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肩が痛くてエプロンの紐が結べない! これがもしかして五十肩(肩関節周囲炎)なの? 五十肩の症状チェックリストや病院受診の目安、痛みの改善法を、慢性痛治療の専門医・奥野祐次さんが解説。予防に効果的なストレッチで肩関節の可動域を広げましょう!
監修者プロフィール:奥野祐次さん(オクノクリニック 院長)
おくの・ゆうじ 医療法人社団 祐優会 総院長。オクノクリニック 院長。1981(昭和56)年生まれ、慶應義塾大学医学部卒業。2008年より放射線科医としてカテーテル治療に従事。江戸川病院運動器カテーテルセンター・センター長を経て、17年オクノクリニック横浜センター南を開院。20年7月に5院目となる東京 表参道院を開院。2018・2019年「医師に信頼されている医師」米国ベストドクターズ社のBest Doctors in Japanに選出される。
もしかして五十肩? 痛みの原因はモヤモヤ血管
肩周囲を動かすと痛い、腕が上がらない、エプロンのひもが結べない……そんな症状がある人は、もしかしたら「五十肩」かもしれません。
「五十肩は肩関節周囲炎とも呼ばれ、肩関節まわりにある関節包や腱板が炎症を起こして関節の動きが制限された結果、肩に痛みを感じる疾患です。医学的には、特発性拘縮肩(とくはつせい・こうしゅくかた)や特発性凍結肩(とくはつせい・とうけつかた)と言います」
そう話すのは、オクノクリニック院長の奥野祐次さん。
「中年以降に発症するのが特徴で、特に40代~50代の女性に多く見られます。一般的に、40代で発症した場合は四十肩、50代で発症した場合は五十肩と呼びますが、実際には同じ病気です」
奥野先生によると、これまで五十肩の原因は、加齢による肩関節を構成する組織の老化や血液循環の悪化だといわれていましたが、最近の研究で、肩関節まわりの「異常な血管」が影響していることがわかってきたそう。
「人体には、生命維持のために必要な正常な血管だけではなく、病気の原因になってしまう異常な血管も存在します。五十肩や肩こりなど、治りにくい関節の痛みの背景に、異常な血管が存在することは、さまざまな研究で確かめられています。私たちはその異常な血管のことを『モヤモヤ血管』と呼んでいます」
人体の構造上、血管が増えると、神経も一緒になって増えていきます。この余計に増えた神経から、痛みの信号が脳に送られることが、五十肩の痛みの原因だと考えられています。
五十肩の特徴は長引く肩の痛み
五十肩の症状の特徴は「特に大きなきっかけがなく肩に痛みが発生して、徐々に痛みが増すこと」だと言います。
「五十肩は、骨折や脱臼など、明らかな怪我がきっかけで炎症が起きるというのではありません。転んで手をついたとか、手を伸ばして棚の上の物を運んだなどの動作がきっかけとなり、しばらくしてから五十肩となることが多いです」
肩周囲の痛みは、数か月以上かけて少しずつ、時には急速に進行します。
「はじめはなんとなく肩に違和感がある程度だったものが、肩を少し動かすだけでとてつもない痛みを感じたり、夜寝ていても痛みで起きたりするようになります。痛みのために1~2時間しか眠れない状態が、数か月から1年以上続く人もいます」
奥野さんによると、日中に体を動かしているときに痛みを感じなくても、夜寝ているときに痛みを感じる患者さんは意外と多いそう。その原因は、寝ているときに「モヤモヤ血管(奥野さん監修のヘバーデン結節記事も参照)」に血液が流れ、神経を刺激すること。日中に痛みがないからといって、安心はできません。
五十肩は自然に治る?病院を受診する目安は?
では、肩に痛みを感じたら、すぐに病院を受診すべきなのでしょうか?
奥野さんによると「五十肩の症状には個人差があり、軽症であれば、特に治療をしなくても数か月程度で治ることがある」とのこと。
五十肩の病期は3つに分けられ、一般に発症から約2週間の「炎症期(急性期)」、その後約6か月の「慢性期」を経て「回復期」に至ります。
「五十肩になると、痛いのに無理に肩を動かそうとする人がいますが、痛みの強い炎症期はモヤモヤ血管とともに神経が増えて、刺激に対して過敏な状態。まずは安静にするのが一番です。無理に動かすと、炎症が余計に増して治りにくくなります。炎症期が過ぎれば、日中の痛みは徐々に落ち着いていきます」
しかし「モヤモヤ血管と神経は一度できてしまうとなかなか減りません。重症の場合、適切な治療を受けないと、最低でも1年半は痛みが続きます。徐々に肩を動かせる範囲が狭くなり、洗顔ができない、つり革が持てないなど、日常生活や仕事にも影響が出てしまいます」と奥野さん。
そうならないためにも、重症化する前に適切な治療を受けることが大切です。五十肩で病院を受診する目安を奥野さんに聞きました。
▼病院を受診すべき五十肩の症状チェックリスト
- バンザイをして腕を上げていったときに、頭の上まで手が上がらない
- ズボンの後ろポケットに手を入れるのがつらい(あるいはできない)
- 夜寝ていて肩に痛みがある(夜間痛)
「この3つがすべて当てはまれば、五十肩である可能性が極めて高い」と奥野さん。
「腕が上がらない、肩が動かせない、といった動きの制限の度合いが強い人ほど重症です。また、夜間痛が強い場合も、すでに重症になっていると考えられます。早めに病院を受診しましょう」
その他、肩関節まわりの痛みが1週間以上続いている場合や、手や腕にしびれがある場合も要注意です。
五十肩と肩こりの違いは?腱板断裂など似た症状の病気も
肩の痛みを肩こりと勘違いする人も多いようですが、五十肩と肩こりは原因も症状も違います。
五十肩は関節の炎症が原因であるのに対し、肩こりは筋肉痛の一種で、姿勢の悪さや緊張などが原因です。肩こりは筋肉疲労による症状なので、凝りがひどくて痛みとして感じることはあっても、肩は自由に動かせます。一方、五十肩は痛みとともに肩の動きが制限されます。
つまり、五十肩と肩こりの違いは「肩を動かせるかどうか」だといえます。
「肩が痛ければすべて五十肩であるというわけではありません。肩が痛くなる病気には、腱板断裂や石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)などもあるため、病院ではレントゲンやMRI、エコー検査、関節造影検査などの結果を元に、総合的に診断します」
五十肩の場合、レントゲンやMRIでは異常は見られないそう。また、肩こり同様に、他の病気と五十肩にも症状の違いがあります。
「五十肩の場合、肩関節まわりが極端に動きにくいのが特徴です。それに対して、五十肩以外の病気は、痛みはあるものの、肩関節はそこまで固くなっていません。手を上げると途中で痛みは感じるけれど、最終的に頭の上まで手を上げられる、といった場合は、五十肩の可能性は低いと考えられます」
いずれの場合も「たかが肩の痛み」と放置するのはNG。痛みが続く場合は、1度病院を受診しましょう。
五十肩の治療は薬物療法・運動療法が基本
五十肩で受診する診療科目は、整形外科が一般的です。
「整体や整骨院、マッサージなどを利用する人もいるようですが、特に痛みが強い炎症期は神経が過敏な状態のため、肩関節まわりを刺激するのは控えたいもの。我慢できないほど痛みが強い場合は、慢性痛や整形外科専門医の診察を受けることをおすすめします」
五十肩の治療では、神経を刺激しないよう、少しずつ肩を動かすことが重要です。
「病院では、痛みを抑える湿布や鎮痛剤などの薬物療法を基本として、痛みが治まってくる慢性期・回復期には、ストレッチなど肩関節の可動域を広げる運動療法を実施していきます」
痛みの改善が思わしくない場合には、理学療法士によるリハビリや温熱療法・電気治療を取り入れる場合もあるようです。
こうした薬物療法・運動療法などの保存療法で症状が改善することが多いため、五十肩の治療で手術療法になるケースはほとんどありません。
重症の場合も、以前は関節鏡(内視鏡)を使う手術を実施することがありましたが、現在は日帰りで受けられる運動器カテーテル治療などが開発され、患者さんの負担が大きく軽減されました。
「運動器カテーテル治療は、細いチューブ(カテーテル)を血管の中に入れて患部に近づき、体の中からモヤモヤ血管を撃退する方法です。点滴と同じように短いチューブを静脈の中に挿入し薬液を滴下するので、痛みも少なく、安全に治療することが可能です」
ストレッチで肩関節の可動域を広げる!五十肩の予防にも
軽症の五十肩の場合は、自宅でのストレッチで肩関節まわりを動かすだけでも、痛みを軽減させることができるそう。
奥野さんに自宅でもできる簡単なストレッチ方法を教えてもらいました。肩甲骨(背中の上部にある大きな骨)をしっかり動かして、肩関節の可動域を広げていきましょう。
「ただし、軽症の場合でも肩を動かすのは、あくまで炎症期が過ぎて痛みが減ってきてから。夜寝ている時に痛みがあるなど、炎症が強いときは、無理に動かさないでください」
1.腕を前方に伸ばすエクササイズ
- 痛い方の手を机の上に置き、そのまま手を机の奥にすべらせていきます。
- 痛みが出ない範囲まで伸ばして、5秒ほど止めます。
- 元に戻す。これを5回繰り返してください。
※手を伸ばすと、自然と脇の下が開いていくため、手を上げるのと同じ姿勢になるのがポイント!
2.後ろに回すエクササイズ
- エプロンのひもを結ぶように、痛い方の手を背中の後ろに持っていきます。
- 反対の手で痛い方の手をつかんで、体の後ろに軽く引っ張って伸ばします。
- 痛みが出る手前くらいのところで5秒ほど止めます。これを5回繰り返してください。
これらのストレッチを毎日続けることで、肩周りの痛みを軽減できます。症状がない人も、肩関節まわりの筋肉の柔軟性を上げることは、五十肩の予防に繋がるので、ぜひ挑戦してみてくださいね。
※この記事は2020年6月の記事を再編集して掲載しています。
取材・文:竹下沙弥香(ハルメクWEB)
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取材協力:慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A(オクノクリニック)
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