今月のおすすめエッセー「秘密の時間」めぐみさん
2024.12.312021年06月05日
通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第2期第1回
エッセー作品「公園は命であふれてる」星野玲子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。星野玲子さんの作品「公園は命であふれてる」と青木さんの講評です。
公園は命であふれている
雨があがって、青空が広がり始めた。帽子をかぶると、私たち夫婦は城南公園を目指して散歩に出かけた。コロナ禍で外出自粛が続く中、散歩が楽しい日課になっている。
3月初めの昼下がり、日差しは暖かく、頬を撫でる風もやわらかい。
遊歩道を歩くこと20分。広い芝生と小山市のシンボルの白樫が見えてくる。
日曜日の公園には、小さな子供連れの家族が多く、サッカーに興じる少年たちの声も賑やかだ。
いつも座る木のベンチで一息入れていると、ボールが足元に転がってきた。立ち上がって、思い切り腕を振ってボールを投げ返した。
「ありがとうございます」と、中学生らしい少年が白い歯を見せて笑った。私たちまでサッカーの仲間になったような気分だ。
小さな女の子がピンクの自転車にまたがり、踏み出そうとしている。半袖の若い父親が必死で支えている。
「がんばれ。がんばれ」と、思わず声をかける。父親がぺこりと頭を下げた。
芝生の広場をぐるりと囲んだ周回道路は、格好の練習場だ。夫は昔、長女の自転車乗りの練習に付き合った事を思い出しているようだ。
「あの頃は、こんな公園無かったものな。狭い農道で練習していて、あっという間に真っ逆さまに堀に転げ落ちた。怪我はなかったが度肝を抜かれた」と、感慨深そうに言った。
今日は他にも目当てがあってここへ来た。春に先がけて公園を彩る辛夷の花だ。
公園の東側にぐるりと植えられた大木の辛夷は7本もある。予想通り8分咲きだ。
青空を背に、無数の白い花が風に吹かれている。控えめな細い花びらは無心に空を泳ぐ。私たちまで空に溶けこんでしまいそうだ。
帰ろうとして周回道路に戻ったとき、補助輪付き自転車がすごいスピードで走ってきた。男の子だ。
太めの父親が遅れて走ってくる。思わず「はやーい。すごーい」と、はやし立てた。
彼は「3歳になったよー」と叫びながら、私たちの横をすり抜けた。髪が風になびき、小さな背中は朗らかに揺れた。
86歳の夫と84歳の私は2月に誕生日を迎えたばかり。
あの元気な3歳の坊やも私たちも、同じ空の下に生きていると嬉しかった。
青木奈緖さんからひとこと
場面の切り取り方もうまく、全体にとても書き慣れていらっしゃる印象を受けます。
春の日に公園へ散歩にいらっしゃった折の情景描写でこの作品は成り立っています。
ご夫婦についての説明(結婚何年とか、仲の良さ、それぞれの性格等)やおふたりの歴史的なことは書かれておらず、公園を散歩する様子から読者はふたりの関係性を「想像」します。
家族のエッセーでは、つい「説明」して伝えがちなところを、この作品は読者に「想像」させることで見事に伝えています。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
次回第3期の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー#5
- 青木奈緖さんが選んだ2つのエッセー#6
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#1
- エッセー作品「一度だけの家族旅行」野崎一恵さん
- エッセー作品「公園は命であふれてる」星野玲子さん
- エッセー作品「モデル」西山聖子さん