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- エッセー作品「くせとの戦い」堀口時美さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「めったにない」です。堀口時美さんの作品「くせとの戦い」と山本さんの講評です。
「くせ」との戦い
さきざきのことを心配する「くせ」が私にはある。あーなって、こーなって、最終的にとんでもないことになってしまう、というストーリーが頭に浮かび、現実に起きる、と思えてくるのだ。
夫は、たぶんあきれている。もう、あきらめているかもしれない。
この「くせ」は、私自身にとって、かなりつらい瞬間の連続だ。
「くせ」をなくしたい、なくせなくても、へらしたい、とずっと思っていた。
ある日、心配や不安は「想像の世界」である、という話を聴いた。
ストン、と心の中に入ってきた。そうだ、これは想像でしかないのだ。想像にからみとられた私は今を生きていないのだ、ということに気がつく。
目が覚めた!という感覚だった。
それから数か月後のある日のことだ。
昼休みにひらいたスマホに、息子からのラインがとどいていた。同居している息子から、ラインがくることは、めったにない。
「えっ何事?」と、「くせ」が出そうになった。
「熱が38度ある。午後、発熱外来へ行く。」
「くせ」が、滝のように流れはじめ、止められない。体じゅう、あふれそうだ。
お弁当を食べながら、私は何を想像しているの?
今時の熱といえば、コロナに違いない。
でも、息子は7月下旬にワクチンの職域接種を終えている。
元気だった。先週も今週も会社以外は外出していない。
ただ……出社中の昼は、外食だ。そういえばたまに、咳をしていた。先週は、忙しそうで帰りが遅く、疲れていたな。
ブレークスルー感染か? でも今なら、入院できるかもしれない。ホテル療養でもいい。
隔離が必要だ。夫も私も、うつっているかもしれない。職場に迷惑をかけてしまうな。
「くせ」を自覚していたが、次から次へと、ふくらむ想像の世界。
どうか、軽症ですみますように。後遺症は、大丈夫か?
等のストーリーが加わり、物語の㐧2幕が始まりそうだった。
「我にかえろう。」
ストン、と私の中に入ったあの言葉を思い出す。
「想像でしかないのだ。」
正しい診断と治療を受けることが、ベストじゃないか。
何を考えているんだよ! と、私が私に言っている。
「そうだね。」と素直に応じる私がいた。
翌日のPCR検査の結果がでるまで、仕事を休み、悪化している坐骨神経痛の体をやすめた。
ゆっくりと、読書をした。
ポジティブ(中立)な心の対応ができるようになっていた。気持ちが、楽だった。
※不安は「想像の世界なんだよ。想像でしかないんだよ。」と伝えてくれた、社会学者・心理学者の加藤諦三氏に、感謝の言葉を伝えたい……。(上記、ユーチューブで聴く)
山本ふみこさんからひとこと
よくご自分を分析されましたね。分析して、一つの気付きを得て、改めようと自ら誓う。……けれども、危ない危ない、また「くせ」が顔を出しかける。
「ああ、また同じことのくり返しとなるのか」と思わせておいて、そうではない。「何を考えているんだよ!」と自らを奮い立たせるところ、こころに沁みます。このように「わたし」と「わたし」のあいだに間をとって語り合うという感覚、実はもの書きには必要なのです。
そうそう、作家「堀口時美」は、「たのしく書けました」と語っています。それが表れていると、みなさん、思いませんか?
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中で、次回第4期の参加者を募集中です。申込締切は2022年1月7日(金)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」1月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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