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- エッセー作品「迂回路」徳井真理さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「昨日」です。徳井真理さんの作品「迂回路」と山本さんの講評です。
迂回路
昼食に軽めのパスタを食べて、日課の散歩に出た。
暑さが少し弱まったとはいえ、日差しは未だ夏である。
ほんの50メートル先の肉屋の角まで歩いただけで、汗がふきだした。
店先には揚げたてのコロッケが並び、数件向こうの魚屋も買い物客でにぎわっている。
ここは私鉄沿線の駅にある古い商店街だ。昼間から人出も多い。
私は、速乾性があるTシャツに黒いパンツ、そして赤いラインの入ったスニーカーを履いて、奥様然とした日傘をさしている。
汗をかく前提なので日焼け止めくらいで、お化粧もそこそこだ。近所の人に見つからないように、深めに傘をさして通りを横切り、緩やかな坂を上り始める。
この辺は1本入れば閑静な住宅街だ。昔は丘だったため、道路にはアップダウンがある。ウチの前のこの道も東向きの坂道だが、上り切ると空は広く見えて、正月には初日の出、夏には数キロ先の多摩川に上がる花火も拝める。私は青い空を見上げて、また歩き始めた。
坂を下りきると四つ角があって、いつもはそこを直進する。
ところが昨日はその先に新築住宅があるからか、「電気工事のため通行止め」の看板が立っていて、警備員に迂回してくださーいと促された。
右の国道方面ではなく、比較的静かな左回りを選択。
しかし、曲がり角が近づくにつれ、にぎやかな声が聞こえてくる。
始業式を終えた小学生の下校時間と重なってしまったようだ。
通りすがりのおばさんには目もくれず、子どもたちは互いの顔を覗き込むようにして、夏休みの報告をしている。
前を向いて歩かないとあぶないよ、と言いたくなるが遠慮しておいた。
まだ純心で素直な年齢の子どもたちは、しっかりとマスクをつけている。
コロナと言うよりは、RSウィルスや季節外れのインフルエンザのせいだろう。
夏にマスクという新しい習慣。最近は出欠の申し出や宿題の提出も、各自のタブレット端末から行うらしい。
授業の様子も様変わりしたと聞いていたが、けらけらと澄んだ声で笑うのを聞いていると、子どもは子どもだな、と当たり前のことに納得してしまった。
毎日ニュースを見て、同じ顔ぶれの人たちとしか話さないでいると、つい今のご時世を憂い、不安ばかりが頭をよぎってしまう。
しかし、変わりようのない現実があることに、私は少し安心した。
通行止めは昨日だけだったらしい。
私は完成間近の一軒家を通り過ぎ、隣の駅にあるいつものパン屋へと向かった。
山本ふみこさんからひとこと
昼食に軽めのパスタを食べて、という書きだしから、隣の駅にあるいつものパン屋へと向かった。という結びまで、まるで自分が歩いていて、自分が感じて、自分が思いだしているように、読みました。
正確な表現力を讃えたいけれど、それだけではありません。
何を選び、何を捨てるかが、見せどころなのです。
学ばせていただきました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年1月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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