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- エッセー作品「鯉の昼寝」近藤陽子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「めったにない」です。近藤陽子さんの作品「鯉の昼寝」と山本さんの講評です。
鯉の昼寝
いま住んでいるこの家は築50年。夫が家を出た後に建てられた。夫は、蚕小屋に手を加えた家で大きくなった。
働き者で頼りになり、どんなことが起きても、「大したことない」と私の力になってくれた義父は、病床で家を建てるまでの苦労を、昔語りした。
同じように働き者で優しい義母は、大所帯の義父の実家から2人の子供を連れて田んぼの中の蚕小屋に移り住むように突然告げられた時の辛さを思い出話として話してくれた。
2人とも、戦争を生き抜き辛抱強い人達だ。めったに苦労話などしたりしない。
この話を涙ながらに話す姿に本当に忘れられない辛さだったのだと思わされる。義父は12年前に亡くなった。
わが家の庭は、義父が自ら植木や石を運び池を掘り造られた。池の水のろ過装置も手作りして置き、それは今でもしっかり動いている。
しかし5年くらい前から、鯉が姿を見せないことが多くなった。そればかりか、鯉が浮いているのを見る日もあるのだった。
水は、循環しているし、原因がわからなかった。
ずい分長い間生きていた鯉たちだから寿命かな、と夫と話しつつも、義母が淋しがっているので車を走らせて鯉の養殖場に行き清水の舞台から飛び降りる思いで鯉を買ってきて池に放した。
するとある日、またその鯉が浮いている。
「えっ。」と思いながら見ているとまたフラフラと泳ぎ出した。
すぐ夫を呼び私が発した一言は「お父さん、鯉って昼寝するの」……。
本当に水面に横になってまた動き出す姿は、昼寝でもしているようだった。
それ以後、何度がその光景を見ることになり夫がパソコンで検索してみると鳥につっつかれたりすると脳しんとうのような状態になり水にしばらく浮くことがあるとあった。
そう言えば時々、前の家の屋根に青鷺がとまっていた。
それから夫が縁側で庭を見張っていたある日、まさに青鷺がゆっくりと池のそばに降り立った。
夫が大声を出すと驚くほど大きな羽をひろげて飛び去った。
それからしばらくの間夫と青鷺の攻防戦はつづき、池にネットを張ることで終結した。
川の魚が減り生きるために青鷺も危険を冒して人間の暮らす領域に現れはじめたのだろう。
今、里山は、山中に暮らしていた鹿、猪、猿、熊達が里に下りてきて人間が金網の柵の中で畑を耕し米を作っている。
しかし彼らを悪者扱いにはできない。ヒトとヒト以外の生き物との共存が困難になってきたのはヒトのほうに考えるべきことがあるような気がする。
山本ふみこさんからひとこと
結びの数行に、ほんとうに、感心、共感しています。
「人間と人間以外の生き物」というところ、「人間」を「ヒト」としました。生物としての人間を「ヒト」と書いてはどうだろうか、と日頃わたしは考えていて、ここもそうさせていただいてみたのです。
この深遠なる結びに向かう途中に、「お父さん、鯉って昼寝するの」という、なんとも愉快な(この背景にも実は、気がかりな事情がありますが)呼びかけがあったりして、いいなあ。
「近藤陽子」ならではのユーモアです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中で、次回第4期の参加者を募集中です。申込締切は2022年1月7日(金)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」1月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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