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- 「はなむらさん、はしろうか?」花村むつみさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「憂鬱」。花村むつみさんの作品「はなむらさん、はしろうか?」と山本さんの講評です。
「はなむらさん、はしろうか?」
桜が咲くほんの少し前、朝のお散歩で、3歳のけーちゃんと手をつないで北の丸公園に行く道を歩いていました。
わたしは週に2回勤務の保育士。ここは、子どもは全部で8人、おとなはせんせいと支援者を含めて4人という小さな保育園です。
「けーちゃん、きょうは、きのぼりできるねぇ。」と話しかけたら、後ろにいた主任のせんせいが言いました。
「このまえ、こうえんのおじさんに、きにのぼっちゃいけないって、いわれたんだよねぇ。」
「ほんと、つまんない。だいなしだ!」けーちゃんはぷりぷりしています。
「ほんとだねぇ!たのしみなのにねぇ!」
けーちゃんとつないだ手をギュッとしながらわたしはおそるおそる言いました。
「たぶんさ、ちいさいこが、きからおちちゃって、おじさんが、きのぼりは、あぶないっておもったんじゃない?」
「ほんと、だいなしだ!」
公園の池で、カエルの卵を見つけて棒でつっついて、ニョロニョロするのを見たり、タンポポの花をつんだり、切り株でジャンプごっこをしたのですが、帰り道でも、けーちゃんは、木登りができなかったことを、まだ気持ちの中で引きずっているようでした。
いつもは「よゆうのよっちゃん!」を連呼して、全速力で先頭を走るのに、今日のけーちゃんは「はしりたくない!」 と言います。
「じゃ、はなむらさんと、まったりあるいていこうよ。」
「けーちゃん!はなむらさんと、まったりして、あとからおいで!」と、主任のせんせいも言ってくれました。
みんなが先に行っちゃったので、わたしとけーちゃんは、少しだけ重い気持ちをひきずりながら、列のいちばん後ろを、手をつないで歩いて行きました。
「けーちゃん!だいなしなのはわかるけどさ、そういうときはだいすきなことをかんがえるといいよ。すきなものの、はなしをしようよ!」
「ぼくはミニカーがすきなんだ。」
「へぇ~!なにいろ?」
「ピンクいろで、ハシゴがガァーってついてて、じいじがかってくれるんだよ」
「それはいいねぇ!」
そんな話をしながら、まったり歩いていたら……。
突然、「はなむらさん、はしろうか?」と、けーちゃんが言いました。
「いいよ~!」
そこからは、いつもの元気なけーちゃんに戻って、ふたりで前を歩いている小さな子どもたちを追いぬき、ビュンビュン引き離して「いっちば〜ん!」で帰りました。
起こってもいないことを心配して、前に進めないおとなと、いつも今を精一杯に生きるこども。
わたしの中で、そんなおとなとこどもが、頭をだしたり、引っ込めたりしているのを、けーちゃんは気づいているかしら。
山本ふみこさんからひとこと
「花村むつみ」は、現在、「あなたのなかにいる、わたしに会いにいく」というテーマに取り組んでいます。「人間力を上げたい」と語っておられます。それこそ、私たちが書いてゆく中で、常に確かめておきたい大前提だと思います。
感受性の豊かさのあふれるシリーズとなりそうです。こうした感性を押しつけがましくなく、さりげなく静かに表現してゆくのも、書き手の挑戦となるはずです。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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