ドクター本間おすすめ!肺トレーニング

呼吸筋ストレッチ体操のやり方と効果を医師が解説!

公開日:2020.05.20

更新日:2023.09.27

加齢で衰えてしまう呼吸機能。他の筋肉と同様に、鍛えることができます。肺を動かす筋肉「呼吸筋」のストレッチ体操のやり方を、東京有明医療大学学長の本間生夫さん(ドクター本間)が解説。動画も見られるので、わかりやすく正確に行うことができます!

教えてくれた人

本間生夫さん

本間生夫さん
ほんま・いくお 東京有明医療大学学長。1948(昭和23)年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。医学博士。86年より昭和大学医学部第二生理学教室教授、2013年より東京有明医療大学副学長、17年より現職。専門は呼吸神経生理学。日本情動学会理事長、NPO法人安らぎ呼吸プロジェクト理事。著書に『すべての不調は呼吸が原因』(幻冬舎新書)。

呼吸筋とは?鍛えることはできる?

呼吸筋とは

私たちが呼吸するとき、肺は自らの力で膨らんだり縮んだりしているわけではありません。肺の周りにある筋肉が動くことにより、吸気(息を吸う動作)と呼気(息を吐く動作)が行われています。この呼吸に必要な筋肉の総称が呼吸筋で、横隔膜や肋間筋などが代表的なものです。

「呼吸をするのは当たり前のことに感じられて、『気を付けよう』『鍛えよう』という発想には結びつきにくいかもしれません。しかし、加齢により呼吸機能は確実に衰えていきます。呼吸筋は、加齢によって硬くなって衰え、収縮運動を十分に行えなくなります。それと同時に、肺自体の弾力も失われ、空気を出し入れする力はだんだん落ちていきます」

こう話すのは、東京有明医療大学学長の本間生夫さん(ドクター本間)。一般的に、呼吸機能の衰えは60代頃から目立ってくるといいます。

加齢とともに呼吸筋や肺の弾力性が衰えると、息を吐いた後に肺の中に残る余分な空気の量(残気量)が増えていくそう。すると、新たな空気がしっかり吸えなくなり、息苦しさを感じたり、浅くて速い呼吸になったりします。

【解説】「残気量」は、息を目いっぱい吐き切ったつもりでも肺に残っている空気の量。「機能的残気量」は、安静時の呼吸で肺に残っている空気の量。(出典:本間生夫著『すべての不調は呼吸が原因』)
【解説】「残気量」は、息を目いっぱい吐き切ったつもりでも肺に残っている空気の量。「機能的残気量」は、安静時の呼吸で肺に残っている空気の量。(出典:本間生夫著『すべての不調は呼吸が原因』)

こうして空気が十分に入ってこなくなると、体はエネルギーをうまく生み出せなくなり、臓器の働きや代謝が低下してしまいます。その結果、「疲れやすい」「胃腸の調子が悪い」「眠れない」などの不調や病気を招くことに。

さらに「呼吸が衰えると自律神経が乱れるため、少しのことでイライラしたり、落ち込んだり、心の不調も抱えやすくなります」と本間さんは言います。

 

呼吸筋ストレッチとは?その効果を解説!

そこで、呼吸機能を改善させる方法として本間さんがおすすめしているのが「呼吸筋ストレッチ体操」です。

「吸息筋(息を吸うための筋肉)と呼息筋(息を吐くための筋肉)は連携しながら息を出し入れしているため、バランスよく鍛えることが大事。ここで紹介するストレッチを行うと、呼吸筋はしなやかな動きを取り戻し、深くゆったりと呼吸できるようになります」と本間さん。

今回ご紹介する「呼吸筋ストレッチ体操」は、もともと呼吸器疾患の患者さんのために開発されたもので、その効果は医学的にも証明されています。

呼吸機能が低下し、少しの動きでも息切れしてしまうCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんが呼吸筋ストレッチを3か月間実践した研究では、呼吸困難が大きく改善され、生活の質が高まったという結果が出ました。

また、60代以上の人は唾液や食べ物が誤って気道に入ることがありますが、呼吸筋がしっかり働いていれば、異物が気管に入ってもせきで吐き出せるというメリットもあるそうです。

「健康に生きられるかどうかは、呼吸の力をどれだけキープできるかで決まります。日本人の健康寿命と平均寿命の差は10年。私は、高齢者になっても呼吸筋をしっかり鍛えることで、健康寿命を10年引き延ばせると考えています」

 

呼吸が変わると感情も変わる!不安軽減効果も!

こうした呼吸機能の改善効果に加えて、深い呼吸を心掛けることで不安を軽減する効果も期待できるそう。「呼吸筋ストレッチ体操」は、2011年の東日本大震災でトラウマ(心的外傷)を受けた子どもたちのケアにも活用され、心身のストレスが軽減したことも確認されています。

特に、コロナ禍で疲れてしまった今、不安を軽減するために、意識的に呼吸を変えることが大切だと本間先生は言います。

「呼吸は感情と結びついています。感情が変われば呼吸が変わり、呼吸が変われば感情が変わります。不安を軽減するには、深く大きな呼吸に変えることが重要です。呼吸筋ストレッチは、ストレスを抱えた人にぴったりのトレーニングです。自宅でできる簡単な体操なので、毎日やるのがおすすめです」

 

【動画で解説】1回5分!呼吸筋ストレッチ体操のやり方

それでは、動画と写真で呼吸筋ストレッチ体操のやり方を解説します。ストレッチはレッスン1からレッスン7まで7種類あり、すべて通してやっても1回5分でできる簡単な体操です。

ここではその中から、代表的な3つのストレッチ(★)をご紹介します。

レッスン1:肩の上げ下げ(★)
レッスン2:首のストレッチ
レッスン3:胸のストレッチ
レッスン4:体幹のストレッチ
レッスン5:背中・胸のストレッチ(★)
レッスン6:腹部・体側のストレッチ
レッスン7:胸壁のストレッチ(★)

基本の姿勢
足は肩幅に開き、背すじを伸ばしてリラックスします。
※体が硬い方、痛みのある方は、いすに座って行いましょう。
 

ストレッチ1:肩の上げ下げ

息を吸う筋肉(吸息筋)を鍛えます。3~6回を目安に行いましょう。

ストレッチする部位

1.     鼻から息をゆっくり吸いながら、肩を上げていく(肩を上げたとき、かかとが地面から離れないように)。

ストレッチ1:肩の上げ下げ

2.    口から息をゆっくり吐きながら、肩を後ろに回して下ろす(肩の力を抜いて動かす)。

ストレッチ1:肩の上げ下げ

 

ストレッチ2:背中・胸のストレッチ

吸う筋肉を鍛えます。3~6回を目安に行いましょう。

ストレッチする部位

1.    胸の前で両手を組み、ゆっくり呼吸する。

ストレッチ2:背中・胸のストレッチ

2.    鼻から息をゆっくり吸いながら、背中を丸め、腕を前に伸ばしていく(お腹をへこませ、大きなボールを抱えるようなイメージで)。

ストレッチ2:背中・胸のストレッチ

3.    口から息をゆっくり吐きながら、元の姿勢に戻す(重心をかかとに置いて、ひざを軽く曲げると体が安定する)。
 

ストレッチ3:胸壁のストレッチ

吐く筋肉を鍛えます。3~6回を目安に行いましょう。

ストレッチする部位

1.    腰の後ろで両手を組み、鼻から息をゆっくり吸う。

ストレッチ3:胸壁のストレッチ

2.    口からゆっくり息を吐きながら、両腕を下へ伸ばしていく。元の姿勢に戻し、ゆっくり呼吸する(手を後ろに引き下げながら胸を張るような体勢で。無理な場合は後ろ手を組まずに行う)。

ストレッチ3:胸壁のストレッチ

 

効果的に肺・呼吸筋を鍛えるトレーニングを!

本間さんによると、日常生活の中でできる呼吸筋を鍛えるのに効果的なトレーニングはいろいろあるそう。

1.普段から姿勢をよくする
姿勢をつくる筋肉と呼吸筋は同じ筋肉です。猫背だったり、背中を丸めていたり姿勢が悪い人は、おのずと呼吸が浅くなります。普段から胸を張り、背すじを伸ばしましょう。

2.長く声を出したり、大きな声で歌う
朗読や詩吟、大きな声で歌うと、長く息を出し入れすることにより、深くゆっくりした呼吸が身につきます。お風呂で歌うこともおすすめです。

3.息を吐き切る肺トレーニングをする
年とともに「息を吐いた後に肺の中に残る空気の量」が増えます。意識的に息を吐き切って、肺の中の空気を出し切るトレーニングをしましょう。

呼吸筋は意識しないと鍛えるのが難しい部位。今回ご紹介した呼吸筋ストレッチ体操や呼吸筋を鍛える市販のトレーニング器具をうまく活用しましょう。

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)イラストレーション=金子なぎさ 構成=竹下沙弥香(ハルメクWEB)

※この記事は「ハルメク」2018年11月号に掲載した記事を再編集しています。


「ドクター本間のラッタッタ呼吸体操」もチェック

本間先生が参加するYoutubeチャンネル「安らぎ呼吸プロジェクト」では、歌に合わせて楽しく呼吸筋をストレッチする「ラッタッタ呼吸体操」も紹介中です。

動画の中で流れている歌は、2011年の東日本大震災の後、被災地の子どもたちと作った歌とのこと。「呼吸筋ストレッチ体操」とあわせて挑戦してみてくださいね。

>>ドクター本間の「ラッタッタ呼吸体操」

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