【ラジオエッセイ】だから、好きな先輩32 漫画家・杉浦日向子
2024.12.172023年09月09日
随筆家・山本ふみこの「だから、好きな先輩」30
文筆家・杉浦日向子さんから学ぶ「人と違う視点」
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、文筆家で江戸風俗研究家の「杉浦日向子」さん。山本さんと同い年の杉浦さんから学んだ「人と違う視点を持って生きる」ということとは……。
好きな先輩「杉浦日向子(すぎうら・ひなこ)」さん
1958-2005年 漫画家・文筆家・江戸風俗研究家
東京生まれ。漫画家としてデビュー後、江戸風俗を題材に作品を描き続ける。『合葬』『百日紅』『東のエデン』など漫画の他『江戸へようこそ』『大江戸観光』『お江戸でござる』などエッセイストとしての著書も多い。
「ひととちがう視点を持って生きる」ということ
数か月前、10歳年下の友だちから杉浦日向子の『百物語』のはなしを聞きました。
「『百物語』に自分が死んだことに気づかず、毎日ごはんの支度をする女のはなしがあるんです。死後も家族のために台所に立ちつづけるっていうのは、女の性(さが)なのかなあ」
この瞬間です。わたしの胸のなかに杉浦日向子がもどってきました。漫画もエッセイも大好きだったし、1993年に漫画家引退を宣言したあとの江戸風俗研究家としての活動も追っていました。
けれど2005年、下咽頭(かいんとう)がんのために46歳で亡くなったとき、激しく動揺し、そのまま遠ざかってしまったのでした。いわば再会です。その年の夏は、たくさん本を読み返しました。
ひととちがう視点を持って生きることをもっと大事にしましょうよ、とわたしにおしえてくれたのが杉浦日向子です。
あの世を慕わしく思う気持ち。異形(いぎょう)のものに興味を持ち、自分のなかの異形を自覚するという考え(正形なんて何さ、そんなもの存在するのか?と思うまでになっています)。どちらもいまのわたし自身の根本思想となっていますが、それを築いてゆくとき、杉浦日向子の影響があったのではなかったでしょうか。
必要最小限のもので暮らし、ものを持ち過ぎない生き方
長いこと遠ざかっていたことは不本意ではあったけれど、こうして「読む」ことで再会がかないました。あの世のひととも出会うことがかなうのが読書なのだと、杉浦日向子があらためて伝えているような気さえします。
こころのなかに死者を感じ、死者と語り合うことから、はじまることがありますよ、と彼女は云(い)うかもしれません。ところで、読書でこんなのをみつけました。
「江戸の人達に共通に言えることは、私たちよりはるかに楽に生きて、楽に死んでいったのではないかということです。背負うものがとても少なく、必要最小限のもので暮らし、ものを持ち過ぎない」(『江戸へおかえりなさいませ』河出書房新社刊)
ああ、こうしてわたしはいい時期に江戸のスピリットとも再会できたな、と思いました。
そういえば、杉浦日向子は先輩じゃあありません、同い年です。本の袖にあるプロフィールを見たら、4日だけわたしが先輩だとわかりました。
今回はそういうわけで「だから、好きな後輩」でございます。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2018年11月号を再編集し、掲載しています。
>>「杉浦日向子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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