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- エッセー作品「飛びこえる」花村むつみさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コースの参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第4回の作品のテーマは「かけはし(橋)」です。花村むつみさんの作品「飛びこえる」と山本さんの講評です。
飛びこえる
保育室の夕方、4時を過ぎたころ、わたしたちはそれを【魔の時間】と呼びます。
子どもたちが疲れはじめるころ、少し目を離すと、ぶつかり合いが起きるころ、そして、こころが恋しく淋しくなる時間です。
「ゆりちゃん! ゆりちゃん! おかあさんよ。」
ゆりちゃんのおかあさんは体調を崩していて、このところ、おとうさんのお迎えが続いていました。けれども、今日は久しぶりのおかあさんのお迎え。
ゆりちゃんは、おままごとのスカートをはいたまま、おかあさんのもとへ走っていきました。
「ゆりちゃん! ゆりちゃん! スカート脱がなくっちゃ!」
保育士さんに言われて、ゆりちゃんは、おままごとの場所に戻ります。
足で踏みつけながらスカートを脱ぎ捨て、その脱いだスカートをそのままにして、おかあさんのところに一目散に走っていきます。
ゆりちゃんは、いつもなら、ちゃんとお片付けができる子どもです。
「おかあさん、ちゃんと待っててくれるよ。いそがなくても大丈夫だよ。」
そう思いながら、一緒におままごとをしていたわたしは、ゆりちゃんが脱いだスカートを、黙ってたたみます。
さっきまでのお気に入り、身に付けていたものを脱ぎ捨てて、まっしぐらに大好きなひとに向かって走っていく。
後ろを振りかえることもなく、ひとっ飛びに今のこの瞬間を飛びこえていくあなたの潔さのなかに、若いころのわたしの姿を重ねます。
【あなたのなかにいる、わたしに会いに行く】
山本ふみこさんからひとこと
作品に添えて、「ようやく自分が描きつづけたい『テーマ』がみつかったような気がします」と書いてくださいました。なんとうれしいメッセージでしょう。
描きたい事柄、描きたい人物、そこに存在する自分自身との距離感が絶妙です。みなさんにも、この距離感を感じていただきたいと思います。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在、第7期の参加者の募集中です。申込締切は2022年1月7日(金)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」1月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
■エッセー作品一覧■
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