医師監修│長引く咳は風邪じゃない!放置は悪化の危険

咳が止まらない理由は?原因・考えられる病気と対処法

井上哲兵
監修者
三浦メディカルクリニック
井上哲兵

公開日:2022.10.17

更新日:2023.05.21

「咳が止まらない」そんなとき、風邪が長引いているだけと軽く考えるのは危険です。2〜3週以上続く場合は、風邪ではなく他の病気の可能性も。咳が止まらない理由や咳が出る原因、考えられる病気や対処法を医師監修のもと詳しく解説します。

咳が止まらない理由は?

咳は、体を守るために起こる自然な反応です。

空気の通り道である気道にホコリ、食べ物や唾液などの異物が入ったときや、痰が溜まったとき、刺激の強いガスを吸い込んだときに、これらを体外に出そうとして咳が出ます。

咳は生体防御反射であり、無意識に起こるため、自分で止めるのが難しいのです。

咳の種類

咳の種類

咳は、痰があるかないかで「湿性咳嗽(しっせいがいそう)」「乾性咳嗽(かんせいがいそう)」の2種類に分けられます。

湿性咳嗽(しっせいがいそう)

湿性咳嗽は、痰が絡む湿った咳のこと。「ゴホゴホ」「ゲホゲホ」「ゼロゼロ」などの音がする咳で、痰を出すための生理的な咳です。

湿性咳嗽が出る病気としては、細菌性肺炎・気管支炎、肺結核、ウイルス性肺炎・気管支炎、喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患:慢性気管支炎・肺気腫)、肺癌など肺に原因がある疾患は勿論のこと、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などによる後鼻漏や慢性心不全など肺以外に原因がある場合もあります。

乾性咳嗽(かんせいがいそう)

乾性咳嗽は、痰が絡まない乾いた咳のこと。「コンコン」「ケンケン」「コホコホ」など乾いた音の咳が特徴で、咳そのものが苦痛になるため、咳が治療対象になります。

咳喘息やアトピー性咳嗽、間質性肺炎、マイコプラズマ肺炎、逆流性食道炎、心因性(ストレスなど)などが挙げられます。また、血圧降下剤の副作用で咳が出ている事もあり服薬内容は注意が必要です。

2〜3週間以上続く咳はただの風邪ではない可能性がある

咳は症状が続く長さによって、3つに分けて定義されています。

  • 急性咳嗽(きゅうせいがいそう)……咳が出て3週間以内
  • 遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)……咳が3~8週間続く
  • 慢性咳嗽(まんせいがいそう)……咳が8週間以上続く

長引く咳があるとき、「風邪が長引いているのかも」と軽く考えてしまいがちですが、目安として咳が2〜3週間以上続く場合、風邪ではない可能性があります。

風邪症候群の原因の多くはウイルスによるものとされています。風邪症候群の原因ウイルスは2週間以上は気道内で生き続けられないため、安静にしていれば免疫機能の働きなどによって自然に治癒することが一般的です。ただし、ウィルスが不活化していても、気道内の炎症が残存して咳だけ長引く事があります。これを感染後咳嗽と言います。

細菌による風邪はウイルス性の風邪よりも症状が重くなることがありますが、抗生物質を使用することで症状が治まっていきます。

  • 2週間以上、咳が治まらない
  • 眠れないほどの激しい咳が続いている

上記のような症状が見られる場合、風邪ではなく他の病気の可能性が考えられるため、早めに病院を受診しましょう。

咳の症状セルフチェック

ここでは、咳の症状セルフチェックリストをご紹介します。当てはまるものがないかチェックしてみましょう。

  • 呼吸するとヒューヒュー、ゼイゼイ音がする
  • 天気によって咳がひどくなることがある
  • 寝るときや深夜など、夜間に咳や痰が出る
  • 明け方に咳が出る、咳で目が覚める
  • 冷たい空気を吸うと咳が出る(冬に家から外に出るときに咳き込む、電車から降りるときに咳き込む、スーパーの冷凍品売り場にいると咳き込むなど)
  • 辛いものを食べると咳が出る
  • エアコンの風を吸うと咳が出る
  • 湯気を吸うと咳が出る
  • 会話をしている時に咳が出る
  • 同年代の人と同じペース出歩こうとするとつらい
  • 出ないときはまったく出ないが、一度咳が出るとなかなか止まらない
  • 喫煙指数が400を超えている(喫煙指数:1日の喫煙本数×喫煙年数)

上記に一つでも当てはまる場合、風邪ではなく他の病気が原因で咳が出ている可能性があります。我慢せず、悪化する前に呼吸器の専門医を受診しましょう。

咳が止まらなくなる原因

咳が止まらなくなる原因

ここからは、咳が止まらなくなる原因について解説します。

細菌やウイルス

ライノウイルスやRSウィルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルスなどのウイルス感染や、肺炎球菌やマイコプラズマ、百日咳菌などの細菌によって肺炎や気管支炎を起こすと、咳が止まらなくなることがあります。

また、細菌やウィルスの感染が落ち着いた後に、咳だけが長引く事がありこれを感染後の咳嗽と言います。基本的には鎮咳薬で経過を見ることになります。

アレルギー物質

アレルギー物質はアレルギー性咳嗽 やアレルギー性鼻炎からの咳の原因となり、咳が止まらなくなることがあります。

ダニ、ホコリ、ペットの毛などアレルギーの原因となる物質は人によって異なりますが、病院でアレルギー検査をすれば原因を調べられます。治療は抗アレルギー剤の内服や吸入ステロイドとなります。

タバコや粉塵などの有害物質

タバコや粉塵、化学物質など、人間の体にとって有害なものを長期間にわたって吸い込み続けると、呼吸器が慢性的な気道炎症や肺胞の炎症を起こし、咳が止まらなくなることがあります。

それでも、禁煙が出来なかったり、適切な治療介入がなされないと段々と呼吸機能が下がりはじめ、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を発症する事になります。

咳だけではなく、息切れや痰が目立つようになり、重症化すると在宅酸素療法を必要とする場合もあります。喫煙者で2〜3週以上咳や息切れが続くような人は必ず呼吸器内科へ相談して、適切な検査を受ける事が大切です。

お酒(アルコール誘発喘息)

お酒を飲んでいるときに咳が出始めて止まらなくなる場合、アルコールの刺激によって気道に炎症が起きていることが原因かもしれません。

アルコールを摂取すると肝臓でアセトアルデヒドという物質に分解されますが、アセトアルデヒドは人体にとって有害なもので、喘息発作を引き起こす原因になります。

また、アセトアルデヒドはヒスタミンを増やす働きもあります。ヒスタミンが気道を狭くすることも喘息発作の原因です。

その他

その他、花粉症や降圧薬の服用、寒冷刺激、カプサイシン、食物アレルギー、好酸球増多(白血球の中の一つの細胞が多い体質の人)、慢性副鼻腔炎、逆流性食道炎、咳喘息なども咳が出る原因になります。

花粉症の人は喘息がある場合も多く、咳との関わりが深いです。また、血圧を下げる薬の副作用で咳が出ている可能性も考えられるでしょう。薬の副作用の場合、乾いた咳が出ます。

咳が止まらない病気

咳が止まらない病気

ここからは、咳の症状に関連する病気についてご紹介します。

2週間以内で治まる咳で考えられる病気

ウィルス性上気道炎(風邪やインフルエンザウィルス感染)・急性気管支炎・肺炎などでは、ウイルスや細菌に感染することで気道に炎症を起こし、咳が出たり、咳が止まらなくなったりすることがありますが、これらの多くは2週間以内で治まります。

また、咳だけではなくそれぞれ以下のような症状が見られます。

  • 上気道炎(風邪)……咳、熱、喉の痛み、鼻水、くしゃみ
  • インフルエンザ……咳、高熱、下痢、喉の痛み、全身の関節痛
  • 急性気管支炎……咳、熱、痰、全身の倦怠感

2週間以上続く咳で考えられる病気

咳が2週間以上長引く場合、風邪ではなく他の病気の可能性が考えられます。

咳喘息

長引く咳の原因として近年増加しているのが、咳喘息です。

咳喘息の診断は呼吸器専門医であっても難しい事が多いのが実情です。初めて受診する内科の病院で経過や問診、身体診察だけて初回に咳喘息と診断することはあり得ないことです。適切な検査や治療経過を診てからでないと咳喘息の診断はつきません。

正しく診断を付けることがなぜ大切なのかといえば、咳喘息を放置した場合、3人に1人が気管支喘息に進展することが分かっているからです。成人発症の気管支喘息になると完治する事はほぼありません。気管支喘息は適切な治療介入がなされないと重症化していく進行性の病気であると言う認識が大事です。

咳喘息を正しく診断し適切な治療を適切な期間、しっかりと行い喘息への移行を防ぐことが何よりも大事です。

気管支喘息

気管支喘息は、アレルギー性物質が原因で起きてくるタイプ、白血球の中の好酸球という細胞が悪さをして起きてくるタイプ、その両方のタイプ、どちらでもないタイプに分けて考える事が大事です。

軽症から中等症の患者さんは基本的に吸入ステロイド療法でコントロールしていくことになります。ベースの吸入をしっかり使っていかないと重症化していく進行性の病気であることを忘れてはいけません。咳症状が治療で治っても喘息治療薬を医師の判断なしにやめてしまうのは避けてください。重症化を招くことになります。

未だに吸入薬より内服が大事と思っている患者さんも少なくないです。大切なのは毎日の吸入ステロイド!症状があってもなくても喘息なのです。

よく例えに出すのですが、血圧が180/90の患者さんが降圧薬を飲んで翌朝には正常血圧になったとしましょう。高血圧が治ったと思います?喘息も同様です。もう一度言います。症状があってもなくても喘息は喘息です。喘息と診断されれば、症状があってもなくても吸入ステロイドを使用する必要があるのです。

なお、吸入ステロイドの副作用は内服や点滴のステロイド投与(全身投与)と違い、全身への影響は極めて少なく、安全性が非常に高いのが特徴です。

吸入ステロイドをステロイドだからと闇雲に怖がり、きちんと指示通りに使用しないと結局重症化してしまい、副作用が強い内服や点滴をしなくてはならなくなります。ステロイドを怖がるのであれば、むしろ副作用の少なく安全性が極めて高い吸入ステロイドをきちんと毎日使う事が大事です。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

咳が長引く場合、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の可能性も考えられます。

COPDはタバコ病とも呼ばれ、有害物質を吸引し続けることで炎症を起こして気管支が狭くなったり、肺胞が壊されることで空気を取り込みにくくなります。日本人の死亡原因の第10位にもなっており、死のリスクを伴う病気です。

また、最近ではフレイル(衰弱)の原因としても知られ、初期段階から禁煙及びその治療を行なっていかないと、全身の筋力低下などを来し、寝たきりのリスクが上昇することが分かっています。

1日に吸う本数が長い人や喫煙歴の長い人ほど重症化する傾向にあり、1日1箱のタバコを20年くらい続けるとCOPDの発症リスクが上昇します。

タバコの影響で気管支や肺胞に炎症が起き、組織が壊れた状態になる「肺気腫」や咳や痰が長引く「慢性気管支炎」もCOPDに含まれます。

非結核性抗酸菌症

中年以降の女性に多く、ガーデニングの趣味がある人に多いと言われる疾患です。非結核性抗酸菌症は初期から症状が認められることはほぼなく、10年単位でゆっくりと進行していき、菌数が増加したり、気管支拡張症を併発したりすることで咳の原因となります。

治療法は2から3種類の抗生剤を1年以上毎日服用する必要があります。ただし、完治することはほぼなく、病気の進行や病勢を抑える事が目的となります。

間質性肺炎

間質性肺炎とは、肺胞(肺は肺胞というブドウの房状の小さな袋が集まって出来ています)の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなるため(線維化)、酸素を取り込みにくくなる病気です。

間質性肺炎の原因は様々ですが、原因不明のものを特発性間質性肺炎と呼びます。その中でも特発性肺線維症と呼ばれるタイプが最も多く特発性間質性肺炎の中の約90%を占めます。

肺線維症の予後は5から6年と非常に短く、早期に見つけ、専門医療機関にてしっかりとした治療を行う事が大事です。

肺がん

肺がんも咳の原因です。初期の肺がんはほとんど自覚症状がなく、あっても咳や痰など風邪のような症状のため、気づけないこともあります。

重喫煙者は勿論ですが、非喫煙者であっても肺がんを発症することがあるため、遷延する咳がある場合は画像検査を受けることが大切です。

胸部単純写真(所謂レントゲン検査)では心臓の裏の部分にできた肺がんや気管癌などは発見することが熟練医でも困難なため、初期治療を行なっても奏功しない場合は必ずCT検査を受ける必要があります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でも、咳の症状が見られます。

国立感染症研究所が公表した「IDWR 2020年第16号<注目すべき感染症> 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」によれば、国内で新型コロナウイルスに感染した患者のうち約半数近い、46.1%に咳の症状が見られるとのことです。

新型コロナウイルスに感染すると、1週間ほどは軽い咳や喉の痛み、発熱など風邪のような症状が続きます。しかし発熱が治まった頃から、咳が悪化し、段々と咳が止まらなくなる人が多いです。

療養期間を終了後も数週間、長い人の場合は数か月にわたって咳が止まらなくなるというケースも見られるようです。適切な検査をしてしっかり治療を行えば数日で改善する人が多いのでコロナ感染後の長引く咳は放置せず、早めに病院を受診しましょう。

逆流性食道炎

一見関係なさそうに思えるかもしれませんが、意外に多いのがコレ。

胸焼け症状があり、咳が続く人は、コレが原因の可能性が高いです。内科受診時には咳症状を詳細に伝えるのも大事ですが、胸焼けがキツイと必ず伝えましょう。

慢性副鼻腔炎

副鼻腔炎は好中球性副鼻腔炎と好酸球性副鼻腔炎に分類されます。好中球性副鼻腔炎は膿や鼻汁が咽頭に逆流して刺激となり咳が出ると言われています。

一方で好酸球性副鼻腔炎と言われるタイプは喘息を合併していることが多く、喘息治療薬の吸入ステロイドを使用しないと適切なコントロールが出来ないので注意が必要です。

好酸球性副鼻腔炎は鼻茸(鼻の中のポリープ)を伴っていることも多く、その場合はロキソプロフェンやボルタレンと言った非ステロイド性解熱鎮痛剤は使えない事が多いのでご注意ください。

その場合はアセトアミノフェンが代替薬品として用いられますが、成人の場合1回量が400mgを超えての服用は喘息発作等を誘発する事があり、アセトアミノフェン=絶対安全ではないので注意が必要です。

咳が止まらないときの対処法・予防法

咳が止まらないときの対処法・予防法

ここからは、咳を出さないようにするためには、原因治療が原則ですがそれと共に自身で出来る咳予防をご紹介します。

まずは処方された薬を用法用量通りにきちんと使う

特に、気管支喘息、COPD、咳喘息、逆流性食道炎、副鼻腔炎などは医師の指示なしで勝手に治療薬を中断することはお勧めできません。

うがいやマスク、こまめな水分摂取や飴などを舐める

咳の原因となるウイルスや細菌の侵入を防ぐためにも、うがいやマスクをするといいでしょう。唾液量が少なく口の中が乾燥しやすい人はマスクをして湿気をコントロールするとともに、乾燥している時は、水をこまめに摂取しつつ飴を舐めることも一つの良い方法です。

部屋の湿度コントロールをする

乾燥した環境はウイルスを活性化させてしまいます。また、気道も乾燥してしまいウィルスや細菌に感染しやすくなってしまいます。

湿度は加湿器をつけることでコントロールできるので、冬の乾燥しやすい季節は加湿器を使うといいでしょう。ただし、過度な過失は室内のカビの発生につながるため50〜60%程度を目指して調整しましょう。

長引く咳は放置せず早めに病院へ!

ひどい咳が止まらない、しつこい咳が長引いている場合、風邪ではなく他の病気の可能性も考えられます。目安としては2〜3週間以上、咳が続く場合は呼吸器科を受診しましょう。

また、2〜3週間経たなくても咳がつらくて眠れない、咳で横になれない、呼吸が苦しいなどの場合も、早めに病院で診てもらう必要があります。

監修者プロフィール:井上哲兵さん

井上哲兵さん

1984年、神奈川県出身。2003年私立浅野高校を卒業。2009年聖マリアンナ医科大学医学部を卒業。同大学病院呼吸器内科助教、国立病院機構静岡医療センター呼吸器内科医長などを経て、2019年、神奈川県三浦市に「三浦メディカルクリニック」を開院。聖マリアンナ医科大学呼吸器内科非常勤講師を兼任。

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