海原純子さんの幸せに生きるヒント4
人前で緊張しない方法は?心療内科医が解決策を伝授
人前で緊張しない方法は?心療内科医が解決策を伝授
更新日:2023年05月12日
公開日:2021年07月10日
海原純子(うみはら・じゅんこ)さんのプロフィール
1952(昭和27)年神奈川県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。医学博士、心療内科医、産業医。昭和女子大学客員教授。最新刊に『こころの見方 いい気分を貯めて暮らしたい』(毎日新聞出版刊)。心をラクに、幸せに暮らすためのヒントを学ぶオンライン講座・動画も人気。
人前で話すと緊張する、克服には数と経験が必要

人の前で話すことが大丈夫、という方はいらっしゃいますか? こんな質問をしたとき「ハイ、大丈夫」と答える人は、どのくらいいらっしゃるでしょうか。人前で話すことをお仕事にしている人でも自信を持って大丈夫と言える方は、ごくわずかだと思います。
例えば久しぶりの同窓会、少しあらたまった会合、ハルメクの読者の集い、あるいは仕事場など、人前でプレゼントしたり、スピーチしたりすることは、その内容についての心配と、単に人の前で話すことへの恐れが両方重なるから怖いのですよね。
かくいう私も、ずっと人前で話すことには抵抗がありました。学生時代は人前で話すどころか、国語の時間に朗読の順番が回ってくると心臓がどきどきして苦しくなり、声が震えて大変でした。
人前で話すことを何とか克服したいと常々思っていた私は、大学に入学してから演劇部に入り特訓。医学部は女子が少ないので演劇部に入ると主役は必ず回ってくるんです。この訓練はとても役に立ちました。そこで覚えたことは、人前で話すことを克服するには場数と経験が必要だということです。
人前で緊張しないで話すには、日常化が鍵

人前で話す機会が何度もあるほど、話すことは日常化してきます。これが大事なんですね。毎日していることは緊張しないはずです。みなさんは家族と話すとき緊張しますか? 毎日顔を合わせる家族の前では緊張しませんね。それは、それが日常的に行われ慣れているからなのです。
ですから知らない人、初対面の人の前で話す体験を多くして、それが日常的になれば緊張しないといえます。怖いなあ、と思って避けているうちは、ますますそれが苦手になるのです。
スピーチが得意なイメージがあるアメリカ人ですが、それは違うようです。私は2008年から10年までハーバード大学大学院のヘルスコミュニケーション研究室で客員研究員をしていました。このとき研究室を共同主宰するダナ・ファーバーがん研究所の、職員を対象としたスピーチのワークショップに興味を持ち参加したことがあります。
そこには「人前で話すことが不得意だから、とにかくスピーチの訓練をしよう」という意気込みがすごいなあ、と思う方がたくさん参加していました。こうした努力をしているんですね。その積極性が人を変化させていくんですね。私は苦手だから、と話す機会から逃げていればいつまでも上達しない、それを見せつけられた気がしました。
苦手や不安の殻からすんなり抜け出すことなんてできません。殻から抜け出すにはそれなりの覚悟と努力、積極性があるかないか、にかかっています。
ワーク:人前で緊張しないで話すポイントは?

では、実際に、人前で話す前、あなたはどんなふうになりますか? 不安、胸がどきどき、手に汗をかく、そんな感じですよね。何も考えられなくなる、深呼吸しようとしても胸が詰まり息が吸えない、というときもあるでしょう。
そんなときに役立つポイントをまとめました。ぜひ試してみてください。
- 足の裏を意識する
まず、自分の足の裏を意識してください。私の足の裏はここにあり、足の裏は地面に接している。こうして足を地に着けることで意識を落ち着かせます。 - 終了時のイメージング
さらに話し終わったときのフーッ、と緊張が取れたその瞬間を思い浮かべます。その瞬間に向かって自分が進んでいる、という意識を作ります。 - なじみの顔、共感してくれる人の顔を見て話す
話を始める前に、聴いている人たちの顔をぐるりと見渡し、にこやかにあいさつして自己紹介などしたら、その際になじみの顔、知っている顔を探しましょう。その顔に向かって話します。また話している最中に、話に共感してくれる人が見つけられるはずです。うなずいてくれる人を見つけ、その顔に向かって話せるようになると、さらに落ち着きます。
苦手なこと・不安を乗り越えるには逃げないことも必要

それでもまだ不安やドキドキすることを避ける方が多いですね。「私はこういうことは苦手で」と言って人前で話さないでおくと、一生人前で話すことを避けていなければなりません。しかし責任を持って生きる大人として、一生苦手なことから逃げるのはどうなのかな、と思いませんか。
不安を乗り越える方法として、心療内科でしばしば提案するエクスポージャー法についてご紹介します。これは、電車に乗るのが不安、などの症状で知られる不安神経症の治療に応用されている方法です。
例えば電車に乗るのが怖い、なのでやめて電車を降りる、すると不安は消える、しかしまた乗ろうとすると不安、そしてやめる、不安は消える、というパターン。これですと、電車を降りていれば不安は消えるのですが、また乗ろうとすると不安が起きる、の繰り返しです。
そんなとき、あえて不安要因を避けたり逃げたりせず、そのまま電車に乗るのです。すると不安で倒れそうになりますが、しばらくすると、それが少しずつ収まり落ち着いてきます。この感覚を覚えていただき、自信を付けて不安を乗り越えるというものです。つまり不安な状況にエクスポージャー(暴露=さらす)することで状況を体験し乗り越える、のです。
人前で話すのが苦手な方はその不安から逃げず、あえてそれを体験しつつ自信を付けていくのが一番かな、と思います。最初から人前で話すのが平気な人は、おそらくいないでしょう。誰でも、失敗したり恥ずかしい思いをしたりしながら、だんだん人前で話ができるようになるのだと思います。
自分の進化を感じれば楽しくなる

話すことを中心にお話ししてきましたが、生きていれば誰しも何かしら、不安なことや苦手なことを抱えるものです。
仏教詩人の坂村真民(さかむら・しんみん)は、「鈍刀を磨く」(『坂村真民一日一言』致知出版社刊に掲載)という詩で、このようなことを書いています。
切れない刀を磨いても無駄だと人は言うけれど、それでも一生懸命磨くのだ、刀は光らないかもしれない、しかし磨く本人が変わってくる、刀が磨く本人を光るものにしてくれるのだ、だからせっせと磨くのだ──。
苦手なことをしていると、うまくはいかないんですけれど、何かが変わってくるんです。少しずつでも以前より、今の自分が進歩したかもしれないと思えることは、生きている喜びになるかもしれません。それを楽しみに、苦手なことこそ、どっぷり浸かってみるのもいいかな、と思います。
ワンポイント・アドバイス:頭が真っ白にならない3行メモ
いざ話をしようとすると頭が真っ白になるという方も多いですね。あらかじめ話したいことを紙にまとめるのは大切ですが、話のすべてを書こうとしても無理。こんなときは、3行メモがおすすめです。
重要なキーポイントになる言葉(単語)を3つ選び、大きな字で3行のメモにします。こうしておけばはっきり見えますし、単語が話を誘導してくれます。
構成=前田まき(編集部)※この記事は「ハルメク」2017年7月号掲載「こころのはなし」を再編集しています。
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