私らしく、美しく。
フィギュアスケーター伊藤みどり「美しさは内面から滲み出るもの」
フィギュアスケーター伊藤みどり「美しさは内面から滲み出るもの」
更新日:2026年02月17日
公開日:2025年01月21日
※2025年1月実施のインタビューを再掲しています。年齢や情報は当時のものです。
55歳、国際大会で2度目の現役生活続行中
――伊藤みどりさんは現在55歳。福岡県北九州市で家族と暮らし、冬場は地元のリンクで子どもたちにスケートを教えている。またご自身も40代以降、国際スケート連盟公認の「国際アダルト競技会」に出場。マスターエリート・アーティスティック部門での優勝を重ねている。
現役引退後しばらくは競技から離れていましたが、41歳のとき、ドイツで開催される「国際アダルト競技会」に初めて出場したんです。コロナ禍などで中断はありましたが、これまでに7回出場しました。
大人のスケーターが集う競技会で、年齢も20代から90代くらいまでと様々。オリンピックに出たことのある元アスリートも、大人になってから趣味で始めた方も、誰でもフィギュアスケートを楽しめる場です。
現役時代は「飛ばなきゃ」「勝たなきゃ」と日の丸を背負って頑張っていたから、つらいなと思うこともありましたが、今は仲間と一緒にライフワークとしてスケートを楽しんでいます。子どもの頃の「好きだから滑る」という原点に戻ったみたいですね。
と言っても、子どもの頃と明らかに違うのは年齢。今55歳になり、体形もふくよかになりました。更年期とコロナ禍での自粛生活が重なり、体重が戻りにくくなってしまい……。実は競技会に出るときも、見た目の変化を「恥ずかしい」と思う自分がいたんです。
でも、競技会には私よりもっとふくよかな方が出場していますし、70代以上の方だって滑っています。ショッキングピンクとか、カラフルな衣装を身にまとい堂々と氷上で自己表現しているんです。そういう世界を見たら、「50代なんてまだまだ若い!」「大丈夫!」って教えられ、すごく励まされました。
思えば、ずっとコンプレックスの塊だった

私は現役時代から容姿に対してコンプレックスを持っていました。外国の選手は背も高く脚も長くて、見た目も美しい。それに比べて私は背が低くて脚も短く、美人でもない。ヨーロッパの選手が主流だった当時は、リンクに出ただけでブーイングが起こったこともありました。
決して美しいスケーターではなかったけれど、私の持ち味はひたすらに一生懸命に滑ること、そして得意技のトリプルアクセルを跳んで成功させること。それが世界に自分を認めてもらう一番の武器でもあったのです。
フィギュアスケートって、日頃の努力や頑張りだけでなく、普段の行いや心の状態までもが演技に出てしまうものです。その選手のことを知らなくても、言葉が通じなくても、演技を見ればその人の性格とか、表現したいことはだいたいわかります。隠そうと思っても隠せないんですよね。
だから、私自身は常に心の中を清らかにして、明るく元気でいよう、一生懸命でいよう、と思っていました。できるかどうかは別ですが、そう心がけてきました。それはストイックに頑張っていた現役時代も、ライフワークとして楽しく滑っている現在も変わらないことです。
――とはいえ「今でもコンプレックスの塊ですよ」と伊藤みどりさんは笑う。それを受け入れながら自分らしい美しさを表現するにはみどり流の秘訣があった。
伊藤みどりの美・スケーティングは「内面」の充実から

「私らしい美しさ」って何だろうと考えたとき、美しさというものもまたフィギュアスケートと同じじゃないかと思ったんです。いくら着飾っても、内面から滲み出てくるものは隠せません。心の状態が演技に出てしまうスケートと同じように。
人間誰でも悲しい出来事があったり、喜怒哀楽に振り回されたり、卑しいところがあったりするけれど、それでもできるだけ内面を充実させ、他と比べないで満足して生きていけるように頑張ることが大事だと思うんです。
そんな内面が行動に反映され、笑顔につながり、表情を作り、その人の美しさになっていくんじゃないかしら。もちろん、健康も大切ですね。内面から滲み出す美しさと健康、それが私にとっての「美」だと思っています。
私は今だってコンプレックスの塊です。でも背を伸ばすことはできないし、ふくよかな体形も若い頃のように絞ることは難しくなっています。そんなコンプレックスを抱えながら、実は今日、プロのカメラマンさんに可愛く撮ってもらうにはどうしたらいいかなと考えたんです。で、「彼氏がそこにいる!」と想像しながら笑ってみました(笑)。きれいに撮ってもらえて、大成功です!
私は物事をポジティブに置き換えるのが結構得意です。スケートのプログラムでは最初のジャンプを失敗してしまうこともありますが、その失敗を引きずらず、次の演技でリカバリーして何とか辻褄を合わせて最後まで滑り切ることがとても重要です。そういう努力を子どもの頃からずっとしてきたから、物事をポジティブに変換する力が培われたのかもしれないですね。
コロナ禍の自粛生活では、ただ家に引きこもっていても人生つまらない、何か楽しみや癒しを見つけたいと思い、園芸を始めました。自分の名前と同じ“緑”です(笑)。すっかりハマってしまい、今ではスケートに並ぶライフワークになっています。
大好きなスケートがこれからも私の世界を広げてくれる
――国際アダルト競技会は、毎年5月に開催される。41歳のときから連続出場をしてきた大会は、人間・伊藤みどりの挑戦だという。

国際アダルト競技会に出場した直後はいつも、「もう今年が最後」と思うんです。年を重ねるごとに体は変わってきていて、例えば41歳に初めて出たときと54歳に出たときとでは体形も体調も滑る感覚も違っています。あまり無茶をすると古傷が痛んでくるから、体とどう折り合いを付けながら続けていくかが課題になってきているんです。
でも、「もう最後」と言いながら、結局、毎年出ちゃう。出たくなるんですよね。滑っているときは、もうただただ楽しくて自然と笑顔になります。会場の声援も嬉しくて、たくさん力をもらいます。
3歳の頃からスケートをしていますが、私は2回として同じ演技をしたことがないくらい、毎回少しずつ違うんです。ジャンプの質やスピード感、表現力、それに滑るときに感じる風や匂いも。外からは同じように見えるかもしれませんが、私自身は毎回違う新鮮な風に吹かれながら、感性を研ぎ澄まし、ときめきながら滑っている。生きているという実感をすごく味わいながら。
こうやって大好きなスケートを続けられるのは本当に幸せなことだと思います。そのことに感謝しながら、これからも1年1年を大事にして挑戦し続けていきたいですね。「頑張ろう」「頑張ってよかった」という積み重ねが、また新しい世界を広げてくれるのだと信じています。
※2025年1月実施のインタビューを再掲しています。年齢や情報は当時のものです。




