7月には通常に近い生活再開へ!米国ワクチン接種事情

【体験記】新型コロナワクチン接種を完了。副反応は

公開日:2021.04.23

新型コロナウイルスのワクチン接種が猛烈なスピードで進むアメリカ。アメリカ・ニューヨーク州に在住のライター黒田基子さん(61歳)もワクチン接種を完了しました。その様子とアメリカのワクチン接種事情についてレポートします。

7月までに大多数の接種完了を!猛烈なスピードで進むワクチン接種

2021年3月23日、ニューヨーク州でファイザー社製ワクチンの2回目の接種を完了しました。これでひと安心です。感染者数も死者数も世界最悪を記録したアメリカでは、今年になってワクチン接種がイスラエルやイギリスに次ぐ猛スピードで進んでいて、やっと出口が見えてきました。

4月20日現在、全人口の26.7%にあたる8760万人が2回の接種を完了しました。1回目の接種のみの人を入れると成人の半数以上になり、ワクチン接種回数は2億1600万回を超えました。現在もバイデン大統領が就任当初に約束していた1日100万回をはるかに上回る1日300万回を超えるペースで接種が進んでいます。アメリカはとんでもないことも起こる国ですが、ワクチンに関しては圧倒的な底力を発揮しています。4月20日には段階的接種が終了し、全国で16歳以上の全員が接種対象となりました。7月4日の独立記念日までには通常に近い生活に戻るために必要な数のワクチン接種を完了することを目指しています。

ワクチン接種の進め方は州によって異なりますが、私の住むニューヨーク州では、12月に医療関係者と高齢者施設関係者の接種が始まり、続いて75歳以上の高齢者、エッセンシャルワーカー(教師、警察、消防など)と65歳以上の高齢者、基礎疾患のある人、55歳以上、人に接する職業の人、35歳以上という順に年齢と健康状態・職業によって優先順位が決まっていました。4月6日でこの段階的接種を終了し、現在は16歳以上の全州民が接種対象となっています。

 

開始当初のワクチン接種の予約は人気コンサート並みの争奪戦

前例のない大混雑が発生した1回目の接種の様子。延々と続く行列で辛抱強く待つ(マスク着用は義務)。他の日は、ほぼ行列はなくスムーズに進んだようです(著者撮影)
前例のない大混雑が発生した1回目の接種の様子。延々と続く行列で辛抱強く待つ(マスク着用は義務)。他の日は、ほぼ行列はなくスムーズに進んだようです(著者撮影)

接種は完全予約制で始まり、優先順位による段階的接種が行われていた1月から3月までの間は、一つのグループの接種完了を待つことなく2~3週間おきに次々と対象が拡大されてきたので、ワクチン接種の予約取りは人気コンサートのチケット並みの激戦状態でした。

現在はワクチン供給量も接種会場数も大幅に増え、予約も簡単にとれるようになりました。4月23日からは、州が運営する接種会場では60歳以上なら予約なしでも接種が可能になりました。こうなることがわかっていれば、あんなに苦労をしなくても1か月も待てば簡単に接種できたのですが、接種スケジュールは常に直前まで公表せずに進められていたので、4月の初めまでは接種対象になった人は誰もが血眼になって予約を求めていました。

今にして思えば州政府はこうした成り行きを最初から予想していたはずなので「乗せられた」感がありますが、少しでも接種が早く進むことは誰にとっても利益につながるので、そのための戦略と考えれば文句はありません。

ニューヨーク市周辺は2020年春、地獄のような大流行を経験しているので、身近にコロナ感染経験者がいるのはもちろん、コロナで亡くなった人や死にかけた人の話もいくらでも耳にします。ですからコロナの恐怖にも現実感があり、ワクチンはそこから抜け出すための命綱という思いが強いのです。そのため一刻も早くワクチンを接種したいという人が多く、予約取りにも気合いが入ります。日本では高齢者や医療関係者にすらワクチン接種に消極的な人が少なくないということを耳にしたときは、その温度差に驚きました。
 
私が接種対象になったのは2月半ば。といってもお知らせが来るわけでも予約クーポンが来るわけでもありません。州が公表する情報を見て自分からオンラインまたは電話で予約を取るのが第一歩です。その上で接種会場に写真付き身分証明書と年齢や職業、基礎疾患を証明する書類を持っていけば、外国人も含め誰でも接種できます。

予約は早い者勝ちですが、2月中は州の公式予約サイトはいつ見ても「空き無し」。空くのを待って予約しようと思っていたのですが、あっという間に次の段階まで対象が広がってしまいました。のんびり構えていては競争が激化するばかりだというプレッシャーから、仕事そっちのけで予約サイトに張り付くこと3日。やっと3月初めに州最大の接種センターであるジャビッツセンターの予約を確保しました。

しかし、この1回目の接種では運悪く接種センター史上最悪の4時間待ちを経験することになりました。接種は完全予約制なので本来は予約時間にスムーズに接種ができるはずなのですが、3月2日のジャビッツセンターでは急激に増えた接種回数をこなせず、ハドソン川まで続いて折り返す大行列が発生。倒れる人も出て、ニュース沙汰にまでなりました。会場にじっと立ち続ける何千人もの人々はみな疲労困ぱいしていましたが、何時間待ってでも接種を受けるまでは絶対に帰らないという無言の気迫が漂っていました。もちろん私も同様です。

 

ワクチン接種によって日常を取り戻せる

ジャビッツセンターでのワクチン接種
ジャビッツセンターで接種を受けるともらえるステッカー(著者撮影)


4時間待ちの末、無事にワクチンを打ってもらったときの安堵感と開放感といったらありませんでした。これでやっと出掛けられると思いました。ニューヨークでは、2020年の緊急事態宣言直後の東京以上の自粛生活が1年間続いています。

学校はすべてリモート、再開されてからも密を避けるため今も週2日の交代登校。多くの人が旅行はもちろん外食もせず、仕事はすべて在宅でリモート、外出するのは医者通いか食料の買い出しくらい、友達はもちろん子どもや親兄弟にすらまったく会わないという生活を続けてきました。シアターは今も閉まったまま、イベントは屋外も含めことごとくキャンセル。人出が大幅に減ったままのマンハッタンでは地下鉄も電車もガラガラで、閉店したレストランやショップは数知れず、逆に増加したのは人がいなくなった地下鉄やストリートでの犯罪という悲しい状況です。

この閉塞状態から抜け出すための唯一の希望の光がワクチンというわけです。ワクチン接種を完了した人同士なら以前のように集まってレストランで食事もできるし、感染を恐れることなく旅行にも出掛けられます。

アメリカ連邦政府は、EUで計画されているようなワクチン接種完了者へのワクチンパスポートを国として導入する予定はないとしていますが、ニューヨーク州では4月から「エクセルシオールパス(Excelsior Pass)」というワクチン接種証明の発行を開始しました。スマホで表示できるQRコードのワクチン接種証明で、今後、このパスを活用したイベントやシアターなどの再開が見込まれています。

 

2回目のワクチン接種は15分程度で終了! 

ワクチン接種の会場だったジャビッツセンターで撮影。
2回目の接種時に撮影したジャビッツセンターの様子。ガラガラです(著者撮影)

さて2回目接種は1回目の接種完了時に自動的に予約されるシステムになっていて、3週間後に再びジャビッツセンターを訪れました。スタッフは大幅に増員されており、到着から接種完了まで15分と、接種センターの状況は劇的に改善されていました。接種後の経過観察をする休憩コーナーには小さなステージが設置され、ミニコンサートまで行われていました。3週間前とは打って変わったのどかな雰囲気です。

あの4時間待ち大行列事件の後、ジャビッツセンターでは回数をこなすために毎日24時間週7日無休体制になっていた期間もあったのだそうです。24時間体制ですから、午前2時とか3時といった、とんでもない時間帯の予約枠もあるわけですが、それもあっという間に埋まったそうです。現在は、州直営の接種センターに加え、薬局チェーンも加わって接種会場が大幅に増加し、どこでも予約時間にスムーズに接種ができているようです。

日本ではワクチンについて多くの方が気にかけているのが「副反応」だと思います。私が接種を受けた2021年3月はアメリカで一般の接種が始まって2か月が経過していたので、先に接種を受けた人たちから「1回目はたいしたことないけど、2回目の後はなんだか具合が悪くなる」という話をよく聞いていました。私の体験も話に聞いた通りのものでした。

1回目の接種の後は注射をした場所の筋肉が翌日から2日くらい痛むくらいで、体調全体が悪化することはありませんでした。筋肉の痛みはインフルエンザのワクチン後と似ていますが、やや痛みが長びくくらいです(翌日の方が痛くなります)。

が、2回目接種後の副反応は、これまでの予防接種では経験したことのないものでした。接種後すぐは何ともないのですが、夜遅くから軽い頭痛と関節痛、寒気を感じました。ちょうどインフルエンザになりかけのような感じです。これから熱が上がりそうな感じなのですが、熱は上がりません。翌朝は37度少しの微熱が出て同じ症状が続きましたが、その夜にはだいぶよくなり、2日目の午後にはすっかり治ってしまいました。まさに「なんだか具合が悪い」状態で、接種翌日は仕事をする気にはなれませんでしたが、寝込むほどでもありませんでした。

 

当たり前と考えられている副反応。若い人の方が症状が重い

当たり前と考えられている副反応。若い人の方が症状が重い
※イメ―ジ

副反応は年齢が若いほど重く、女性の方が出やすいと言われていますが、一日前に接種した夫は普通に仕事ができる程度の症状でした。私の周囲には、2回目接種の後になんともなかったという人はほとんどいません。今ではアメリカでは、2回目接種後の副反応は起こるのが前提になっています。逆に何の副反応もないと、効いていないのでは、と心配する人もいるくらいです。現在は若い人にも接種対象が広がっているので、若い人の話も聞きますが、若い人の方が副反応は重いというのは本当のようで、38度以上の高熱や吐き気も発生するようです。中には1回目の接種でも具合が悪くなったという人もいます。

ただし副反応とはいっても、私が経験したような「なんだか具合が悪い」あるいは人によっては「かなり具合が悪い」状態は正常な身体の免疫反応であって、重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーや、命に関わる血栓などとは全く別物です。

これらすべてを副反応として、ひとくくりにすることは誤解を招きます。ちなみに2回目接種後の副反応が重いのは、1回目接種後に体内でゆっくりつくりあげられたスパイクプロテイン(身体に免疫反応を学習させるための偽のコロナウイルスのようなもの)によって既に抗体による免疫反応の準備ができているため、2回目のワクチンに免疫システムが急激に反応するからだそうです。また、副反応がまったく出ない人もいるのですが、免疫反応は人それぞれなので、副反応がなくてもワクチンが効いていないわけではないといいます。

アメリカでは、こうした副反応に関する知識は今では広く知られていて、接種を完了した人の話もよく共有されているので、副反応がこわいからワクチンを受けないという話は私の周辺ではほとんど耳にしません。不快なものではありますが、解熱鎮痛薬でも飲んで1日か2日をやり過ごせばいいもので、ワクチン接種後に得られる自由に比べれば何でもないというのが実感です。

 

ワクチン接種の積極度でも見えた分断社会の姿

ワクチン接種の積極度でも見えた分断社会の姿
※イメージ

コロナとの戦いはウィルスの変異とワクチン接種のスピード競争だと言われています。もたもたしていれば、ワクチンの効果がはっきりしない変異株が次々と生まれてしまうからです。このため、今アメリカは何をおいても一刻も早く全員にワクチンを接種することに向けて邁進しているという印象です。

接種開始直後はニューヨーク州やカリフォルニア州といったリベラル州は公平性にこだわるあまり優先順位や接種規定を厳格にしすぎて遅れを取っていましたが、2月頃から「誰でもいいから一人でも多くの腕にワクチンを打つ」という方針に変わっていきました。優先順位の高いグループの接種完了を待たずに接種対象を次々広げてきたのもそのためです。ワクチンで免疫を持つ人を一人でも増やせば、コミュニティー全体が集団免疫に近づき、高齢者も含め、すべての人の利益につながるからです。

しかし、ワクチン接種が進むにつれ、問題として浮上してきたのがワクチン接種に否定的な人の存在です。今、アメリカは「いかに接種希望者にワクチンを接種するか」という段階から「いかに接種希望者を増やすか」という段階に移っています。4月後半になって、テレビでもSNSでも「ワクチンを受けよう」という広告キャンペーンが展開されています。

ここまでニューヨーカーがワクチン接種に積極的だと言い続けてきましたが、それはニューヨークのメトロポリタンエリアの話であって、実はアメリカ全体でいえばワクチン接種を拒否する人は相当数いるのです。3月のギャラップ調査ではワクチン接種を希望しないアメリカ人は全体の24%となっています。ワクチン接種に対する姿勢には人種や宗教なども影響していますが、一番顕著なのは政治的指向と言われています。ワクチン接種に否定的なのは圧倒的に共和党支持者なのです。逆に民主党支持者はワクチン接種に最も積極的です。ちなみにニューヨーク州は民主党が盤石の強さを誇る州です。

別の調査では共和党支持者の45%がワクチン接種を受ける予定がないと答えています(ニューヨークタイムズ紙Quinnipiac Univ調査)。もともと共和党にはコロナ感染の流行そのものを深刻に捉えず、マスク着用などの感染予防対策にも否定的な政治家が多く、感染対策の社会規制に対して「自由を妨げる」として抗議するトランプ支持者も各地にいました。それを考えれば納得できる現象ではありますが、45%という数字は衝撃的です。州をさらに細かく郡レベルで見ると、2020年の大統領選でバイデンの得票数が多かったエリアほど接種が進んでいて、トランプの得票数が多かったエリアほど接種が遅れているという現象が既に全国で起きています(ニューヨークタイムズ紙)。ワクチンは配布されても希望者がいなければ接種は進まないのです。

集団免疫に到達するために必要なワクチン接種数は全人口の75~85%と言われていますが、まだ治験が終わっていない16歳以下の人口も考慮すると、ワクチンを希望しない24%が減らない限り、アメリカはワクチンによる集団免疫には到達できません。分断されたアメリカ社会はトランプ政権が終わっても尾を引いているのです。必要なワクチンの確保、そして接種のインフラとワクチン接種によるコロナ対策を順調に推し進めてきたアメリカにとって、一番難しいのはこれからかもしれません。

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黒田基子
くろだ・もとこ 1960(昭和35)年、東京生まれ。ライター。88年よりアメリカに留学し、30年近くニューヨーク郊外で暮らす。ブログ「ニューヨークsuburban life」東海岸の暮らし、食べ物、ときどき政治https://nyqp.wordpress.com/

 

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黒田基子

くろだ・もとこ 1960(昭和35)年、東京生まれ。ライター。88年よりアメリカに留学し、30年近くニューヨーク郊外で暮らす。ブログ「ニューヨークsuburban life」東海岸の暮らし、食べ物、ときどき政治https://nyqp.wordpress.com/

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