医師が解説!動画で学ぶ腰痛体操・1

腰痛を改善する3秒の簡単ストレッチ「これだけ体操」

松平浩
監修者
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター
松平浩

公開日:2020.04.14

更新日:2023.03.27

日本人の8割以上が経験する腰痛。この連載では、坐骨神経痛やぎっくり腰など腰の痛みの改善に役立つ簡単な腰痛体操・ストレッチを、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター・松平浩先生が紹介します。初回のテーマは腰痛の原因と「これだけ体操」です。

1回3秒で腰痛を改善「これだけ体操」
1回3秒で腰痛を改善「これだけ体操」

早めの対策が大切!長引く腰痛の原因とは?

長引く腰痛の原因とは?

腰痛とは、腰からお尻にかけての痛みや張りなどの不快な症状のこと。「たかが腰痛」と思って放置している人も多いようですが、重症化すると何度も繰り返したり痛みが慢性化したりして、長年苦しむことになるため、早めに対策をすることが大切です。

「腰痛には大きく分けて2つの種類があります。腰痛だけでなく坐骨神経痛(お尻から太ももへ響く痛み・しびれ)を伴う椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、骨粗しょう症に伴う骨折など、医師の診察と画像診断で原因が特定しやすい特異的腰痛と、そうでないものです」と松平浩(まつだいら・こう)先生。

特異的腰痛の場合は、病院での検査や治療が必要なことが多いよう。

「横向きでじっと寝ていてもうずくことがある、痛み止めを使っても頑固な痛みがすぐぶり返すなどの症状がある場合は、子宮内膜症やがんの転移といった病気が原因の特異的腰痛が隠れている可能性がありますので、一度、早めの受診をおすすめします」とのこと。

一方で腰痛のほとんどは、心配する病気ではない腰痛で、専門的には非特異的腰痛と呼ばれるそう。

「いわゆるぎっくり腰(腰椎捻挫)を含め、一般的な腰痛のほとんどが非特異的腰痛です。画像でヘルニアやすべり症がある場合でも、それが痛みの直接的な原因とならない場合は、非特異的腰痛に含まれます。非特異的腰痛は、腰への負担が引き金となって起こる腰椎(腰自体)の不具合と、心理的ストレスが関係する脳機能の不具合の2つの要因で起きると考えられています」
 

猫背や前かがみの悪い姿勢はNG!「腰痛借金」に注意

腰椎の不具合は、猫背や前かがみの姿勢、腰を反らした状態、不適切な持ち上げ動作などで、腰に負担がかかったときに起こるそう。たとえば、椎間板の中央にある「髄核(ずいかく)」がずれる場合です。

「猫背や前かがみの姿勢では、骨盤が後側へ傾き腰椎の前への弯曲が減って直線化し、背中の筋肉が緊張した状態になりやすくなります。そうなると椎間板をつぶす力が強まり、髄核がずれやすくなります」と松平先生。

「腰の骨と骨の間にはクッションの役割を担う椎間板があり、髄核はその中央にあるゼラチン状の組織です。急な前かがみの姿勢により、髄核が後ろへずれると周囲の線維輪が傷つき、ぎっくり腰や髄核が飛び出して神経を圧迫する椎間板ヘルニアを引き起こしてしまうことがあります」

猫背・前かがみの姿勢は腰痛借金がたまる状態
出典:松平 浩

特に現代社会はパソコンやスマホ作業、家事などで、猫背や前かがみの姿勢になりがち。こういった姿勢を続けると、知らず知らずのうちに椎間板に負担がかかったり、背中の筋肉が常に緊張して血流不足になったりします。

こういった腰への負担が強まった状態を、松平先生は“腰痛借金がある状態”と呼んでおり、借金をためない日頃の習慣が重要だといいます。

また、ヒール靴を履いて立ち続けるなど、腰を反らした状態が続いた場合も、前かがみによる腰痛借金とは逆の負担による腰痛を感じることがあるといいます。
 

過剰な安静は逆効果!体操・ストレッチで腰痛改善

体操・ストレッチで腰痛改善

髄核の軽いズレであるなど“腰痛借金”は容易に返済できるため、非特異的腰痛は本来、大きな心配のいらない腰痛です。しかし、これを悪化させたり、治りにくくしたりする別の要因がある、と松平先生はいいます。

「動いたらまた腰痛になるのでは、という不安や恐怖から、過度に腰をかばってしまう恐怖回避思考です。恐怖回避思考は心理的ストレスとなり、腰痛の要因となる脳機能の不具合を引き起こします」

腰痛がなかなか良くならない理由として、腰痛を気にしすぎたり、コルセットを常時着けていたり、といった腰や体を動かすことへの恐怖感があるそう。

「腰痛への恐怖によって心理的ストレスが強まると、ドパミンやオピオイドという痛みを抑える脳内物質が分泌されにくくなるため、悪循環に繋がりやすくなります。さらに精神のバランスを保つセロトニンの分泌も低下すると抑うつ的になり、さらなる悪循環を招きます」

脳機能の不具合以外にも、過剰に安静にすることのデメリットは大きいそう。

「腰痛の痛みへの恐怖から体を動かさなくなると、“腰痛借金”が恒常化するので、腰痛が治りにくくなったり再発しやすくなったりします。結果的に筋肉も衰えてしまいます。また、筋肉を動かさない状態が続くと、かえって痛みに過敏になることも知られています」

こうした点から、非特異的腰痛は無理のない範囲で動いて治すのがおすすめとのこと。

「ぎっくり腰の場合でも、安静にするのは長くて2日まで。できる範囲で適切に動くほうが、回復が早く腰痛の再発率も減ります」
 

「これだけ体操」のやり方を松平浩先生が実演!

松平先生が考案した腰痛体操「これだけ体操」は、腰痛借金をためて重度の腰痛になる前に行うもの。腰痛予防に役立つことが複数の研究で示されています。猫背姿勢をリセットし、美しい姿勢づくりにも役立ちます。

松平先生と一緒に「これだけ体操」のやり方とポイントをチェックしましょう。


▼手の位置がポイント!正しい姿勢をイラストでチェック!

これだけ体操のやり方:腰を前へ押し込んで3秒間キープ
出典:松平 浩
  1. 足を平行に、肩幅より少し広めに開いて立ち、両手を腰の下の方(骨盤のすぐ上辺り)に当てます。このとき、両手はできるだけ近くにそろえるようにします。

    「これだけ体操」のやり方1:足を開き両手を腰に当てる

  2. 2.息を吐きながら前へ押します(腰を反らせるのではなく、手を当てた骨盤を前に押し込む意識で)。つま先重心で、膝はできるだけ伸ばします。顎が上がらないよう注意します。

    「これだけ体操」のやり方2:骨盤を前に押し込む

  3. 3.ゆっくりと息を吐きながら胸を開き、腰を反らせた状態を3秒間保ちます。これを1~2回繰り返します。これだけです。

    「これだけ体操」

【注意】体操中にお尻から太ももにかけて痛みが響いた場合は中止してください。

これだけ体操の注意:お尻から太ももにかけて痛みが響いた場合は中止
出典:松平 浩

腰痛体操「これだけ体操2020」を動画でチェック!


「これだけ体操」は、筋トレのように運動の時間をつくって行う必要がなく、日常生活の中で思い出したときに、1回3秒からと簡単に行えるのがポイントです。予防には1日1~2回、治療としては1日10回からが目安とのこと。

「非特異的腰痛の予防と改善には、腰の不具合を正して、筋肉の血流を良くする『これだけ体操』がおすすめです。同じ姿勢が続いたり、重い物を持った後に少しでも腰に違和感を覚えたら、『腰痛借金が増えたから、すぐに返さないと!』と思うことが大切。美しい姿勢づくりにも役立ちますので、毎日1回は『これだけ体操』を行う習慣をつけましょう」(松平先生)

次回は、腰痛借金をためない姿勢のキープにも役立つ「ハリ胸エクササイズ」をご紹介します。お楽しみに!

監修者プロフィール:松平浩さん

松平浩さん

まつだいら・こう 東京大学附属病院22世紀医療センター「運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座」特任教授。NHK番組出演を含め、腰痛の正しい知識や対策に関する啓蒙啓発活動を精力的に行っている。主な著書は『腰痛は「動かして」治しなさい』(講談社+α新書)など。「美ポジラボ」やYoutubeチャンネルにて「Stay Home」の今、家でできる体操動画コンテンツを配信中。

取材・文=竹下沙弥香(ハルメクWEB)

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