「たまごふみお」
エッセー作品「たまごふみお」小玉美智子さん

公開日:2021年11月29日

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3期第2回

エッセー作品「たまごふみお」小玉美智子さん

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「卵」です。小玉美智子さんの作品「たまごふみお」と山本さんの講評です。

「たまごふみお」

「ねぇ、名前なんていうの」
びっくりして声のする方に顔を向けると、小さな女の子が笑顔でこちらを覗き込んでいました。

ここは銭湯、私は胸に息子を抱いて洗い場に座っています。
女の子は目をキラキラさせて「このこの名前はなんていうの」と聞くのです。
「名前はね、こだまふみおっていうんだよ」
「そっかあ、たまごふみおっていうんだね、かわいいね、たまごふみお」
エッ、こだまだけど、どうしてたまごになっちゃうの?
「こ、だ、ま、ふ、み、お、だよ」
「うん。たまごふみおくん、こんちは」
ニコニコして息子をなでていました。

その出会いがあってから、銭湯で会うたびに、女の子は息子のたまごと仲良くお風呂に入りました。
息子の生まれた昭和57年は、まだまだあちらこちらに銭湯があり、賑わっていて裸のつきあいが楽しい時代でした。

たまごだった息子も成長し、そんなことを思い出していると、さらに時間が巻き戻って、私の中学時代を思い出しました。

当時のお祭りにはたくさんの露店が出て、必ずひよこを売っているお店がありました。
大抵は飼っても長生きしにくいのですが、1羽買ったのです。
「ひよこ」と名付け同居生活が始まりました。

お世話の甲斐もあってか私に懐いてくれ、食事の時は私の腿にくっつき、トイレにもついてきて夜は一緒に布団で寝ていました。
かわいくて学校から家に帰るのが楽しみでした。
しばらくすると頭に硬いツンツンしたものが現れて、体長も縦に長くなりました。
色はまだ薄いクリーム色をしていましたが、やっぱりオスだったんだ、ニワトリになるんだな……。

いつものように学校から帰ると、部屋にかごが無い。
あっちこっち探しましたが見当たらず母に聞くと、とんでもないことを聞かされたのです。

「ニワトリになって朝鳴いたりしたら近所迷惑になるからって知り合いに話したら『食べる』っていうのであげちゃった」

私が育てて、いつも一緒にいて餌代も自分のお小遣いでまかない、すごくかわいがっていたのに信じられない。
悲しみより怒りでどうしたらいいのかわからなくなりました。
数日後、母は私と同じ学年の子の家にあげたと渋々打ち明けました。

それ以来その子と廊下ですれ違うたびに、あの子は私の「ひよこ」を食べたんだ、と見てしまった思春期の思い出です。

 

山本ふみこさんからひとこと

二つの物語が並んでいます。記憶のたどり方が自然で、ほおっと感心いたしました。

しまわれた記憶。いままさに活動している思考。編みつつあるイメージ。こうしたものたちを綴ろうとするとき、ともするとひとりよがりになります。脳内におかれた記憶、思考、イメージをそのまま書くと、たいていそう(ひとりよがり)なります。読者を設定して、誰にもわかるように、さりげなく説明しながら書く必要があります。説明は必要ですが、過ぎてもうるさいのです。

どうかみなさん、ご自身のことも一人の読者として位置付けて、作品を読み返してみてください。

そうそう「小玉美智子」のこの作品の好きなところはいろいろありますが、一番には、悲しみの描き方です。悲しみも怨み心もこのくらいにしておくと、かえって共感が生まれます。

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。


■エッセー作品一覧■

ハルメク旅と講座
ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

みんなの コメント

【PR】ブラトップでシルエット美人に!

ブラトップでシルエット美人に!

下着メーカーが本気でつくったブラトップ ♥ブラに比べ、しめつけ感の少ないブラトップはラクちんで大人気です!

2025.03.04
【PR】始めるなら相談できる「対面証券」がおすすめ

お金のこと、なんでも無料相談

資産運用、相続、ローンまで!お金の「よくわからない」をプロに気軽に相談できる♪

2024.12.17
【PR】鼻への重量感・違和感のストレスから解放!

「ふわっ」と軽いメガネ♥

メガネがずり落ちる・鼻の頭が重いなど、メガネのプチストレスにサヨナラ!あっと驚く程つけ心地抜群のメガネをぜひお試しください

2024.12.17
新薬の開発が相次ぐ。認知症は治療できる?

認知症の一歩手前のサインは?

MCI(軽度認知障害)は認知症の一歩手前の状態です。日常生活に大きな支障が出るほどではありませんが、次のような症状が出ます……

2025.02.07
【PR】50代からの願いを叶える新しい資金調達術

50代~お金の増やし方

将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか?

2024.11.20
【PR】飽き症でも、ゼロから英語が話せるようになったワケ

ゼロから英語が話せる!

飽き症さんでもOK!たった60日で英語が苦手な人でも英会話ができるようになると話題の「インド式英会話」をご存知ですか?無料体験セミナー実施中です!

2025.02.05
英訳が難しい日本語10選

英語でお疲れさまはなんて言う?

「お疲れ様です」「お世話になります」など英訳が難しい日本語10選をご紹介。曖昧な日本語表現をサラッと言い換えてみよう

2025.03.03
【PR】頼れる家族がいない……入院・入居どうする?

おひとり様の備えはOK?

この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生!

2024.07.22
子どもに残すべきはお金?不動産?どちらがお得?

子に遺すべき資産は?

「現金」か「不動産」か…どっちが得?メリット・デメリットは?相続や親族間のトラブルに悩まされないためにしておくべき準備とは

2024.12.12
【PR】美術館でお花見!?春爛漫をアートと食で感じよう

美術館で桜とアートを愛でる

東京国立近代美術館では、毎年人気イベント「美術館の春まつり」を開催!近代日本画の巨匠・川合玉堂 作・重要文化財《行く春》の公開など、期間限定の特別イベントです♪

2025.03.10
【PR】戸籍に氏名のフリガナが記載されます

全員忘れずに通知の確認を!

5月26日に「戸籍法」改正し、国民には「氏名のフリガナ通知」が届きます。通知が届いたら必ずやるべきこととは?

2025.03.10
【PR】「朝まで熟睡」できない人、実はふくらはぎに問題あり?

夜中にトイレ…眠れない

就寝中、トイレに起きてしまう「夜間頻尿」。年齢を重ねるにつれて回数が増えていませんか?実は、夜間頻尿対策のカギは「ふくらはぎ」にあるのです!

2025.03.10
【限定コラボ】職人技が光る!ハルメク×マエノリのセーター誕生秘話