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- 「翡翠煮」大井洋子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第8期6回目、さいごのテーマは「コンビニエンスストア」。大井洋子さんの作品「翡翠煮」と山本さんの講評です。
翡翠煮
「なっ、何これ」
畑にある白瓜をとろうとしたとき、ゾクッとして、わたしは手を引っ込めた。
ギザギザのとがったものを押しつけて、一筆書きしたような直径1cmほどの水玉、「の」の字、「8」の字などの丸い線模様が、表皮に無数できていた。昆虫の食痕だと思われる。
うちの畑になった野菜は、どれも虫食いだらけである。
彼らは、野菜の食べごろを知っている。まだ若い瓜が傷つけられることはほとんどない。
そういう訳だから、どうしたってわたしは早めに収穫することになる。
あれほど完熟トマトを食べることを切望していたというのに、彼らに食べられるよりはましだと思い、青みが残っているうちに摘んでしまう。
野菜づくりには収穫し食べる喜びがあり、農作業は心を穏やかにしてくれる。
一方で、無農薬で育てるのはストレスともいえる。
雑草の繁殖力ときたら想像以上で、しばしば農薬の誘惑に負けそうになる。
それでも、せっかく自分の口に入れるものをつくるのだから、やはり無農薬にはこだわりたい。
昆虫も、その野菜をつまめるのは、人間にもてなされているようなものだ。
この夏の酷暑でも、日々散水した畑には野菜が育った。が、まるで彼らのために無料のコンビニエンスストアが開店しているかのような様相。
最高の住み心地だろう。
昼夜を問わず、彼らのオーケストラの音色が静かに聞こえてくる。
さて、冒頭の白瓜である。
白瓜は皮つきのまま、浅漬けにすると歯応えがいい。
でもこれはそうする気になれず、皮をむいて、出し汁、みりん、塩、醤油で翡翠煮にして、冷やして食べたら滑らかな舌触りであった。
山本ふみこさんからひとこと
虫たちに目を凝らす感覚が、とても素敵です。
この夏の酷暑でも、日々散水した畑には野菜が育った。が、まるで彼らのために無料のコンビニエンスストアが回転しているかのような様相。
最高の住み心地だろう。
昼夜を問わず、彼らのオーケストラの音色が静かに聞こえてくる。
ここを読んで、ああ「大井洋子」ならでは……と思って、こみあげるものがありました。
「ならでは」って、いいですよね。そのひとでなくては書けないっていうのは、尊いです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次期通信制第9期の作品は10月から順次ハルメク365で公開予定です。(募集は終了しております。ご了承ください。)第9期も引き続きどうぞお楽しみに!
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