今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312021年10月28日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3期第1回
エッセー作品「山桜桃梅(ゆすらんめ)」宮脇洋子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「なるべく」です。宮脇洋子さんの作品「山桜桃梅(ゆすらんめ)」と山本さんの講評です。
山桜桃梅(ゆすらんめ)
1人住まいの私は、1度にどっさりと頂く野菜を、なるべく無駄にせぬよう、工夫していても、葉物など、時には枯らしてしまうこともある。
けれども、果物、木の実などは、その限りではない。
届いた日には、毎回楽しんでいただくことになる。
先日、徳島のM子さんから、「宅急便送るね。明日のうちには届くから」との連絡があった。
翌日、届いた箱を、開いた瞬間、目を見張る。
昔、まだ、我が家にもあった、一升桝をひと回り大きくしたくらいの、正方形の箱の中は、厚手のボール紙で4つの部屋に、仕切られていた。
各部屋には、その小さな1粒1粒が、透明で、眩しく、それは、まさしくルビー色した「ゆすらうめ」が輝いていた。
思わず「わぁー!」と、声が出てしまった。
「思い出した!」
幼いころ、近くの山で、近所の男の子が、グミの実や、赤い小さい実を捥いでは、「ゆすらんめ、ゆすらんめ」を連呼して食べていたけれど、私は、少し用心深かかったのか、グミによく似ているけれども、その小さな、妙に鮮やかな赤い実を、口にした覚えは無い。
しかし、この度は、そのヌルっとした種も、気になることなく、口に入れては、吐きだして、幾粒にも、手を伸ばしていた。
「美味しい!」と、またまた口走っていた。
最近になって、叔母から送られた「山桃」とはまた違った爽やかな甘み、酸味のバランスが絶妙だった。
生のまま、存分にいただいた後は、その日のうちに、ジャムにして、冷凍庫に保存した。
そう言えば、以前、電話の長話で「山桜桃梅(ゆすらんめ)」の話題が出たとき、私があまり知らないというと、M子さん夫妻は、早朝から、今や空き家になっているM子さんの旦那さんの実家まで行って、採ってこられたのだ。
木の周りにシートを一面に敷き、幹をゆすると熟した実がパラパラと落ちるらしい。(もしかして、語源は「ゆする」から「ゆすらうめ」?)
拾った実から、粒揃いの、きれいなものだけを選別したあとは、新鮮な内に1便でも早く送りたいM子さんと、少しでも傷つかぬように、時間をかけて厚紙で仕切ってくれた旦那さんとの、作業の風景が目に浮かぶようだった。
その夜、お礼の電話をしたものの、感謝の気持ちは、言葉では伝えきれなかった。
山本ふみこさんからひとこと
読み終えたとき、口のなかに酸味と甘みがそっと広がりました。
こんな感覚こそ、読書の喜び。ごちそうさまでした。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■