通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2期第5回

エッセー作品「アイラブユー!」勝矢和代さん

公開日:2021.09.02

更新日:2021.09.14

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「苦手」です。勝矢和代さんの作品「アイラブユー!」と山本さんの講評です。

「アイラブユー!」
絵・勝矢和代さん

アイラブユー!

動物園の動物を無邪気に見ることができない。
ある日私は動物園にいた。ギリシャ語で、「毛深い女性部族」が語源といわれるゴリラの檻の前に……。
男前で哲学者のようなゴリラがいる。彼の深い眼ざしに見つめられると、なぜか眼を逸らすことがむずかしい。
岩の上にどっかりと座し、悠然と人間さまを観察しているかにみえる彼。
かつては、緑豊かなはるかかなたのジャングルで、家族愛にあふれる生活をしていたと思う……きっと。
「俺ッち、ドラマチックな流転の末ここにいるんだぜ! 知らなかろう?」
まっ黒でピカピカ光るゴリラの丸い眼の中に、都会のジャングルが写っている。

私がゴリラに興味をもったのは、手話で人間とコミュニケーションがとれる有名なゴリラ「ココ」を知ったからである。
仲良しの猫が交通事故で亡くなったとき、ココは、「悲しみ」を手話で表現したという……。
なんと人間的なんだろう。共感という文字がふと浮かぶ。
人間は動物をペットにして可愛がることができるが「ゴリラは唯いつ、人間をペットにできる動物」と、ゴリラ研究者の前京大総長の山極壽一先生は語っている。

ゴリラと人間はよく似ているらしい。
「人間をペットにできる……」というのは、謎深い意味深い言葉と思った。
むずかしくて分からないが、わからないから笑ってしまう。
先生は、ゴリラは見つめ合うことが挨拶という。
相手の眼をしっかりと見つめ、相手にも眼と眼が合うまでしつこく要求するという。
だから私も心をこめて送り返す。
「アイラブユー!」

昔読んだ本をふと想い出した。
東大全共闘が三島由紀夫を近代的なゴリラと揶揄(やゆ)したポスターを会場に展示したらしい。
百円の「飼育募金箱」を設置してからかったが、三島由紀夫は会場でユーモアたっぷり皮肉まじりにおかえしをした。

「自分は立派な近代的なゴリラになる!」

右と左、意の異なる両者が眼光鋭くにらみ合う場面ののち、紳士的で静かな三島由紀夫に会場が魅惑されていった。
まさしく眼光鋭い三島由紀夫はゴリラだ……と思った。

 

山本ふみこさんからひとこと

ゴリラの話が読めるなんて、幸せです。「勝矢和代」の視点は、本当に面白く、このたびのゴリラも、ゴリラの瞳に映るヒトの姿が描かれています。

「ある日私は動物園にいた」から始めてもいいのではないかと思いながら、動物園の動物の悲哀から始めないと、受けとめきれぬことがあるな、と考え直しました。
ゴリラに会いたくなりました。

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

第3期の募集は終了しました。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。


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