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- エッセー作品「たまごふみお」小玉美智子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「卵」です。小玉美智子さんの作品「たまごふみお」と山本さんの講評です。
「たまごふみお」
「ねぇ、名前なんていうの」
びっくりして声のする方に顔を向けると、小さな女の子が笑顔でこちらを覗き込んでいました。
ここは銭湯、私は胸に息子を抱いて洗い場に座っています。
女の子は目をキラキラさせて「このこの名前はなんていうの」と聞くのです。
「名前はね、こだまふみおっていうんだよ」
「そっかあ、たまごふみおっていうんだね、かわいいね、たまごふみお」
エッ、こだまだけど、どうしてたまごになっちゃうの?
「こ、だ、ま、ふ、み、お、だよ」
「うん。たまごふみおくん、こんちは」
ニコニコして息子をなでていました。
その出会いがあってから、銭湯で会うたびに、女の子は息子のたまごと仲良くお風呂に入りました。
息子の生まれた昭和57年は、まだまだあちらこちらに銭湯があり、賑わっていて裸のつきあいが楽しい時代でした。
たまごだった息子も成長し、そんなことを思い出していると、さらに時間が巻き戻って、私の中学時代を思い出しました。
当時のお祭りにはたくさんの露店が出て、必ずひよこを売っているお店がありました。
大抵は飼っても長生きしにくいのですが、1羽買ったのです。
「ひよこ」と名付け同居生活が始まりました。
お世話の甲斐もあってか私に懐いてくれ、食事の時は私の腿にくっつき、トイレにもついてきて夜は一緒に布団で寝ていました。
かわいくて学校から家に帰るのが楽しみでした。
しばらくすると頭に硬いツンツンしたものが現れて、体長も縦に長くなりました。
色はまだ薄いクリーム色をしていましたが、やっぱりオスだったんだ、ニワトリになるんだな……。
いつものように学校から帰ると、部屋にかごが無い。
あっちこっち探しましたが見当たらず母に聞くと、とんでもないことを聞かされたのです。
「ニワトリになって朝鳴いたりしたら近所迷惑になるからって知り合いに話したら『食べる』っていうのであげちゃった」
私が育てて、いつも一緒にいて餌代も自分のお小遣いでまかない、すごくかわいがっていたのに信じられない。
悲しみより怒りでどうしたらいいのかわからなくなりました。
数日後、母は私と同じ学年の子の家にあげたと渋々打ち明けました。
それ以来その子と廊下ですれ違うたびに、あの子は私の「ひよこ」を食べたんだ、と見てしまった思春期の思い出です。
山本ふみこさんからひとこと
二つの物語が並んでいます。記憶のたどり方が自然で、ほおっと感心いたしました。
しまわれた記憶。いままさに活動している思考。編みつつあるイメージ。こうしたものたちを綴ろうとするとき、ともするとひとりよがりになります。脳内におかれた記憶、思考、イメージをそのまま書くと、たいていそう(ひとりよがり)なります。読者を設定して、誰にもわかるように、さりげなく説明しながら書く必要があります。説明は必要ですが、過ぎてもうるさいのです。
どうかみなさん、ご自身のことも一人の読者として位置付けて、作品を読み返してみてください。
そうそう「小玉美智子」のこの作品の好きなところはいろいろありますが、一番には、悲しみの描き方です。悲しみも怨み心もこのくらいにしておくと、かえって共感が生まれます。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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