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- エッセー作品「ノミの余韻」北谷利花さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「昨日」です。北谷利花さんの作品「ノミの余韻」と山本さんの講評です。
ノミの余韻
昨日の朝、床をピョンと飛びあがるものがあった。
まさか、これはノミか? いやぁー!
今日は、人と会う約束があるが。いやいや、うちの猫2匹を動物病院に連れて行くことが優先だ。
いや、でも、1人で2匹も連れて行けるのか。いや、そんなこと、言っておれない。
すぐに立ちあがり、キャリーバッグを捜す。物置きと化した部屋へ行き、捜しながら思う。
うちの猫はオスとメスだが、オス猫が好奇心旺盛で、玄関の戸をのそのそと閉めている人の足の間をすり抜けて、すぐに外に走り出て、しばらく帰ってこない。
それで、きっとノミが体についたのだ。
そうして家の中で大人しくしているメス猫にうつった。
夜にベッドで私の足元で寝ている猫たちから、ノミは飛んでやってきて私の足をかんだのだ。
最近、蚊にしては、とてもかゆいし、いつまでたってもかまれた跡が残り、そこがまたかゆい。
なんでだろう、と思っていた。そうか、ノミか。
やっと、キャリーバッグを見つけ出した。
キャリーバッグといっても古いかごだから壊れかけているし、でかくなった猫には狭そうだ。
入るまいと、足でつっぱねる猫を無理に押し込み、かごのトビラを閉める。
それから私はうらみのこもった声でうなる猫たちに負けずに、前方をにらんで運転する。
平常心を保たねば、と思い、「眠れよい子よ」を歌う。
心なしか、猫のうなり声も小さくなってくる。
無事に病院へたどり着く。
猫の後頭部から続く首から背中のあたり。猫は体を舌でなめるものだが、体のやわらかい猫もそこには舌が届かない。
そこに、先生がノミよけの薬をチューとつけてくれた。
「これで大丈夫。」
猫に優しくほほ笑む先生。
えっと、それで人間は?
「まぁ、猫がよく座っていた座ぶとんとかは洗った方が良いですね。」
家に帰り着いて早速、洗濯機をまわす。
そして、掃除機を部屋じゅうにかける。
猫たちは、薬がてきめんだったようで、もうかまれることがないのか、後ろ足でカキカキすることもなく、ぐっすりと眠っている。
一方、私は、深夜になっても、足のあちこちがかゆいのだが。
それはノミがまだ部屋にいるのか、それともかまれた跡がまだ治りきっていないのか。
またかまれないかと、おちおち寝ていられない。
今朝は、睡眠不足。
コバエすら、ノミか! と思ってしまう。
黒ゴマすら、もうノミに見えてくる。
しばらく、ノミの余韻が残りそうだ。
山本ふみこさんからひとこと
リズムがありますね。それからユーモア。
リズムとユーモアがどこかに落ちていたら、拾いたいものです。
なんて情けないことを云っていないで……。ええと、わたしがとくに好きなのは、ここです。
またかまれないかと、おちおち寝ていられない。
書けそうで、なかなか書けない1行です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年1月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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