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- エッセー作品「コトリさんとミツバさん」藤田圭子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「憂鬱」です。藤田圭子さんの作品「コトリさんとミツバさん」と山本さんの講評です。
コトリさんとミツバさん
コロナ禍でなかなか人と会えない中、学生時代からの友人である2人とは数ケ月に一度オンラインお茶会やメッセージのやり取りで連絡を保ってきた。コトリさんとミツバさん(どちらも仮名)。
コトリさんとは昨夏、あと少し世の中の状況が落ち着いたら会おう!と言ったまま時が過ぎ、喪中のハガキで秋にお父様が亡くなったことを知った。
年明け、落ち着いたら……と言っていたら今度はオミクロン騒動でまた会える状況ではなくなった。
「今度こそ!」4月上旬、漸く具体的な日時や場所も決まり、久々の再会を指折り数えて待っていた約束の2日前だった。
コトリさんから「娘がまさかのコロナになり、自分達も濃厚接触者になってしまった」と連絡が入った。
驚きと心配とそして少し残念な気持ちでその日を見送った。
その後コトリさん夫婦は罹患することもなく、娘さんも軽症のまま回復、晴れて自由の身になったと連絡が入った。
一旦延期していた再会を今度こそ本当に実現できる!と、私も前のめりに空いている日を伝えた。
少し経ってもう一人の友人、ミツバさんから便りが届く。
「実は……」と書いてある。ご主人の検査結果について翌週夫婦二人で病院へ来るように言われており、先のことが全く考えられない状況だという。
ミツバさんのご主人は数年前に癌を患い治療を受けたが、その後仕事も日常生活も普段通りに行い(他人の私は)病気のことを忘れかけていた。
「よくない話だろうか。」
友人の沈み込んでいる様子が文面からありありと伺えた。
コトリさんと私は、「まだ何もわからない状況なのだから心配し過ぎないように。」と言う以外なかった。
気休めにしかならないと2人共感じながらも。
それから2週間以上過ぎたがミツバさんからの連絡はない。
何事もなかったら真っ先に知らせてくれるだろうから、連絡がないということは……。だからと言ってこちらからは連絡できない。ただ待つのみ。
ミツバさんの家の子どもたちはまだ中高生だ。受験の年を迎え、子供のことだけでも忙しい一年になろうとしている矢先、ご主人の癌の転移や再発がわかったら……、想像するだけで胸が苦しくなる。
友人として何ができるだろう? 寄り添って励ましたい気持ちは山々だが、彼女にとっては今起こっている目の前の事実が全てであり、他人が何を言っても心が晴れることはないだろう。
「無力」と言う言葉に押し潰されそうになる。
想像の域を出ないが、仮に転移や再発だったとして……目覚ましい進歩を日々遂げている医療に期待し、ただ祈ることしかできないのか。
ご主人の生命力と強運を信じるしかないのか。
何もできないとしても、せめて彼女に伝えたい。
「一人じゃないよ。」
山本ふみこさんからひとこと
読者の中に共感が生まれる、あたたかい作品が生まれました。結びのひとことに向かって、「信」が行進してゆきます。大事な人のためにできることは多くなくても、願う気持ちは伝わると信じる気持ちがそこにはあります。
この作品に関して、友達を仮名で書くやり方を、提案してみました。コトリさんとミツバさん。このような書き方もあります。
作品の中で、その存在がどのくらいの重みを持つかを考えて、仮名を置いたり、本名をカタカナにしたり——例えばフミコサン、というふうに——という選択があるわけです。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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