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- エッセー作品「日記に話す」栞子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「昨日」です。栞子さんの作品「日記に話す」と山本さんの講評です。
日記に話す
絵日記が苦手だった。
小学生の夏休み、宿題にはかならず絵日記があった。
日記だけならまだしも、苦手な絵までいっしょに描かなくては完成しない。
毎日お天気のところだけは書いて、真っ白なページを見つめては途方に暮れる。
毎日どうやってやり過ごしていたのか思い出せない。
そんな小学生だったわたしだが、10年日記を大人になってつけはじめた。3冊目となる。
まさか自分が日記を書くなんて、こんなに続くなんて、小学生時代の担任の先生が知ればさぞ驚くだろう。
すべてのはじまりは、長男がわたしのおなかにやってきたとき。
毎日の自分の体の変化におどろき、これは記録に残さなければ!
スマホもなくビデオもそれほど一般的でなかった数十年まえのこと。
それまでにも、かわいい日記をかわいくない値段で買っては、何度も失敗をくりかえしていたわたしは、学生時代に使っていた普通のノートを準備した。
妊娠日記が育児日記にかわり、次男もやってきてノートは数十冊にもなった。
今もときどき読み返しては、嵐のような日々をなつかしく思い出す。
10年日記、1冊目は2000年はじまり。
2000年の区切りに何かを始めようとふいに思い立ったのだろう。
日記は1日4行ほど、それが10段続いていてひとめで10年分を見わたせる。
1冊目は子どもたちも小さく、ほとんど子育て日記のよう。
2冊目からは子どもの成長を喜んでいた最初の数年と、成長していくさみしさが目立つ後半の数年。
ノートに残る汚れやシミで、雑然としたリビングのテーブルで必死に書いていたことまで思い出せる。
そして2020年はじまりの3冊目。
寝る前にノートを開いてその日1日をふりかえる。
日々あったことを日記に話してすっきりしないことには、1日が終わらないほどになるとは。
小学生のわたしに知らせたい。
昨年は悩んでいたことをすっかり忘れていたり、数年前の能天気さをうらめしく思ったり。
日記の中では過去のわたしや未来のわたしへと会話しているような、交換日記をしているような気持ちでいる。
今日のグチも、数年先の笑い話になっていますように。
山本ふみこさんからひとこと
日記について考えています。
ときどき「日記に吐きだす」という話を聞きますが、どうしても吐きだしたいときは、裏紙か何かにわーっと書き、気持ちが鎮まったら、それを捨てるという方法をおすすめしたいと思います。
書くことに関して、わたしが禁じているのは、この3つ。
・誰かを攻撃する。
・鬱憤(うっぷん)を晴らす。
・反省やら、自己嫌悪を延延と綴る。
何を書く場合にも、機嫌よく書くことが大切です。
むずかしいテーマに取り組むとき、提言をするときには、ことさら機嫌よく(気持ちを整えて冷静に)書くようにしましょう。
そうして日記だって、読者を思って書こうではありませんか。未来の自分自身も大切な読者であることを忘れずに……。
さて「栞子」さんの日記は、素敵です。
うれしく、共感をもって読み返せるなんて、ほんとうにいいなあと思います。
日記の中では過去のわたしや未来のわたしと会話をしているような、交換日記をしているような気持ちになる。
このくだり、お見事です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年1月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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