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- エッセー作品「他山の石」野田佳子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。野田佳子さんの作品「他山の石」と青木さんの講評です。
他山の石
夫は退職して以来現役の時程空腹を感じなくなったせいか、食事に対する興味が急に低下してしまった。
「ごはんよ」と私。「……」聞こえているのかいないのか反応しない夫。「ごはん!」「……」「ごはんだってば!!」「うー」と、やっとTVの前で寝ころがっていた体を起こし食卓に着く。
そして「うわあ―!!」その次の言葉がなんともご挨拶なのだ。
「こんなに食べないかんとー?! お茶漬けでいいって言いよろうが!(こんなに食べなきゃならないのか? お茶漬けでいいって言ってるのに)」
これを聞いて怒らない奥様はいないだろう。もう何年続いていることか、この言葉。最初何回かはまともに怒った。しかし、正直言って怒ること自体アホらしい。夫は一旦箸を持つと私の倍の速さで平らげてしまう。
故に、近ごろは無視したり、「これ、ぜーんぶお茶漬けヨ!」などとバカな返事をしている。
夫には健康な老後を過ごして欲しい。料理が苦にならない私はいつも栄養バランスを考えて食事を準備している。それはとりも直さず私の為であり、夫の為でもある。
ある日、突然夫の態度が変わった。
「ごはんよ」「ハーイ!」なんだこりゃ!! 内心おったまげた。
常々夫は女房の意に添おうとするのは男の沽券に関わると思っている節があるので、そ知らぬ顔で食卓を囲んだ。
キッカケは恐らくこういう事だ。
最近、友人の夫婦生活が行きづまり、奥様が書き置き1枚置いて婚家を出た。
夫婦とも夫の友人である。彼は何とか助けて欲しいと毎晩のようにメールや電話を遣すようになった。初めは同情していたものの知れば知る程昔ながらの亭主スタイルを正当化する強引さが夫にもだんだん解って来たらしい。
私は拘わりたくないのだが、時折ひとこと口をさしはさまずにはいられなくなって、なにげなく解説を加えている。
世の主婦達がいかに様々なことに気を配りこまめには動いて家庭を守り続けているか。
男が当たり前と思っている事も、多くは女の実動に支えられての事だという事を。
社会的仕事には定年退職など一定の区切りがあり「退職祝い」なるものをしてもらえても、主婦業に定年退職はなく、一生続くのである。
夫は友人夫婦のトラブルを、まさに「他山の石」としてくれたようだ。
いつまで効き目があるか、続くか解らないけれど。
青木奈緖さんからひとこと
男女共同参画が進む世の中ですが、今も世の女性はとてもたくさんの家事をこなしていますね。その背景には愛情、習慣、諦めと、さまざまな感情が潜んでいるわけですが、何かのきっかけでそうしたものが顕在化することがあります。
友人夫婦の上に起きたことをご自身の身に照らし合わせて、あるとき旦那様ははっと気付かれたのでしょう。野田様の眼差しには余裕が感じられ、長年のいいご夫婦なのだと思います。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
第3期の募集は終了しました。次回第4期の参加者の募集は、2022年1月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ4つのエッセー第2期#2
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#3
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#4
- エッセー作品「それぞれの子育て」塚原明子さん
- エッセー作品「立て看板」西山聖子さん
- エッセー作品「他山の石」野田佳子さん
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