまり一喜一憂せず、「ただ前を向いて生きていこう」と思うようになりました。
そうやって一歩一歩、進んで行った先にあるのは、誰よりも笑っている自分の笑顔! 「最後に笑うのは私」という強い気持ちも、腹の中ではいつも持ち続けています(笑)
――これからやってみたいことは?
心配性なので、60代になってからは、家の中で階段の上り下りをしたり、ノルディックウォーキングなどで体を動かしたり、足腰を鍛えることに余念がありません(笑)
それから認知症対策も。
いつも10年後を見据えて、できることをしっかりやって、人生を楽しみながら進んでいきたいですね。
50代のリスタートに必要な3つの備え
趣味も働き方も友達付き合いも自分の気持ちに正直に選んでいったら、ノンストレスに。新しい人生を始めたいなら、自分の心と一度ゆっくり向き合ってみるといいですよ。
1.未来のために「過去の振り返り」をする
自分がこの先の未来で何をしていきたいのか? そのヒントは過去に眠っていると思うんです。自分がこれまでやってきたことや、やり残していること……。それらを振り返ると未来のビジョンが見えてきます。マインドマップで図にしていくと、思考が整理されやすくなりますよ。
2.目指すべきテーマを掲げる
青山学院大の原晋監督が今年の箱根駅伝で「あいたいね大作戦(ゴール時にチーム全員で笑顔で再会する)」とテーマを掲げて、総合優勝に導いたように。「今年はこうする!」「50代はこんな年代にする!」などとテーマを掲げると達成しやすくなります。言葉にすると意識もその方向に向きますし、具体的にやるべきことも見えてくるのでおすすめです。
3.心地よく居られる「仲間」を持つ
「50代からは自分が心地いいと感じる人しか付き合わない!」と決めたので、趣味の仲間もそういう方たちばかり。みんなに会うと元気になるし、楽しさも倍増するので、自然と趣味も続けられています。新しいことを始めるときは、そうした“心地いい仲間”を持つと継続につながる気がします。
取材・文/伯耆原良子 撮影/masaco 構成/長倉志乃(Halmek up編集部)
(公益社団法人)日本国際生活体験協会(EIL)
電話:03-5805-3451
https://www.eiljapan.org/
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あなたの“リスタートのヒント”が、きっと見つかるはず。
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