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外反母趾の原因は足の筋力低下!治療方法や改善策は?

公開日:2020.06.20

更新日:2024.02.21

「外反母趾(がいはんぼし)」は、常に上位にランクインする女性の足のお悩み。まずは外反母趾のセルフチェックで進行度を確認してみましょう。足指研究所・湯浅慶朗さんが、外反母趾とは、またその原因と治療法について解説します!

外反母趾の原因・治療・改善方法
外反母趾の原因・治療・改善方法

外反母趾かも?診断基準&自宅での「セルフチェック」方法!

外反母趾とは、足の母趾(親指)が小指側に曲がっていく病気のことです。レントゲン撮影で、親指の骨が小指側に20度以上曲がっていれば外反母趾と診断されます。

外反母趾の診断基準とレントゲンのイメージ
外反母趾の診断基準

外反母趾のセルフチェック方法

足の内側にボールペンなど真っすぐなものを当て、親指の爪の部分との間にできたすき間に手の人差し指を入れます。足に当てたボールペンのラインが本来の親指の位置です。

  • すき間に指が入らない:正常
  • すき間に指が1本入る:軽度外反母趾
  • すき間に指が2本入る:中等度外反母趾
  • すき間に指が3本入る:重度外反母趾

女性が8割以上だが、男性の外反母趾患者も急増中

厚生労働省の患者調査によると、1984年から2016年の約30年間で、外反母趾の患者数は約8倍に増加しています。

外反母趾の患者数
外反母趾の患者数

外反母趾患者の男女比は、女性が圧倒的に多く、全体の84.5%を占めています。しかし、患者の毎年の増加率でみると、男性は13.1%、女性は6.8%で、男性の増加率が女性のおよそ2倍と男性の外反母趾患者が急増していることがわかります。

外反母趾の原因の一つに、足の筋力低下があるので、運動習慣のない男性や子どもが増えたことが背景にあるのかも知れません。

外反母趾の原因は足の筋力低下!扁平足や遺伝の影響も

以前は外反母趾の原因は靴の形だとされていましたが、近年では靴の形の他にも、性別・体質・遺伝などの内的要因や、歩き方や姿勢などの外部要因が複雑に関係して発症することがわかっています。

中でも近年問題になっているのが、筋力低下による足のアーチ構造の変化です。

内的要因(扁平足、遺伝)

イギリスで行われた調査によると、外反母趾患者のうち手術をした人の58%に家族歴があるそう。また、外反母趾の患者の家系を調べた結果、3世代(祖父母・父母・子)以内の家族の外反母趾発症率は、スペインでは90%、アメリカでは84%と報告されています。

外反母趾の家族歴
外反母趾の内的要因:遺伝

また、遺伝的要因で先天的に扁平足である人は、土踏まずがある人に比べて外反母趾になりやすいこともわかっています。
 

外的要因(靴、足の筋力低下)

下のグラフをご覧ください。靴を履かない裸足生活の人の外反母趾の発症率は2%以下といわれています。一方、靴を履く人は女性で48%、男性で16%に外反母趾の症状があります。

外反母趾の外的要因:靴
外反母趾の外的要因:靴

このように、靴を履く習慣があると外反母趾の発症率は高くなりますが、どの種類の靴をどの程度の時間使用すると外反母趾を発症するかという点はいまだに解明されていません。

靴の形以上に、外反母趾の原因で注目すべきは、足のアーチ構造です。健康な人の足は、骨がアーチ状に積み重なって、立ったときに土踏まずの部分が地面から浮いた状態となっています(土踏まずが地面についた状態は、扁平足と呼ばれます)。

外反母趾の原因:足の筋力低下・偏平足
外反母趾の原因:足の筋力低下・偏平足

足のアーチ構造は3つ(横アーチ・外側縦アーチ・内側縦アーチ)あり、どんな場所でもバランスよく立つためのカメラの3脚のような役割をしています。

足のアーチ構造(横アーチ・外側縦アーチ・内側縦アーチ)
外反母趾の原因:足のアーチ構造の崩れ

ところが、足の筋力が低下すると、体重の重さで「横アーチ」が崩れて開張足(かいちょうそく)となります。

開張足になると、足の横幅が広がるため、小指の根元から親指の付け根にある母指内転筋(ぼしないてんきん)という筋肉が伸ばされてしまいます。

外反母趾の原因:開帳足
外反母趾の原因:開帳足

伸ばされた筋肉は元に戻ろうとする力が働くので、親指を小指の方へ曲げようとします。これが、外反母趾の本当の原因です。

外反母趾は「外反母趾」という病名なので、母趾=親指に原因があると考えがちですが、実は親指が原因ではありません。そこには「足のアーチの崩れ」という原因があり、結果として母趾=親指が外側に曲がっているだけなのです。

似た症状の病気に内反小趾がありますが、内反小趾の原因も同じように足のアーチの崩れにあることがわかっています。

「足指じゃんけん」で足の機能不全をチェック!

外反母趾はほとんどの場合、足に合わない靴の中で足が滑ることから始まります(遺伝や病気が原因の場合は除く)。そして、外反母趾の前兆として足の機能不全や足指の変形が起こっています。

外反母趾の原因と進行

  1. 靴(靴下)の中での足の滑り
  2. 浮き指・かがみ指など、足指の変形が起きる
  3. かかと重心の歩き方になることで、足指の機能不全が起こる
  4. 足指を使わない歩き方になり、足裏の筋力低下が起こる
  5. 足裏の筋力低下により、開張足になり母指内転筋が伸ばされる
  6. 母指内転筋が戻ろうとする力で親指が内側に曲がる(=外反母趾)

外反母趾につながる足の機能不全があるかどうかは、自宅で簡単にセルフチェックできます。

裸足になって、足指でじゃんけんをするように「パー」「グー」「チョキ」の形を作ります。これらがすべてできない場合には、すでに足指の変形が始まっていて、外反母趾になる可能性が高いので要注意です。

1.「パー」

足の機能不全をチェック!足指じゃんけん「パー」

5本の足指の間が、手の人差し指が入るくらい開いていれば合格です。指が真横に一直線に並び、その状態を30秒以上キープできれば合格です。

2.「グー」

足の機能不全をチェック!足指じゃんけん「グー」

5本の足指を足の裏に向かって曲げます。第3関節(足の指の付け根)からしっかりと曲げることができれば合格です。

3.「チョキ」

足の機能不全をチェック!足指じゃんけん「チョキ」

足の親指と人差し指を上下にこすりあわせて「指パッチン」ができれば合格です。

治療せず外反母趾の症状が進行するとどうなるの?

外反母趾の症状の進行
外反母趾の症状の進行

足指の機能不全を放置したまま外反母趾になると、次第に足の親指が「く」の字に曲がります。

すると、横に突き出した骨(突出部)が靴に当たって痛みが生じ始めます。突出部には親指につながる知覚神経が通っているため、圧迫されることで親指にしびれや痛みが生じることもあります。

実は、外反母趾の症状で足が痛いと感じる人は約半数で、あとの半数は痛みの症状がない人たちです。しかし、痛みがないからと外反母趾を放置していると、関節の脱臼などを引き起こし、重症になって手術が必要となることも多々あります。

また、外反母趾になると、親指に力が入らず地面を踏み込めなくなるため、負荷がかかる腰やひざなど、足から離れた場所に痛みが現れることがあります。こうした症状のことを「二次的障害」と呼びます。

頭痛や肩こり、腰痛など、全身に慢性的な痛みや不調を引き起こす原因になるため、外反母趾は放置せず、早めに治療することが大切です。

これまでの外反母趾の治療は対症療法が基本

外反母趾の治療というと、整形外科を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、病院での治療方法は対症療法が基本であるため、根本的に骨の変形が治ることはありません。正確には「私が病院の治療だけで骨の変形が治った人を1人も見たことがない」という意味です。

いったいなぜなのか? それをわかっていただくためにも、一般的な外反母趾の治療の流れをご紹介します。軽度外反母趾の治療は、痛みを緩和する保存療法が基本となります。

外反母趾の治療1.靴の指導

外反母趾の治療では一般的に、靴は親指の付け根を圧迫せず、指先が広く、ヒールは低めで、柔らかい素材のものを選ぶように指導されます。

痛みのある部分が靴に直接触れることで痛みが誘発されるので、適切な靴指導を行うことが痛みの軽減につながることは期待できるのですが、外反母趾の痛みの軽減や変形を予防する効果はないとされています。

むしろ外反母趾におすすめの靴は、硬めの素材で、幅が狭く、足の甲やかかとがしっかり固定でき、ヒールが多少あるものなのです。

外反母趾の治療2.運動療法

運動療法は、理学療法士が親指の関節が硬くならないように足の指を動かす運動や、親指を開くための筋肉を強くする運動を行います。

痛みなどの症状が軽い場合は、月に1~4回程度通院しながら足指を動かすエクササイズを行い、症状が特に悪化しなければ2~3か月に1回程度の通院となります。足指を動かす運動には一定の効果があるものの、病院への通院は頻度が低いため、効果が見られるまで時間がかかるのが現状です。

外反母趾の治療3.装具療法

装具療法は、痛みのある部分を除圧する目的のパッド、歩くときや寝るときに使用する矯正用装具(セパレーター:親指を広げるためのもの)、インソールの3つに分けられます。パッドや矯正用装具は痛みの軽減効果はあるものの、外反母趾角の改善効果はないとされています。また、インソールも使用後6か月程度は痛みの軽減効果はあるものの、12か月たつとその効果はなくなります。

外反母趾の治療4.薬物療法

薬物療法は消炎鎮痛剤入りの湿布や軟膏が用いられますが、基本的に対症療法として行われます。保存療法(運動療法や装具療法)との併用で痛みの軽減効果は認められています。

このように、病院での外反母趾の治療は、痛みを緩和する対症療法が基本で、外反母趾の原因である「足のアーチ構造の崩れ」を治すことができないため、根本的な骨の変形を治すことには繋がりません。

手術の費用は10万円以上!足指体操で重症化を予防

重症の外反母趾の場合は、痛みや骨の変形により歩けないなど、日常生活に不便が生じるため、外科手術によって骨の変形を強制的に治す治療が行われます。

しかし、手術には高額な費用が必要で、入院や通院による社会生活への影響、合併症などにより不利益を生じることもあるため、日々のセルフケアで重症化を予防することが何より大切です。

外反母趾の手術の内容

 外反母趾の手術方法は数多くありますが、最も一般的なのは第1中足骨(親指)の骨を切って矯正する方法です。骨切り部位により、遠位骨切り術・骨幹部骨切り術・近位骨切り術の3つに大きく分けられます。軽度から中等度の外反母趾には遠位骨切り術が、重度外反母趾には骨幹部骨切り術か近位骨切り術が選択されます。


・遠位骨切り術(再発率2.5~19%)

外反母趾の手術の内容:遠位骨切り術
外反母趾の手術の内容:遠位骨切り術

・近位骨切り術(再発率10~15%)

外反母趾の手術の内容:近位骨切り術
外反母趾の手術の内容:近位骨切り術


そのほか、関節症による痛みを取り除くことを目的とした、切除関節形成術・関節固定術・人工関節置換術などもありますが、再発や中足痛の発症率が高いため、現在では外反母趾に対する手術療法として選択することは稀です。

その他の外反母趾の手術の内容
その他の外反母趾の手術の内容

どの術式も、手術時間はおおよそ1~2時間ほどで終わります。入院期間は4~5日ですが、退院後は通院によるリハビリが必要で、完治するまでに1~3か月かかります。その間は通常の靴などは履けなくなります。

最近は、DLMO(デルモ)手術と呼ばれる日帰り可能な手術方法も軽度~中等度の外反母趾治療として取り入れられています。ただし、術後は足を2週間ほどギプス固定し、体重をかけることはできません。2週間以降はギプスを外し、インソールを装着して少しずつ体重をかけることを始めていき、通常は2か月ほどで全体重をかけられるようになります。

外反母趾の手術費用

手術費用は、片足およそ10万円前後ですが、手術の方法や入院日数などによって違います。

術前検査や麻酔などの費用もあり、片足でおよそ15~30万円が目安。両足の手術だと、入院期間も延びるので、さらに10万円前後必要になります。

手術には健康保険が適用されますが、差額ベッド代などは自費負担です。

悪化させないために自宅で改善できる方法も

執筆者プロフィール:湯浅慶朗

私自身、老人指定病院で5年間の理学療法士経験があり、大いなる期待を抱いてリハビリテーションを行なっていました。しかし、従来の対症療法中心の施術では、骨の変形を治す根本的な解決には繋がらないことから、失意の中で病院を辞めた経緯があります。

その後「何か歩けない人を歩けるようにする方法はないか」と模索する中で、足指の研究をスタート。長年苦労した末に、ようやく足指を広げて伸ばす「ひろのば体操」で外反母趾の症状を改善することを発見しました。

もちろん、先天的に骨の変形が激しい場合など、手術が必要なケースもありますが、後天的な外反母趾の場合は足の筋力低下を改善することで、手術が必要ないケースも多いものです。

外反母趾は原因を理解した上で、継続的に自宅でセルフケアを行っていくことで、症状の緩和や骨の変形の改善を目指すことが可能な病気です。アーチの崩れは「筋力の低下」という根本原因があり、足の筋力をつけていけば十分にセルフケアで改善できるものなのです。

この連載講座では、具体的な症例を基に、「ひろのば体操」のやり方や「ずっと自分の足で歩ける靴」の紹介など、足元から自らの力で健康になる話を展開していきます。次回は、種類別に外反母趾の症状を紹介します。お楽しみに!

文・イラスト:湯浅慶朗足指研究所 所長) 構成=竹下沙弥香(ハルメクWEB)

取材協力:ひろのば体操 公式サイト

※この記事は2020年6月の記事を再編集をして掲載しています。

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■参照文献
・外反母趾について
1)  Hardy RH,Clapham JC:Observations on hallux valgus:Based on a controlled series.J Bone Joint Surg 1951;33B(3):376-391 
2)  Mitchell CL,Fleming JL,Allen R et al:Osteotomy-bunionectomy for hallux valgus.J Bone Joint Surg 1958;40A(1):41-58;discussion 9-60 
3)  Glynn MK,Dunlop JB,Fitzpatrick D:The Mitchell distal metatarsal osteotomy for hallux valgus.J Bone Joint Surg 1980;62B(2):188-191 
4)  Pique-Vidal C,Sole MT,Antich J:Hallux valgus inheritance pedigree research in 350 patients with bunion deformity.J Foot Ankle Surg 2007 46(3):149-154 
5)  Coughlin MJ,Jones CP:Hallux valgus demographics,etiology,and radiographic assessment.Foot Ankle Int 2007;28(7):759-777 

・外的要因について
1)Shine IB:Incidence of hallux valgus in a partially shoe-wearing community.Br Med J 1965;5451:1648-1650 

・手術について
1)Trnka HJ,Muhlbauer M,Zembsch A et al:Basal closing wedge osteotomy for correction of hallux valgus and metatarsus primus varus:10- to 22-year follow-up.Foot Ankle Int 1999;20(3):171-177 
2)  Veri JP,Pirani SP,Claridge R:Crescentic proximal metatarsal osteotomy for moderate to severe hallux valgus:a mean 12.2 year follow-up study.Foot Ankle Int 2001;22(10): 817-822 
3)  畔柳裕二,井口 傑,橋本健史ほか:外反母趾に対する近位中足骨骨切り術の治療成績 術後 10年経過例.日足の外科会誌 2005;26(2):65-69 
4)  Dermon A,Tilkeridis C,Lyras D et al:Long-term results of Mitchell's procedure for hallux valgus deformity:a 5- to 20-year follow up in 204 cases.Foot Ankle Int 2009;30(1): 16-20 
5)  Karbowski A,Schwitalle M,Eckardt A et al:Long-term results after Mitchell osteotomy in children and adolescents with hallux valgus.Acta Orthop Belg 1998;64(3):263-268 
6)  Fokter SK,Podobnik J,Vengust V:Late results of modified Mitchell procedure for the treatment of hallux valgus.Foot Ankle Int 1999;20(5):296-300 
7)  Madjarevic M,Kolundzic R,Matek D et al:Mitchell and Wilson metatarsal osteotomies for the treatment of hallux valgus:comparison of outcomes two decades after the surgery. Foot Ankle Int 2006;27(11):877-882 

湯浅慶朗

ゆあさ・よしろう 理学療法士。足指研究所所長。ハルメク靴の共同開発者。一生歩き続けられる体をつくる「ひろのば体操」や「YOSHIRO SOCKS」を考案し、東京大学との共同研究や学会発表も実施。著書に『たった5分の足指つかみで腰も背中も一生まがらない!』(PHP研究所刊)など。

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