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- 「『ありがとう』が言えなかった」徳武有紀さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。徳武有紀さんの作品「『ありがとう』が言えなかった」と青木さんの講評です。
「ありがとう」が言えなかった
「お嫁さんが来た!お嫁さんが来た!」玄関を開け一瞬顏を合わせると、小さな男の子たちが叫びながら廊下を奥へと走って行った。
愛らしい背中と、かん高いその声を今でも強烈に覚えている。初めて夫の実家に挨拶に行った日のこと。
今思えば、この家に、この土地に迎え入れられた瞬間だった。
歓迎してもらえたお陰で、安心して、新しい土地での生活を始めることができた。
私の実家は「おはよう」「ありがとう」をあまり言わない家だった。
わかっているから口にしない、照れくさかったのだろうか、なぜかそれが日常だった。
「いってらっしゃい」は、玄関まで見送って言うし、コミュニケーションが少ない家ではない、むしろ多い方だと思う。
ただ、「おはよう」「ありがとう」が圧倒的に少なかった。
年頃になって、すっと「ありがとう」の言える友人の事を、素敵だなと思うようになった。
言ってみようと思うが、慣れていないので、言いたくてもなかなか口から出ないのだ。
そこで、勇気を出して、友人を真似て練習してみることにした。
だんだん身につき、自然に言えるようになった、家以外では。
新しく家族になった場所では、「ありがとう」が日常にあった。
客商売をしているためか頻繁である。お客様にはもちろん、スタッフ同士でも、家族間でもそうである。
お店で一緒に仕事をしていない私もたくさんの「ありがとう」をもらう。
そうして、私は「ありがとう」が上手になった。
今では、実家でも「おはよう」「ありがとう」がさらっと言えるようになった。家族が交ざりあって新しい文化が生まれた。
あの小さな背中の甥っ子たちも、わが家の子ども達もご縁のあったパートナーと共に、新しい家族の文化を創り出しているのだろう。なんてありがたく、幸せなこと。
新しい家族や、新しい土地の方々からのたくさんの「ありがとう」が私を育ててくれた。
これからは、地元のお年寄りや子ども達にも「ありがとう」をたくさん送りたい。
私を受け入れ、育ててくれた土地と家族に、そして、元いた場所とのご縁にも感謝しながら。
青木奈緖さんからひとこと
冒頭からぐっと読者を引き込む書き出しです。小さな男の子の「お嫁さんが来た!」というひと声で、特別な日の晴れがましさ、華やぎ、緊張感がありありと想像できます。
今の時代にはもはや古風な考え方かもしれませんが、この作品を読むとやはり、結婚は二つの異なる家庭環境・文化の融合だという気がします。
きれいに整った、心温まる家族のエッセーです。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月26日(火)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ4つのエッセー第3期#4
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#5
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#6
- エッセー作品「ずっと一緒」小笠原タミヨさん
- エッセー作品「義母(はは)の悟り」吉川洋子さん
- エッセー作品「『ありがとう』が言えなかった」徳武有紀さん
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