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- エッセー作品「紅茶時間」三澤モナさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「めったにない」です。三澤モナさんの作品「紅茶時間」と山本さんの講評です。
紅茶時間
紅茶の美味しさに目覚めたのは40歳代のこと。コーヒーのお店に比べ、紅茶の専門店はとても少ない。気に入っていたお店も長いお休みに入ってしまった。
数年前、県北の街、大館(おおだて)に、「イギリス時間紅茶時間」という、名前からして魅力のあるお店を見つけた。
さっそく紅茶好きの友人さちさん(仮名)と行ってみることにした。大館は、自宅から100キロ以上あり、車で2時間以上はかかる。
秋晴れのある朝、さちさんの運転する車で出発。
期待感いっぱいで、おしゃべりも弾む。北部へ行けば行くほど、紅葉が鮮やかで美しい。
もうすぐ大館という辺りで、ふと見ると、正面からすたすた歩いてくる男性がある。
その姿に見覚えがある。
「あ、ごえもん(ニックネーム)!」
と私がつぶやく間に、車とごえもんはすれ違い、どんどん離れていった。
ごえもん夫妻と私たち夫婦は古くからの友人で、両者とも東京から生まれ故郷秋田に移り住んでいる。そして大館は、ごえもんの街なのだ。
さちさんは、「追いかけましょう」と言って車をUターンさせた。
なんだか学生のようなノリでゆかいになって2人とも笑う。
「いた!」
「ごえもーん」
手を振り呼びかけると、彼は、びっくりした様子で立ち止まった。
ごえもんは、離れて暮らす「かあちゃん(妻)」に会うため、駅に向かっているとのこと。
「どこに行くの?」と、ごえもん。
「紅茶を飲みに」
「えーっ? わざわざお茶っこ飲みに来たの?」
信じられない、という表情だ。
紅茶のためにわざわざ2時間半かけてやってきた私たちは、かなりめずらしい人間に思われたようだ。
そういうごえもんだって、車も携帯電話も持たない、いまどきめずらしい人間だ。
そして、彼の「かあちゃん」は、すべてを投げうち実家に帰って、両親の介護をして10年近くになる。彼女もなかなかめずらしい存在だ。
目当ての「イギリス時間紅茶時間」は、小ぢんまりしたすてきな空間だった。
予約したアフタヌーンティーを、ゆったり流れる時間と共に、心行くまで味わったのは言うまでもない。
いつか、ごえもんの「かあちゃん」を誘いたいと思った。
山本ふみこさんからひとこと
香り高い紅茶を味わうような心持ちになりました。
「三澤モナ」がゆったり書いてゆくことで、作品全体にゆったり感が生まれています。こういうところ、少し焦るだけで、少し急くだけで、作品の風合いが変わってきます。そうです、書き手の「そのとき」は滲みだしてしまいます。
……隠しても隠しても。ああ、大館に行きたい、大館で紅茶が飲みたいです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中で、次回第4期の参加者を募集中です。申込締切は2022年1月7日(金)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」1月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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