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- 長瀬智也さんの引退が残念すぎた「歌う神回」
コラムニストの矢部万紀子さんによる、カルチャー連載。今回はジャニーズ事務所を退所する長瀬智也さんの引退が惜しいと感じさせられた、ドラマ「俺の家の話」について。退所者が相次ぐジャニーズ事務所の事情についても考えます。
長瀬智也さん主演ドラマの第6話は「神回」でした
宮藤官九郎さん脚本、長瀬智也さん主演のドラマ「俺の家の話」(TBS)が、3月26日に最終回を迎えます。長瀬さんは2021年3月末でTOKIOを脱退、ジャニーズ事務所を退所、退所後は「裏方としてゼロから新しい仕事の形を創り上げていく」と事務所が発表しています。
裏方なんて、もったいない! 毎回、そう思いながら見ました。中でも感動したのが、第6話、長瀬さんが歌ったのです。そのカッコいいこと、色っぽいこと。「神回」でした。
プロレスラーにして能楽師の観山寿一。それが長瀬さんの役どころです。西田敏行さん演じる観山流の宗家であり、重要無形文化財という父への反発から、プロレスの世界に進みました。それから20数年。父危篤という知らせで家に帰り、一命を取り留め車いす生活になった父の介護をするのです。
介護と親子という難しいテーマですが、宮藤さんの脚本ですから、もう笑えて泣けて最高に楽しいドラマです。マイ「神回」第6話のタイトルは、「最低で最高の家族旅行!! 涙の記念写真!!」。父を連れ、寿一と弟2人、妹、それぞれの子ども2人、合計7人でスパリゾートハワイアンズに行きます。そこで、寿一(と弟2人)が歌うのです。
きっかけは、男性ボーカルグループ「潤 沢」のリーダー・たかっし(阿部サダヲ)との出会い。紅白歌合戦にも出場している「純烈」が行かないスーパー銭湯を回っているグループだというのです。歌う曲のタイトルは「秘すれば花」。「それ、世阿弥の言葉です」と弟が言うと、たかっしがこう返します。「(作詞は)なかにし先生だから。礼じゃなくて札ね。なかにし札。俺のペンネーム」。
旅行中、父親がわがままを言いまくります。とうとう寿一は「やってらんねーよ」とキレます。が、後悔して、ある女性に語ります。「これだけやってるのに、ありがとうの一言もないのかよ」。そう割り切れない気持ちになる、と。父は父で「なんで素直にありがとうって言えないのかなー」と、ある女性に言います。この女性、どちらも家族でないところが肝です。思い合っているけれど、うまく気持ちを伝えられない。それが家族、だから家族。笑いながらジーンとくるドラマなのです。
さて、歌う長瀬さんです。歌い出す前に回す腕、ソロパートの声と表情。カッコいい! 色っぽい! こんな人が「裏方に回る」のは、あまりにも惜しい!
相次ぐジャニーズ事務所からの退所、その理由は
ジャニーズ事務所のグループ解散やメンバー退所が目立ちます。3月12日にV6の解散が発表され、森田剛さんが退所するそうです。始まりはSMAPの3人(稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さん)が「新しい地図」として活動を始めた2017年でしょうか。SMAPの中居正広さんも退所、嵐も20年末で活動停止に。若手の関ジャニ∞(私から見れば、ですが)から渋谷すばるさん、錦戸亮さんも退所しました。
少年隊の錦織一清さんと植草克秀さんの退所が20年9月に発表されたときは、ショックでした。10年以上も前ですが、東山紀之さんのファン交流会を取材したことがありました。何人ものファンが「また3人で歌ってください」と言っていました。「仮面舞踏会」が大好きなので取材しながら心で拍手をしましたが、叶わぬ夢になってしまいました。
芸能事情には全く詳しくないですが、創業者のジャニー喜多川さんが19年に亡くなったことが大きいのではないでしょうか。長く会社員をしてきた者として、自分を見出し、評価してくれた人が近くにいることはとても大切だと思うのです。その人に恥ずかしくない仕事をしよう、恩返しをしよう。思いはいろいろでしょうが、がんばる材料になります。その人がいなくなり、とどまる理由がなくなった。そう感じた人は少なくないように思うのです。
後継として滝沢秀明さんが選ばれたことも、影響したかもしれません。現在、事務所副社長の滝沢さんは、1982年生まれ。先述した退所メンバーの中で滝沢さんより年下は錦戸亮さんだけ、長瀬さんも78年生まれですから4歳年上です。年下の元同僚が上司になる。どんな会社でもあることですが、複雑な思いになるものです。
長瀬さんへ、また歌を聞かせてください
ドラマ「俺の家の話」に戻ります。9話で、プロレスラーの寿一に、先輩が「レスラーなんて何回引退しても、何回もカムバックすりゃいいんだよ」と声をかけました。長くタッグを組んできた宮藤さんが、長瀬さんに送った言葉だと思いました。
長瀬さん、カムバックを待っているのは宮藤さんだけではありません。また、歌を聞かせてください。お願いします。
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
イラスト=吉田美潮
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※矢部万紀子さんの記事は月2回更新です。更新情報は、ハルメクWEBメールマガジンでお届けします。会員登録はページ下部からお手続きをいただけます
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