通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第3期第3回

エッセー作品「赤い半額シール」加藤菜穂子さん

公開日:2022.02.03

更新日:2022.02.03

「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。加藤菜穂子さんの作品「赤い半額シール」と青木さんの講評です。

「赤い半額シール」
エッセー作品「赤い半額シール」加藤菜穂子さん

赤い半額シール

「お肉が半額になったよ‼ 要る?」。
夕暮れ時、スーパーにいる娘からのLINE通知である。
音声はないが、活気が伝わってくる。娘は一人暮らしを始めてから生活費がかかることに驚き、すごい勢いで節約に目覚めた。

娘がスーパーに行くのは、生鮮食品が割引かれるころの時間帯と決まっている。
その日の特売品と生鮮食品の品定めをしていると、スーパーの店員さんが割引シールを貼り始めるので、急いで確認しに行く。
2割引や3割引のシールだったら、もう少し待つ。同じように考える主婦たちが集まってくるが、争奪戦に負けていない。
娘の冷蔵庫には沢山の戦利品が収まっている。「見て、私のお宝!」と、嬉しそうに見せてくれる冷凍室のお肉には、どれも赤い半額シールが貼られている。

実家暮らしのころは、エアコンはつけっぱなし、お風呂のシャワーは流し放題、トイレットペーパーは何メートル使うのだというほどガラガラ引き出していた。
ブランド品やネイルサロンも大好きだった娘が、100円ショップやしまむらのお得意様になった。
ヤフオクやメルカリも上手く利用している。欲しいものを探して、安く購入し、使ったあげくに転売してしまうこともある。運が良ければ、購入金額以上の値段が付くことも。ネット売買を駆使する才能が開花した。

着ている服を、「これ、いいでしょう。いくらだと思う?」と自慢げに聞いてくるから、私は、また安物自慢だなと推測しながら少し高めに答える。
すると娘は、「なんと、○○円!見えないでしょう!」と実にうれしそうな顔をする。
以前の、厚化粧と派手なネイルを私は好まなかったが、今は、真逆すぎるほどスッピンのまま出歩く娘に、「もう少し化粧したら?」と心配する。

娘の部屋は、夏は暑く、冬は寒い。そういう季節だから当たり前のことだが、せっかく高価なエアコンを取り付けたのに使わないともったいないよ。
娘の車に乗せてもらったとき、「暑いからエアコン入れて。」と言ったら、「わかったー。」と元気な返事とともに、なんと窓がスーッと開いた。
「はいっ、自然のエアコン!」と、にっこり笑う娘にあっけにとられた。

安月給で家賃・食費・光熱費・車の維持費等々をやりくりするのは涙ぐましいが、人生初の節約生活を楽しんでいるようにも見えた。

そんなケチケチ生活を5年間過ごした娘だが、今は、旦那さんと赤ちゃんのためにエアコンをフル稼働しているようだ。
もちろん身に付けた節約術も発揮して、新婚生活の家計を立派にやりくりしている。

 

青木奈緖さんからひとこと

このお嬢様の激変ぶりを拝見すると、何事も経験と思います。
母親としては折々に口を出したいことも多くおありでしたでしょうに、じっと見守ることも有効な子育てなのですね。

スーパーの半額のシールや、流しっぱなしのシャワー、使い放題のトイレットペーパーというあたり、実生活に基づいた描写が生きています。

 

ハルメクの通信制エッセー講座とは?

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。

現在第4期の参加者を募集中です。申込締切は2022年2月7日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」2月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。

■エッセー作品一覧■

 

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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