死へのプロセスを知って、死を受け入れやすくする
医師で作家・南杏子さんが伝える「在宅医療」での最期
医師で作家・南杏子さんが伝える「在宅医療」での最期
更新日:2023年08月19日
公開日:2023年01月25日
死へのプロセスを知っておくことの重要性

※インタビューは2021年4月に行いました。
南杏子(みなみ・きょうこ)さんの小説『いのちの停車場』では、ひょんなことから在宅医となった主人公の咲和子が、さまざまな患者宅で医療に当たり、時にはその死を看取ります。
病を得て最期を過ごす際に受ける医療の中には、「在宅医療」という選択肢があります。在宅医療を受ける患者たちはその病の状況も家族構成もさまざまです。が、共通するのは、いつか訪れる死に対し、不安と怯えを抱いているという点です。
「いずれ死を迎える家族が自宅にいる、ということは、自分の行動一つで大事な家族を死なせてしまうかもしれない。そんな可能性もはらんでいます。それは誰にとっても怖いことだろうと思います。だから在宅医療には二の足を踏んでしまう……そういう方は多いでしょう。
でも在宅医療を行う医師たちはみんな、そうした患者さんの家族に寄り添って、どう対応したらいいのか、きちんと説明してくれます。そのことを知ってほしいと思います」と南さん。
例えば死が訪れるとき、どのようなプロセスをたどるのか、あらかじめ家族が知っていれば、実際にその状態を目の当たりにしても、不安になり過ぎることなく、死を受け入れやすくなる、と南さんは言います。
作品の中では、妻の死に直面しつつ、穏やかに看取ることのできた夫が描かれます。それは、病院で迎えるのとは違った最期のあり方を示してくれています。
――「死を、学ぶって……」徳三郎がいぶかし気に咲和子を見つめる。(中略)「まずは、亡くなる一週間から二週間前です。①だんだん眠っている時間が長くなります。②夢と現実を行き来するようになります」(中略)
死後処置、いわゆるエンゼルケアが終わった後、徳三郎は咲和子に向かってポツリと言った。
「今度は怖(こわ)なかったわ、先生」
『いのちの停車場』(南杏子著、幻冬舎文庫)より
暮らしをどうよくするかが目的となる在宅医療

作品の中では家がちょっとしたゴミ屋敷になっていたり、医療スタッフが訪問することに積極的ではない患者や家族も描かれます。
――物を片付ける気力や体力がないため、ゴミ屋敷となっている高齢者の家は少なくないそう。千代の場合もその典型だろう。このままでは腐ったものを食べて中毒になったり、転倒したりする危険がある。
『いのちの停車場』(南杏子著、幻冬舎文庫)より
「在宅医療は、医療だけにとどまりません。例えば患者さんには入浴をしていただかなければなりません。寝たきりの方であればそのための仕組みも考えます。訪問入浴サービスだったり、家のリフォームだったり……。お風呂や食事と医療が同一線上にあるんです」と南さん。
こうした介護にまつわる面倒ごとが、2000年にスタートした介護保険のおかげで、家庭内の問題で終わらず、世の中みんなで考えられるようになった、と南さんは言います。
「医療現場では、今でもやはり自宅に家族以外の人が入ることを嫌がる患者さんやその家族に出会います。『他人様に迷惑はかけられない』と。
まず知っていただきたいのが、“自宅で介護”のイメージは、20年前と今とではまったく違うということ。10年前、5年前とも違います。在宅の現場はどんどん新しくなって、より使いやすい道具も開発されていますし、支援の種類も改良されて便利になっています。
みなさんの地域ではどうなっているか、知っていただいて、在宅医療を当たり前の選択肢の一つに感じてほしいですね」と南さん。
新米医師だった頃は、80代の患者さんに「毎日ちゃんとリハビリしてくださいね!」と発破をかけていた南さんですが、自身が60歳になる今は、当時の自分は尊大だったと言います。
「体力・気力がどれほど落ちるかを当時は想像できなかったんですね。今は、患者さんがどのような日々を重ねてきたかを知って、その方に合ったことを提案したい、と考えるようになりました。
ラーメンが大好きな方に、血圧が高いんだからダメ!と言うのではなく、じゃあ、代わりに今日はおみそ汁はやめましょうね、と折り合いを付ける。そうして、今この時を幸せに思っていただけるような、そんな医療もあるんじゃないか、と思うんです」と南さんは言います。
病気の治療だけが目的ではなく、暮らしをどうよくするかが目的となる在宅医療。最期の過ごし方の選択肢の一つとして心に留めておきたいものです。
南杏子さんが伝えたい2つの心構え

- 在宅医療も選択肢の一つ。
在宅医療するかしないか、今決める!ではなく、在宅医療という選択肢もある、くらいに考えて。 - 介護のサービスも道具も、20年前とは違います。
明日より今日、早めに、気力・体力があるうちに、その新しさ・便利さをまず体験してみてください。
南 杏子(みなみ・きょうこ)さん

作家・医師
1961(昭和36)年、徳島県生まれ。日本女子大学卒業、出版社勤務を経て東海大学医学部に学士編入し、慶應義塾大学病院老年内科などで勤務。現在も現役の医師。2016年『サイレント・ブレス』でデビュー。著書に『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』『アルツ村』『ブラックウェルに憧れて 四人の女性医師』などがある。
取材・文=岡島文乃、五十嵐香奈(ともにハルメク編集部) 撮影=中川まり子
※この記事は雑誌「ハルメク」2021年6月号を再編集、掲載しています。
南さんの小説『いのちの停車場』
東京の救命救急センターで働いていた医師・白石咲和子はある事件の責任を取って退職し、実家の金沢に帰郷する。金沢で在宅医として働き始めた咲和子が出会ったさまざまな患者とその家族を描くとともに、人生の終わりと医療の関わり方をどのように考えるのか、問題提起する。
※本文中の引用文は、この本から抜粋しました。
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