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随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2回の作品テーマは「凧(たこ)」です。たまねぎくるくるさんの作品「凧(たこ)」と山本さんの講評です。
凧(たこ)
中国吉林省長春。かつての満州国の帝都だ。
37年前初めて訪れた時、緑の多い美しい街だと思った。長春駅も鮮やかな緑色をしている。私はここで1984年と1985年、2度の夏を過ごした。
人でもものでも土地でも縁があるということは不思議なことだ。
縁(えにし)と出会いとがなかったら、おきまりの北京か上海で過ごしていたに違いない。
ある人との再会が訪中の目的の1つだった。さらに北のハルビンまで行けば再会にはもっと都合がいいはずだった。でも長春で待つことにした。今となっては思い出せないが、なぜ長春だったのだろう。
3年前34年ぶりにこの街を訪れた。
駅舎は建て替わり、町は自転車でなく車であふれ、住んでいた宿舎は中華料理店に替わっていた。
思い出を確かめるようにかつての通学路を歩く。
よく通った郵便局。パンを買いに行った自由市場。もう思い出せないし見つけられない。
変わらなかったのは広大な広場のある地質学院と南湖公園の九十九折りの橋。写真を撮ったことが思い出される。
時はあっという間に流れたのだ。
あの旅の後結婚した。子どもを2人育てた。仕事は母の死をきっかけに辞めた。52歳で夫に先立たれた。家業を必死で支えたが子供たちは継がずに他の人に託した。
息子たちは自立し私は今を生きている。
あの夏の私は自分の生き方を模索していた。もう29歳だった。
どう生きていけばいいのか。どう生きるのがいいのか全く分からなかった。
中国へと旅立つ前、ここへは帰ってこないかもしれないと思いながら台所をやたらきれいに掃除したのだったなあ。
再訪した地質学院の広場では昔と同じようにいくつかの凧が飛ばされていた。
私は自分がつながれた凧糸がすでに切れていることを実感した。
風はとても心地よかった。
山本ふみこさんからひとこと
来し方をふり返る。
これがなかなかむつかしいのです。
感傷が過ぎてもいけないし、だからといって、まったくなければ何もつたわらないからです。
この作品は、誰のなかにも眠っている(眠らされている)大事な記憶の掘り起こし方のひとつの手法です。
もう少し知りたい、と思う面もなくはないけれど……、「過ぎない」がよいのかもしれません。
ひとつの作品としてうつくしく成り立っています。
つづきを、ていねいに区切って、あと3作くらい綴れそうでもあります。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回第3期の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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