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- 難聴は認知症リスクを高める!?耳鼻咽喉科医が解説
高齢親のテレビの音が異常に大きいことに気づいたら……。「年だから仕方がない」と放置するのはNGと、川越耳科学クリニック院長の坂田英明さん。認知症のリスクを高めるため、放置せずにケアすることが大切です。難聴について詳しく教えてもらいます。
加齢で老人性難聴に!放置はNG
聴力は、一般的に年齢を重ねるごとに衰えていきます。
「加齢に伴って耳の聞こえが悪くなることを老人性難聴といいます。60代から多くなり、65歳以上では25~40%、75歳以上では40~66%、85歳以上では80%もの人が難聴です」と坂田さんは言います。
難聴は大きく3つの種類に分けられる
難聴は大きく3種類に大別されます。
■伝音難聴
外耳、中耳までの異常です。耳垢が詰まり過ぎた状態の「耳垢栓塞(じこうせんそく)」、細菌などによって外耳道が炎症を起こす「外耳炎(がいじえん)」、ウイルスなどによって中耳が炎症を起こす「中耳炎(ないじえん)」などが原因で起こります。治療によって改善が期待できます。
■感音難聴
耳の奥の音のセンサーの細胞が音を感じることができない状態です。加齢とともに聞こえが悪くなる「老人性難聴」、片方の耳が突然聞こえなくなる「突発性難聴」などがあります。
■混合難聴
伝音難聴と感音難聴の要素が一緒に起こっている状態です。
坂田さんによれば、初期のうちは本人が気付くことは少なく、「会話がかみ合わない」「テレビの音が異常に大きい」といったことから、家族や周囲の人が気付いて初めて難聴とわかるケースが多いといいます。
「耳の聞こえが悪いとわかったら、『年だから仕方がない』と放置してはいけません。聴力の低下は、『家族や友人との会話が少なくなる』『電話が面倒になる』といったコミュニケーションの問題を生じさせる他、認知症のリスクを高めることがわかっているのです」と坂田さん。
2017年、イギリスの医学雑誌「ランセット」の認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会は、認知症リスクのうち予防可能なものは約35%であり、難聴が9%を占めると発表しました(下参照)。また厚生労働省による認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)でも、難聴と認知症は深い関連があるとされています。
対策が必要な認知症の要因
- 学校での教育期間の短さ(8%)
- 難聴(9%)
- 高血圧(2%)
- 肥満(1%)
- 喫煙(5%)
- うつ(4%)
- 運動不足(3%)
- 社会的孤立(2%)
- 糖尿病(1%)
※カッコ内の数字が大きいほど関係が大きくなります
難聴が認知症のリスクを高める理由
ではなぜ、難聴が認知症のリスクを高めるのでしょう。
その説明の前に、下の図をご覧ください。そもそも耳から入った音の振動は、外耳道を通って鼓膜、耳小骨(じしょうこつ)に達し、かたつむりのような形をした蝸牛(かぎゅう)に伝わります。
そして蝸牛にある有毛細胞で電気信号に変換され、聴神経から脳へ届けられます。すると脳が音を認識し、「何の音か?」「心地よい音か?」「誰の声か?」「怒っているか?」など高度な分析がなされるのです。
知っておきたい「音の伝わり方」
音は(1)外耳道に入り(2)鼓膜の振動が(3)耳小骨という小さな骨を介して(4)蝸牛に伝わります。
蝸牛には有毛細胞が規則正しく並んでいて、海の中の海藻のように揺れ、振動が電気信号に変換されます。
音の電気信号は(5)聴神経を介して脳に伝わり、音の分析と理解がなされます。
難聴になると脳への刺激が劇的に減少する
「耳から脳に入る情報は、実は私たちが思っている以上に大量です。例えば、好きな音楽を聴くときは、歌詞の意味をかみしめながらハーモニーを聴き分け、楽しさや寂しさを感じたり、懐かしい記憶がよみがえったりします。誰かと会話をするときには、相手の言葉を耳がとらえると、脳がフル回転で働き始め、適切な言葉や対応を導き出そうとします。難聴になると、こうした脳への刺激が劇的に減ってしまい、脳を衰えさせる要因となるのです」と坂田さん。
さらに、会話が億劫になり孤独になりがちなことも脳の衰えに拍車をかけるため、難聴を甘く見てはいけません。
突発性難聴は治療で改善&老人性難聴は生活習慣によって予防
老人性難聴や突発性難聴は、蝸牛の損傷によって生じる感音難聴に分類され、治療は困難とされています。
突発性難聴では、突然、片耳が聞こえなくなります。大きな特徴は(1)朝起きたら耳が片方聞こえなくなっていた、電話を取ったら相手の声が聞こえないなどのように前触れなく起こる、(2)耳が詰まった感じや耳鳴り、めまいなどを伴うことがある、(3)精神的、肉体的なストレスを抱えているケースが多い、の3つ。
原因は内耳の血流障害です。蝸牛にある有毛細胞に十分な血液が送られず、難聴になってしまうのです。
極軽度のものを除き、突発性難聴は自然には治りません。発症したら二週間以内に治療を始めることが重要。(1)(2)の症状が現れたら、すぐ耳鼻科へ。様子を見るうちに2週間経過すると治療が困難になります。治療はステロイド剤を使うのが一般的です。
しかし、「突発性難聴は早めの治療で改善できますし、老人性難聴は生活習慣によって防ぐことができます」と坂田さん。
例えば、大切なのは耳掃除をしないこと。綿棒を使ってグリグリと耳掃除をすると、耳の上皮を傷つけ、炎症を起こす原因になる他、かえって耳垢を押し込んでしまうことも。実はアメリカでは綿棒に「耳には使用しないでください」と注意書きがされています。耳垢は自然に耳の外に出るので、耳掃除は禁物です。
また、暴飲暴食をしないことも大切です。食べ過ぎ・飲み過ぎは、メタボを進行させ、血流を悪くするばかりでなく、エネルギーを消費するときに、体内で大量の活性酸素が発生するので要注意です!
最後に、イヤホンで音楽を長時間聴き続けないことも重要。音には「音圧」という圧力があります。長時間、大きな音にさらされると、音圧によって内耳が傷つきやすくなります。ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴き続けることは避けてください。
この他にも、難聴予防に役立つ生活習慣はたくさん。次回、まとめて紹介します。
坂田英明(さかた・ひであき)さんのプロフィール
川越耳科学クリニック院長。1988年、埼玉医科大学卒業。91年、帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手。ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科副部長を経て、2008年より目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授。16年より現職。18年より埼玉医科大学客員教授、昭和女子大学客員教授。日本耳科学会代議員。日本聴覚医学会代議員。
取材・文=五十嵐香奈(編集部) イラストレーション=田上千晶
※この記事は雑誌「ハルメク」2021年5月号を再編集、掲載しています。
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