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- エッセー作品「ネギのみじん切り」小井田弥栄さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「苦手」です。小井田弥栄さんの作品「ネギのみじん切り」と山本さんの講評です。
ネギのみじん切り
子どものころ、長ネギが嫌いだった。
お味噌汁に入っていたネギのぬるぬるっとした感じ、ちっともおいしいと思わなかった。
ところが、年を重ね、ネギのおいしさに気づく。
ちょっと焦げ目のついた焼きネギのおいしさ! 納豆や湯豆腐にもネギの薬味が欠かせない。ニンニクと長ネギ、卵炒りのチャーハンも好きでよく作る。
冷蔵庫に、ネギは切らさないようにしている。しかし、ネギのみじん切りは苦手だ。
食べるのは好きなのだが、また板の上で、包丁でネギを薄く細かく刻むのが、どうも苦手なのだ。
結婚して間もなく、夫の友人トロロ君(仮名)が遊びに来た。
昼食に何を出したか忘れたが、しばらくして夫は、トロロ君から「君の奥さんのネギの切り方には驚いた」と言われたそうだ。
「エッ」と私。
どうやらネギの刻み方が大分粗かったようだ。
私としては普通だったが、そういえば、お蕎麦屋さんの小皿についているネギのみじん切りはもっと細く細かかったな。
幸か不幸か、私の母もネギのみじん切りはこんな感じだったと思う。そして夫の母も、手先のほうはあまり器用ではなかった。ときどき、トロロ君に言われたこのことを思い出す。若いころの懐かしいエピソード。
以前、住んでいた家のお隣りのマチ子さん(仮名)。
お互い、子どもが幼かったので、時々子どもを預かってもらったことがある。お礼に、手作りのケーキやクッキーを差し上げた。
マチ子さんからは太巻きの海苔巻き。絶品だった。また、お手製のきんぴらをいただいたことがあった。
夫も私も驚いた!そのごぼうの切り方の細いこと。繊細なこと!
私も、きんぴらは好きでときどき作ったが、我が家のきんぴらは、ゴボウも人参ももっと太目だ。
私の苦手なことといえば、ほかにも。たとえば、封筒やはがきに貼る切手の位置が、まっすぐにいかない。よほど神経を集中しないと少し曲がってしまう。
夫が仕事をリタイアしてしばらくしてから、私は夫にあることを提案した。
週1回くらい、夕食を作ってほしいと。
夫は、少し考えていたようだが、しぶしぶ承知してくれた。
もう10年以上になるが、今夜の夕食つくりは夫、と思うだけで、気持ちがゆったりする。
夫は、当番の日は朝から緊張するそうだ。
夫がつくるものを見て、料理も個性が出るものだと気づく。献立のバランスは今ひとつだが、盛り付けや彩りになかなか気を使っている。
そして、野菜の切り方は私よりずっと繊細で細かい。
山本ふみこさんからひとこと
見事な随筆です。子どもの頃苦手であったネギのおいしさに気付いた話。どのエピソードも生き生きとしている上に、つながりもよく、やさしい結びが待っています。
文句がないので、ただ一つ、夫の友人Tを「トロロ君」、隣家の友人M子さんを「マチ子さん」としてみました。愉快な仮名を付けると、作品がぐっと明るくなります。お試しください。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
第3期の募集は終了しました。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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