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- エッセー作品「小さいおやつ」栞子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「なるべく」です。栞子さんの作品「小さいおやつ」と山本さんの講評です。
小さいおやつ
子どもたちに毎日手紙を書いていた時期がある。
子育てが少し落ち着き、再び仕事を始めた15年ほど前。
「おかえり。」と言えないかわりに、リビングの一番目立つところへ大きなボードを立て、手紙をはりつけて仕事へ出かけていた。
同じような内容にならないように、学校行事のことや給食のメニューのこと、わたしの仕事のはなしなど、毎日話題を変えた。
夏休みにはお弁当を作り、中のおかずの説明や、おもちゃの隠し場所をクイズにしたりした。
手紙を読んでるふたりを想像しながら、さみしく思わないように、笑って読んでもらえるように。
10数年ぶりの仕事で慣れないことも多く、子どものことも気になりながらの忙しい日々だったが、毎日手紙を書くことは、わたしの小さなささえであった。
どんなに内容は変えても、最後の数行はいつも同じになった。
「お留守番がんばってね、お母さんもお仕事がんばってくるね。」
「あそびに行くときは、行き先を書いてなるべく早く帰ってきてね。」
「お母さんも、なるべく早く帰ってくるね。」
長男は当時小学4年生、学校生活にも慣れ、友達と遊びに行くことが増えていたころ。
次男はまだ1年生、早生まれで体も小さく、時々兄にくっついて出かけるくらいで、自然とひとりで留守番することが多かった。
「今帰ってきたよ。」
「きょうの給食おいしかったよ。」
「お母さんお仕事がんばってね。」
わたしの古い携帯電話には、あのころの次男からの留守電のメッセージが、ずっと消せずに残っている。
毎日の手紙には、小さなおやつを添えるのもいつからか約束ごとのようになっていた。
カード付きのスナック、きれいな色のラムネ、子どもたちが大好きだったグミ。
気に入ったおやつのことをうれしそうに話してくれるのが可愛くて、新しいものをさがしに遠くのお店まで出かけたりした。
休みなく走りまわっていたような、懐かしくも一番忙しかった時期、そんな毎日の習慣でバランスを保っていたのだと思う。
子どもが成長するにつれ、わたしの帰宅のほうが早くなり、手紙やおやつの出番は少なくなっていった。
今でも小さなおやつを見つけると、つい手に取ってしまうくせが、なかなか抜けずにいる。
山本ふみこさんからひとこと
……私にもこんな時代があったなあ。
胸をぐっとつかまれました。
かつてお子さんたちに手紙を書いたような気持ちで、書き続けていただきたいと思います。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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