キレイごとでは済まされない30年ぶりの介護同居

【介護体験談・後編】要介護の母と「後悔してもいいから逃れたい娘」の線引き

【介護体験談・後編】要介護の母と「後悔してもいいから逃れたい娘」の線引き

公開日:2026年01月19日

【介護体験談・後編】要介護の母と「後悔してもいいから逃れたい娘」の線引き

美恵子さん(仮名・59歳)は、フリーランスのデザイナー。介護をきっかけに90歳の母親と30年ぶりの同居生活を送っていますが、仕事との両立や母との折り合いの悪さに限界寸前。後編では、介護認定後の“母娘介護”の実態を聞きました。

だんだん生きる気力がなくなっていく母

90歳の母との30年ぶりの介護同居生活は、要支援2の認定を受けても、思うようにはラクになりませんでした。「介護は結局、家族がやれということなのでしょう」。そう感じながら働き続けるなかで、母の状態はさらに変化していきました。

高齢になれば、だんだんできないことが増えていく。それはわかっています。しかし、できないことが増えるのと、やってみようという気力がなくなるのは別の話。

「本を読みたい」と言うから渡しても見ようとしない。「塗り絵がしたい」と言うから用意しても手をつけない。テレビを見ている時間は増えましたが、内容は把握していないようでした。このままではあっという間に寝たきりになる。そうなれば、負担が増えるのは私です。

介護認定の見直しを申請し「要介護2」へ

そんなあるとき、母はデイサービスで転倒して骨折し、また入院することになりました。弱ってきた母のために車いすを購入し、トイレやバスルームの手すりも自腹で用意しました。

退院後はリハビリのため、近所の整形外科に車いすで通う日々。これまた私の時間的負担が大きくなりました。リハビリの理学療法士から、この状態なら要介護になるはずだと聞き、介護認定の見直しを申請。その結果、ようやく「要介護2」となり、ヘルパーさんに来てもらえるようになりました。

デイサービスの送り迎えもヘルパーさんが部屋からしてくれるようになり、私が家にいなくてもデイサービスに行けるようになったのは本当にありがたいことです。

ただ、納得できないこともあります。送り迎えはたった3分もかからないと思いますが、料金は30分単位でかかります。

ヘルパーを拒む母との攻防

私が出張で家を空けるとき、ヘルパーさんに来てもらおうと思っても、母は「他人に家に入ってほしくない」と絶対拒否。相変わらず自分の 食べるものも無頓着なので、出張前にはメニューを考え、冷凍庫にすべて用意しておきます。徹夜で仕事をした明け方に、そのままフラフラの状態で煮物を作ることもありました。

しかし、食事のメモを残して出掛けても、結局ごはんと梅干しですませていることがあるのです。

「鍋に煮物があるって言ったじゃない」
「え、聞いてない。何が入っているかわからないから開けて見なかった」

そんなやりとりを繰り返すことに疲弊します。かなり認知が歪んでいるのを感じます。5秒前に聞いたことを繰り返すことも増えましたが、指摘すると怒り出します。かと思うと、突然イチゴでジャムを作ったりする。それは私が子どもの頃に母が作っていたジャムと同じ味でした。できることとできないこと、体調の差が激しいのです。

この夏は脱水症状で家で点滴をすることになり、おむつから尿が漏れて後始末が大変でした。部屋で突然マーライオンのように吐いたこともありました。本人は「具合悪い」と寝てしまえばいいのですが、仕事を抱えながら後始末をする身にもなってほしいと切実に思います。

後悔してもいいから逃れたい!

母が一人暮らしなら受けられるはずの介護サービスも、私が同居しているから受けられない。介護しているほうにだって、仕事や生活があり人生がある。それを犠牲にしなければ親を家に置いておけない理不尽さを感じます。

私はもともとホスピタリティのない人間です。しかも母とは相性がよくない。高齢者定番の昔話を「はいはい」と聞いていられるほど暇じゃないと思ってしまいます。

子どもなら5年たてば物わかりがよく成長しますが、高齢者は5年たったらもっと物わかりが悪くなる。この状態がいつまで続くのかと絶望し、親を手にかける人が増えるのはわかる気がします。他人事ではありません。

せっかくフリーランスなのだから、もっと仕事をしたい。夫や子どももいないのだから、もっと自由に暮らしたい。でも、それができないことで、いら立ちはたまっていくばかりです。

ケアマネジャーさんに「娘さんも大変でしょう。愚痴なら聞きますよ」と言われたときは、腹が立ちました。憐れまれたくないし、愚痴っている暇が惜しいのです。

この先、どうなるのかわかりません。でも、下の世話が続くようであれば、私は白旗を揚げるつもりです。そうなってからの世話は私には無理。どこかで線引きをする日が来るのでしょう。

よく「亡くなってから後悔しないように最善を尽くしてあげて」とも言いますが、「後悔してもいいから逃れたい」、ということもあるのではないでしょうか。

それが今の私の本心です。

亀山早苗
亀山早苗

東京生まれ。明治大学卒業後、フリーランスのライターとして雑誌記事、書籍の執筆を手がける。おもな著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』『復活不倫』『人はなぜ不倫をするのか』など。最新刊は小説『人生の秋に恋に落ちたら』。歌舞伎や落語が大好き、くまモンの熱烈ファンでもある。